130 魔導石破壊作戦
今回の執筆者も呉王夫差です。
「これがデメトリオスの魔力の根源か!」
巨大な装置に取り付けられた、これまた巨大な白い岩――もとい魔導石。
滅びの交響曲発動時と同じ、白い光を放ちながら城の真ん中に鎮座していた。
「ただちに破壊に取り掛かる。ソティリオス殿から貰い受けた爆弾がまだ数多くある故、タデウシュ殿とユスティナ殿にも設置を手伝ってもらいたい」
「わかった」
「了解」
氏澄は、胸は腰、さらには腕や脚から100個以上はあろう大量の爆弾を取り出しコヴァルスキ夫妻に渡す。
「……て、こんなに沢山持ってたのかい?」
「相手が巨大な岩と聞き及んだ故、かような量と相成った」
「これほど多くの爆弾、取り付けてて重くはなかったのか?」
「……正直、全身が辛かったでござる」
一瞬、顔が青白くなってげっそりする氏澄。
しかし時間の猶予はない。すぐさま気を取り直し、3人は爆弾を巨大な魔導石に取り付ける作業に取り掛かった。
数分後、火事場の馬鹿力というべき驚異的なスピードで取り付け作業が終了。導火線に火をつけ、彼らは急いで大広間から脱出し、廊下を通って別の部屋へと逃げ込んだ。
「う、上手くいくかな?」
「わからん。拙者らは天に運を任せるのみ」
そして十数秒後、大広間の方向からけたたましい音が鳴り響く。3人は作戦成功を祈って、両耳を手で塞ぐばかりであった。
音が静まった後、彼らは耳から手を離し、急いで大広間へと向かう。
「……やったか?」
大広間に再び入った3人。
周囲には、粉々に砕け散った白い石と、装置の破片が無数に散らばっていた。
一同は成果を上げたことに、歓喜の声を上げてガッツポーズする。
「よっしゃあ! これで滅びの交響曲を止めたぞ!」
「まずは一段落。このままデメトリオスを討ちたいところだが、一旦引くでござる」
「まだ城内に兵は沢山いるからな。油断は禁物だ」
作戦成功を見届けた3人は、休む間もなく執務室へと向かっていった。
道中、爆発音を聞いて駆け付けた兵士が再び彼らを襲うが、勢いづいた彼らの敵ではなかった。
「ひいいっ。来ないでくれえ!」
剣や銃を無闇にふりかざす鎮圧軍を、次々といなしていく一同。
しかし、相手の兵士達の様子がおかしいことに彼らは気づく。
「タデウシュ、気づいたか?」
「うん。僕達を襲おうとしている割には、隊列がまったく整っていない。むしろ何かに怯え、へっぴり腰で逃げているように見えるね」
大広間に向かっていた時は、曲がりなりにも統率のとれた行動を取っていた鎮圧軍。だがここにきて、まるで敗残兵の様相を呈するようになっていた。
きっと、滅びの交響曲を阻止されて、臆病風に吹かれたのだろう。彼らはそう思っていた。
ところが、事態はそう簡単なことではなかった。
鎮圧軍の様子を見届けている途中、天井の上から耳をつんざく爆音が彼らの耳に届いた。
「な、何事にござるか!」
警戒態勢を強める3人。すると天井が急激に割れ、彼らの後ろで盛大に石材が崩落しはじめたのであった。
「こ、これは!?」
「まさか、爆弾の威力が強すぎたのか?」
「無駄口をたたくな。今すぐ逃げないと、死ぬぞ!」
ユスティナの叱咤で、駆け足で執務室を目指す3人。この異常事態に、鎮圧軍兵士も彼らに構う事なく下の階へと逃げようと必死になる。
そして執務室に到着すると、急いで脱出口を開いて中へと進んでいった。
「まさかこんなことになるなんて……。もう少し爆弾の量や配置を考えるべきだったのかな?」
「いや、あの爆薬の量では城全体を破壊するには至らない。もしそうなら、大広間に通じる廊下や扉はとっくに塞がっていたはずだ」
冷静に事を分析するユスティナ。しかしそうなると、何が城の崩落を招いているのか? 彼らは答えを見いだせないでいた。
そして、一番前を進んでいた氏澄の足が急に止まる。
「いてっ。ちょっ、氏澄。急に止まらないでよ……」
「静かに致せ。ここも塞がっているでござる」
「なに!?」
氏澄の足の先。そこには同じく壁や天井の石材で塞がった脱出路の姿があった。
「でもここを進まないと城の外に出られないんじゃ……」
「そうだな。爆弾も使い果たした今、城門まで強引に突破するわけにも行かないだろうし」
「是非もなし。今一度執務室に戻ろうぞ」
城全体が潰れゆく中、項垂れる暇はない。彼らはすぐに踵を返し、執務室へと戻って脱出作戦を考えた。
そこで氏澄はある提案を行なった。
「鎮圧軍の統率は乱れてござる。逃げ惑う兵も数多い。ならば、拙者らのみでデメトリオスを討ち果たすのは難しくないのではなかろうか?」
「つまり、城から脱出はしないと?」
「否。デメトリオスを討ったのちは、縄を用いて城の下に脱出する算段にござる」
「縄……つまりロープか。それなら、以前私が楽器の点検でペトラスポリス城を訪れた際、屋上の回廊近くの部屋に兵士用のロープがあったはず」
「ならば、そこへ向かおうぞ」
一行は、ロープのある部屋を目指して、そしてデメトリオスの居場所を目指して再び進み始めた。だが道中、一行は言い知れぬ胸騒ぎを抑えきれずにいた。
次回も呉王夫差が執筆します。