126 軍事の天才、ソティリオス現る
今回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。
氏澄が目覚めてまもなく、評議会は氏澄とエルネスタ、アリスに必要最小限の護衛をつけ、ほぼ全兵力を挙げて街の中心部目がけて突撃を開始した。
一方、戦略面と精神面の重要な要であったキリロスとレヴァンを失った鎮圧軍は、潰走を続けていた。
装備の面では鎮圧軍が上。
だが、デメトリオスの政治に不満を持つ住人が評議会に次々と参加。外国系でない住人までもが彼らの意志に突き動かされ、デメトリオスに反旗を翻す。
一時、完全に補給を断たれていた評議会は息を吹き返し、逆に補給路を奪われた鎮圧軍は士気が低下。鎮圧軍からも離反する者が相次いだ。
「皆! 城までもう一歩だ! このまま一気に攻めあがるぞ!」
「おお!」
ベテランの軍指揮官がついたことで大系的な戦術をとれるようになった評議会。3日後にはぺトラスポリス城を包囲するに至った。
「思ったより長くかかっちゃったな……。ここに来るまでに」
「だが、残るはデメトリオスと外国人差別を捨てきれない愚かな兵が残るのみ。それにまもなく到着するはずだ、援軍が――」
ユスティナが城を見上げながら口角を上げてそう言うと、無数の馬に乗った人影が評議会兵士たちの後ろからぞろぞろとやって来る。
そして先頭にいる遊牧民の衣装を纏った男の顔が見えてくると、評議会兵士は一斉に歓喜に湧いた。
「待たせてしまったようだね、皆」
「あ、あの方は……」
「そ、ソティリオス様だ……ソティリオス様が来てくださったぞ!」
「う、うおおおおおおおおおおおおおっ!」
騎乗する兵士を率いていたのは、デメトリオスの兄、ソティリオス・エグザルコプロス。
異国・トラボクライナの民族衣装に身を包んではいるが、ぺトラスポリスの住人はそれが誰なのかすぐにわかった。
「愛する住人諸君、ただいま。どうやら僕の弟が酷い仕打ちをしでかしたようだね」
「ソティリオス様、ようこそお越しくださいました。私達一同、ソティリオス様の援軍を心待ちにしていました」
「どうか、デメトリオスを懲らしめてやってください」
「うむ、了解した」
二つ返事でコヴァルスキ夫妻の願いを聞き入れると、ソティリオスは評議会兵士に向かって高らかに、透き通るような声で檄を飛ばす。
「さあ行こうか。明るい未来を開くために!」
「ははあっ!」
戦意が極限まで上昇した評議会。ソティリオスの天才的軍才が付加されたことで、鎮圧軍の戦略的敗北は決定的となった。
「ところで、噂の“彼”は何処にいるんだい? ここには見えないようだけど」
「“彼”は今、魔力虚脱状態から回復するため後方に待機させています。まもなく、ここに到着することかと」
「そうか、それは楽しみだ。豊瑞皇国の武人なんて滅多に見られないからね。それに、久しぶりにワルワラとも会いたいからな」
「……そうですね」
戦場を前に嬉々と話すソティリオス。しかし、彼はワルワラの死を知らない。
今ここで真実を伝えることで、彼の戦意を殺いでしまわないかと考えたユスティナは、表情を曇らせながら受け流す。
話すのは、すべてが終わってからにしよう。彼女はそう決意した。
次回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。