133 氏景、久方ぶりの目覚め
今回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。
「……気づいたか、砺波氏景」
長い長い夢のあと。俺はアリスの声で目を覚ました。
「あ……れ、ここは」
「聖光真聖会の総本山じゃ。その様子だと、意識の上ではすっかりご先祖様になりきっていたようじゃな」
「……」
アリスの言葉で、俺は現実の自分と回想の先祖がごっちゃになっていたことに気付く。周囲を見ても、瓦礫の山は一切見当たらないし、今いる和室もペトラスポリスの街にあるはずのないものだったからだ。
随分と長い回想だった。仮想現実の世界に飛び込んだかのように、先祖の行動がリアルタイムで映し出され、そこがあたかも自分にとっての現実のよう。俺は改めてアリスの力を思い知った。
しかし、まさか自分の先祖が異世界「ギーメル」に来ていたなんて。そしてヨルギオスさんやクロリス・イオカスタ姉妹の先祖と戦っていたなんて。
だが何より驚きだったのは、俺の能力がアリスによって先祖に与えられていたという事実だ。
「なあ、アリス。なぜあんたは俺の先祖に力を授けたんだ? わざわざ、その……デメトリオスだっけ。その男の装置を止めさせるためだけってのは、ちょっと納得いかないんだが」
「ふむ、お主の言う事も一理ある。だがそれを語る前に、食事をとってはどうじゃ? 長い眠りの間に筋力が衰弱しているじゃろうて」
「うっ……確かに頭がフラフラする……。それに身体も」
「なにしろ、今回は10日近くも眠っておったからのう。体にあまり栄養も残っておるまい。すぐにアヤノたちに食事の支度をさせよう」
そんなに長く眠っていたのか。それじゃあ、体力が衰えるのも無理はないか。
しかし、あれほど長い回想だったにも関わらず、肝心なことは殆どわからないままだ。
なぜ自分が「救世主」に選ばれることになったか、神を超える力を持っているのか……。それはきっと、彼女自身の口から語られるのだろう。
◆◆◆◆◆
その後俺は、寝室に来たアヤノや他の巫女に寄りかかりながら、足取り重く食堂へと向かい、食事をとる。
どうやら今は普通の昼食タイムだったようで、総本山にいる巫女の多くがあちこちで食事をとっていた。
ちなみに食事メニューは、日本でも普通に出てきそうな一般的なタイプの焼き魚定食であった。
「そう言えば、部長の姿が見えないな……」
「俊さんなら、9日前に山を下りられましたよ」
「あれ? でも俺の能力について色々聞きたいからって、ここに来たんじゃ……」
「どうやら他にお仕事があるみたいで、氏景さんが目を覚まし次第、連絡するよう言伝を預かりました」
そうだった。そもそも「空想世界研究部」の部員は、反乱軍幹部のトリスタンの命令で、それぞれ担当の他組織の調査を任されていたんだっけ。さすがに10日以上も眠ったままだと、記憶が怪しくなってくるな……。
にしても、久々の飯がすごく旨い。
俺は普段魚より肉派なのだが、魚の塩気が良い塩梅で素材の味を引き立たせていて、ご飯が止まらない。料理の腕もさることながら、空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。
思い返せば、反乱軍の軍用食って肉ばかりだったから余計おいしく感じるのかも。
「さてこの後なんですが、いよいよお待ちかねの子作りを私と一緒に……」
「その前に、わらわは氏景と話がある。それまでお主は修行に励んでおれ」
「ええ? さすがに10日以上お預けだと、我慢が大変……」
「修業が足らぬ証拠じゃ。なんなら、巫女長に言いつけてやっても良いのじゃぞ?」
「うっ……」
あのマイペースな面があるアヤノが弄ばれるとは、アリス(ver.本性表し)は凄い人(?)なんだな……。伊達に300年以上生きてないってことか。アリス(ver.不思議ちゃん)だと立場が逆転するのにな。
というか、アヤノがだんだん山野に見えてきて仕方がない。
「ちょっと聞きたいんだけど、アリスって2つの人格を使い分けていたりするのか? 今の状態と、その……可愛らしい女の子状態と」
「その理由も、後で話すことに関係がある。今はゆっくり食事を楽しむがよい」
「もう一人の俺」と関係があるのか。確かに普段と俺と能力発動時の俺も言うなれば2つの人格だし、関係がないほうがおかしいよな。
そして食事終了後、俺はアリスと2人で寝室に戻っていった。
次回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。