128 兄弟の争い
今回の執筆者も呉王夫差です。
「私こそ、先代領主に変わってこの街を治めることになったデメトリオス・エグザルコプロスである。さあ皆の者! 私に跪き、私の血肉となれ!」
民衆を見下しながら、声を上げるデメトリオス。
それと相対するように、兄のソティリオスは「ふざけるな!」「親兄弟まで殺すなんて……」という民衆の反発や悲鳴を背に、弟に大声で言い返す。
「随分な言い様だね、デメトリオス! 私は追放された後も、君ならきっとこの街を栄えさせてくれると心のどこかで思っていた。でもそれは間違いだったようだ」
「ほう、兄上がお戻りになってるとは知らなかった。やはり軍才では兄上が上か。だがそんなことはどうでも良い」
「君は街の仲間を民族が違うからと差別し、街が荒れるきっかけを自ら作り、あまつさえ自分の父や妹に手をかけて恥ずかしいとは思わないのか!」
「……ふん、異民族の事など知ったことではないが、街の荒廃と親兄弟の始末は確かに汚点ではあるな」
ソティリオスの心からの怒りの声に耳を傾けるデメトリオス。しかし、その顔はニヤリと口角を上げ、目が笑っていない悪魔の笑みを浮かべていた。
「ならば、その汚点を知る者どもをこの場で一網打尽にするまでよ」
そう言って彼は、右手に細長く白い棒を持ち、城下に集まる反乱軍に向かって演奏直前のオーケストラの指揮者のポーズをとる。
そして彼の周囲には、隊列を整えた軍楽隊が楽器を構えていた。
「なんだ? これから演奏でも始まるつもりか?」
「もしや、かのおどろおどろしい音色を響かせる気でござるか?」
戦場を前にとるとは思えない鎮圧軍の行動に、様々な憶測を立てながらざわめく評議会兵士。
しかしソティリオスは、その行動が何を意味しているかを悟り、銃を片手にデメトリオスを狙撃する。
「させるか!」
ドォン、と轟く一発の銃声。
狙いは正確。銃弾はデメトリオスの右手を撃ち抜いた……はずであった。
しかし、弾はデメトリオスの手前1メートルのところで、「見えない壁」によって全く別の方角へと弾き飛ばされた。
「なっ……魔法障壁か。ならば、こちらも魔法障壁を張ろう! 魔導石を持っている人は、直ぐに最前線に移動するんだ! 急げ!」
「はっ!」
一瞬、うろたえるソティリオスであったが、彼も歴戦の名将の一人。
ただちに気を取り直し、評議会兵士に新たな指示を送る。
「ふっ、無駄だ兄上。これから私達が奏でる曲に愚民どもが形作る魔法障壁など意味を為さない」
けれど、デメトリオスの顔に焦りはない。ひたすら余裕の笑みを浮かべ続けている。
「さぁ、奏でよう。滅びの交響曲を」
大胆不敵な表情で、鎮圧軍兵士を鼓舞するデメトリオス。
そして彼の指揮棒が、静かに振られた。
次回の執筆者も呉王夫差です。