129 城内への潜入
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
しなやかに、そして優雅に振られる1本の指揮棒。それに合わせるように奏でられる、トランペットやチェロなど様々な楽器の音色。
そして、それらに呼応するように城の前で発生する光の線。その光は、ある一点を集まりつつあった。
民衆は何が始まろうとしているのか分からず、ただソティリオスの指示に従って魔法障壁を展開する。
しかし、肝心の司令官・ソティリオスは額や頬に汗を滲ませていた。
「マズいね……このままだと急ごしらえの魔法障壁じゃ、すぐに破られてしまう。しかし、弟達にアレを行使する準備があったというのか?」
「ソティリオス殿。敵方は何をしようと企んでござるか?」
「……滅びの交響曲。我がエグザルコプロス家に代々伝わる、最終兵器ともいうべき魔法さ。ひとたび行使されれば、おそらくこの街は完全に灰燼となってしまうだろう」
「なんと!」
ぺトラスポリスの為政者の地位を簒奪したデメトリオス。
しかし街に溢れるは彼の暴政に抗議する反逆者ばかり。彼は生まれ育った街を反逆者ごと消し去るつもりなのか。
「……氏澄。頼みがある」
「はっ」
「城内に潜入してほしい。そして、どこかに巨大な白い魔導石が置かれているはずだから、それを破壊してきてほしい」
「何故、左様にお思いか?」
「滅びの交響曲を使うためには、巨大な魔導石が必要だ。しかも十分に威力を発揮させるためには装置が必要になる。きっと城の中央部にあるはずだ。発射までには時間があるし、今ならまだ間に合う」
「承知仕った」
城内への侵入には危険が伴う。未だ評議会を敵視する兵士も大勢存在するうえに、防御用の兵器や罠もあるかもしれない。
だが、彼らに作戦実行を躊躇っている余裕はない。氏澄は二つ返事でソティリオスの作戦を引き受けた。
しかしながら城内侵入には問題もあった。
「されど、如何にして城内に侵入致す? 包囲は始まったばかりで、当然開門には至っておらぬだろう」
「門を通る必要はない。このペトラスポリス城には、万が一陥落した際に脱出する秘密の通路があるんだ。今、僕達のいる真正面の壁を押すと通路が現れるから、そこを辿って行けば執務室まで一直線だ」
「相分かった。ただちに急行しようぞ」
困難に思われた城内への潜入も、かつての城の住人ソティリオスの助言もあり、いくぶん楽になった。
そして氏澄は近くにいたコヴァルスキ夫妻と共に、潜入作戦を開始した。
◆◆◆◆◆
助言通り、城の東側正面には秘密の通路があり、それは奥へと続いていた。
そして氏澄とコヴァルスキ夫妻は、せまりくる攻撃の危機の中、急いで通路を駆けていった。
「なかなか、長いでござるな! 執務室とやらはまだか!」
「お城の中に入ったのは初めてだけど、想像以上に広いね」
「無駄口を叩く前に、さっさと足を動かせ」
ユスティナの叱咤を受け、脚を動かすスピードを上げる氏澄とタデウシュ。
緊急脱出用の通路と言う事もあり、罠は一切張られていないようであった。そして中心部が近づき、急傾斜の階段を登ると、金属製のハシゴが上部へと続いていた。
執務室は近い。そう確信した3人は、疲労感をこらえて手や足をひたすら上へ上へと動かしてく。
だが、最後の最後、ハシゴの一番上に到達した所で関門が待ち受けていた。
「あれ、出入り口が閉まっている……?」
真っ先に一番上に辿り着いたタデウシュであったが、固く閉じられた脱出口に苦戦し、いくら腕に力を入れても開ける事が出来ない。
「そんな、ここにきて……」
すると、氏澄はハシゴの反対側に回ってタデウシュの正面にくると、腰から謎の黒い鉄球を取り出して脱出口の扉に取り付ける。
「そ、それは?」
「タデウシュ殿! ユスティナ殿! 下がれぃ!」
「えっ?」
氏澄の指示で、訳も分からずハシゴを下に降りるコヴァルスキ夫妻。すると氏澄も鉄球からぶら下がった紐に火をつけ、急いで下に降りる。
そして数秒後、ものすごい轟音と共に脱出口で爆発が起こり、周囲の壁の破片や粉が3人の元に降り注ぐ。
耳をふさぐ一同。そして煙が消えると、脱出口から明るい光が彼らに差し込んできた。
「おお、脱出口が……。あれは爆弾だったのか」
「ソティリオス殿より貰い受けた物にござる。さあ、さらに奥へ参ろうぞ!」
潜入作戦の直前、氏澄はソティリオスから「これを持って行くといい」と言われて、いくつか爆弾を渡されていた。それを使って強引に突破したのであった。
執務室に抜けたのち、3人は城の中央部にあると思われる魔導石を探して奔走する。
途中、城内の兵士による妨害を受けることはあったものの、相手の数が少ない事と、氏澄の華麗な剣術もあって、すぐさま突破する。
「さあさあさあさあさあ! この城に真の武者はおらんのか!」
異世界「ギーメル」に来るまでは、藩の武道場でしか刀を振るったことがなかった氏澄。だがこの数か月、モンスター討伐や異界の戦場を経験したことで、”謎の力”を使わない状態でも彼の武は相当磨かれていった。
そして、彼の顔つきも精悍な一人の武士と呼べるものに変貌を遂げていた。
そうこうしているうちに、3人は城の中央部にある大広間に到着した。
「こ、これは……」
広間で彼らが見つけたもの。それは装置に取り付けられた、大広間の天井や両側の壁に届かんばかりの巨大な白色の石であった。
次回も企画者の呉王夫差が執筆を担当します。