137 仕事報告
今回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。
「さて、各人の仕事結果について報告してもらおうか」
俺達は恭子に連れられ、かつてのデウス・エクス・マキナの研究所兼教会の地下に到着した。
といっても、以前、統括理事会やマキナ教団の関係者と鉢合わせした重要保管室ではなく、その向かいの会議室であった。
比較的瓦礫の少ない会議室には、反乱軍や部の仲間が集まっており、見慣れた顔ぶれに俺はほっと胸をなでおろす。反乱軍リーダー、オズワルトの軍人然とした筋肉質な体と佇まいも久々だ。
恭子いわく、地下にいるのは機械兵の攻撃を避けるためだという。
ともあれオズワルトの命令を受け、最初に報告したのは五十嵐先輩であった。
「とりあえず、僕が調べた諜報機関は統括理事会や教団とは何の繋がりもなかったよ。それどころか、近々反乱軍と協力関係を結ぼうとしているらしい」
「もしその情報が事実なら、我々の軍事機密を守る手段が増えることになるな」
「反乱軍の諜報員は数が不足してますからねえ。以前のように、盗聴器で我々の会話を聞かれる事態は避けたいものです」
「とりあえず、匡輔くんの調べた組織はシロということだね~」
この3週間弱の間に、反乱軍への志願者は一気に急増し、10万人に差し掛かろうとしている。
だが、元・マキナ教団の修道士であったヴェレッシュ・ミクローシュいわく、反乱軍の殆どは『寄せ集め』で『行くあてを失った者たち』ばかり。諜報員に適した人材は数少なく、必要数に届いてないのが現状だ。
そんな俺達に協力する諜報機関があるなら、是非とも取り込みたいのはわかるけど……。反乱軍壊滅を狙うスパイが紛れ込む可能性も高くなるよな。
続いて、山野と部長が報告を行なう。
「では、続いて超絶クールな俺の報告だぜ!」
「さて、晟の口上は置いとくとして……俺達の調べた諜報機関なんだがねえ」
「置いとくなよ!」
相変わらず絶好調のボケをかます山野と、それを軽くいなす部長。
いつも通りの2人の掛け合い漫才を見て、俺は彼らに見えないように隠れて笑う。
「表向きは中立を装っていたけど、秘かに統括理事会の手先として反政府組織やテロ組織の情報を流していた痕跡が発見されたよ」
「そして俺のウルトラ冴えてる頭で見つけたのが、このメモリーカードってわけよ!}
そう言って、山野が懐から取り出したのは、厚さ数ミリに満たない黒いメモリーカード。
すぐさま、山野が反乱軍から借りていた情報端末に差し込まれる。
「ただよ、これ諜報機関のコンピュータだと見れるんだけど、俺達が携帯していた端末だと見れねえんだよ。なんかロックがかかっててさ」
情報端末を会議室にいる全員に見せる山野。
画面には、真ん中に波面を描くように動く赤丸と、この世界の文字で書かれた文章が細々と映し出されていた。
「これは……魔導波長で解除する形式のロックですね」
「魔導波長? なんだそれ」
「魔導石には様々な色があるって話はしたろ? あの色は魔導石特有の波長によって決まってる。そしてこれは、特定の色の魔導石を近づけると解除される仕組みのロックってわけさ」
「ということは、特定の色の魔導石を持った人間しか閲覧できないってことだねえ?」
「ま、そういうことだな。この世界じゃ古典的な情報保護の方法だが、結構色んな組織で使われてるんだぜ」
ある種、カードキーと似た仕組みのセキュリティということか。
つまり、同じ波長を持った魔導石を使えば、俺達でも解除できるということか。
「ここ数日間、付近の洞窟や鉱山で多くの魔導石を回収しましたので、ロック解除は担当の者にやらせましょう」
「でも、諜報機関のコンピュータでは中身を見れたんだよね~? どんな内容だったの?」
「おっ、よく聞いてくれたね。実は『幻視の魔道具持ちの女スパイ』に関する情報が入っていたんだ。ただ、冒頭の文章を確認してまもなく諜報機関のシステムがダウンして閲覧不能になったんだ」
「だから、俺の端末で見ようと思ったら、ロックが邪魔して見れなかったってわけよ」
「だが、件の女スパイに関する情報があったというのは大きな収穫だ。でかしたぞ2人とも」
2人の功績を拍手しながら褒め讃えるオズワルト。
そもそも諜報機関調査の目的はその女スパイを発見することだったっけ。
以前、部長は「戦争は情報戦が8、9割だ」という話をしてくれたことがあったけど、そう考えるとオズワルトの礼賛も大袈裟とは言えなそうだ。
というか、部長、いつの間にこの世界の文字が読めるようになったんだ? まだ異世界転送から3か月も経ってないのに。
「そして救世主については……もはやいわずもがなであるな」
オズワルトと補佐官のトリスタンは、俺の横にいるアリスとアヤノの姿を見て、指令が達成されたことを確認する。
「デウス・エクス・マキナの黎明期の人物を引き入れる事が出来た。これで我々も反攻に転じることができます」
「反攻?」
俺はオウム返しで彼らに質問する。
「実行はもう少し先なのですが、この街の北西100キロに位置するフリューゲルスベルクに近々進攻する予定です」
フリューゲルスベルク……アリスの話では俺の先祖・氏澄が技術者として修業した工業都市だったな。
「あの街には、一部不自然に破壊を免れた地区が存在する。我々はそこに統括理事会か教団の拠点があると考えている」
「ただ、その地区に至るには険しい関門が待っています。今回、救世主様にアリスさんと接触してもらったのは、その関門を乗り越えるためでもあります」
「関門? なんですかそれは?」
「――城壁だ」
「……え?」
オズワルトが発した『城壁』という単語に、俺は一瞬目を点にする。
仮にもこの近未来の世界に、"城壁"が存在するということが何を意味しているのか、この時の俺には全く想像ができなかった。
次回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。