125 仇討ち
今回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。
「……起きて……起きて……」
それからどれほどの時間が経ったのであろうか。血と煙の臭いが依然漂う中、氏澄はまた目覚めた。
視線の先にいるのは継ぎ接ぎだらけの服の男性に、青髪の女性。そして幼子を抱える水色の羽をはやした少女。
トラボクライナに派遣していたコヴァルスキ夫妻と、エルネスタを抱くアリスであった。
「ようやく目覚めたかい。どうやらまた例の力を使って暴れ回っていたみたいだね」
「ここは……何処にござるか?」
「処刑場近くの建物だ。お前が大量の死体に囲まれながら寝そべっていたから、ここに運んできた」
「おー、たいへんだったんだぞー」
「左様にござったか……」
それから、続々と建物内に入っていく評議会の面々。どうやら、彼らも氏澄の容体を心配していたようだった。
氏澄は背中に手を当て、踏ん張りながら体を起こそうとする。
「して、タデウシュ殿。トラボクライナ軍は動いてくれたでござるか?」
「ああ。しかも、率いるのは亡命中のソティリオス様だから、結構期待が持てると思うよ。僕達と久しぶりに再会して『故郷のためにもう一度武を存分に振るおう』って約束してくれたし。ただ……」
「ただ?」
「直進すると地雷原にぶつかるって情報があったから、一旦西の方に迂回してからくるって言ってたよ。到着するのにあと3日はかかるかも」
「そうか……」
「それより、そちらの戦況はどうなのだ? コロナやワルワラは元気なのか?」
「……!」
何気ないユスティナの質問。しかし、今の氏澄にとってこれ以上に答えづらい質問はなく、なかなか口を開こうとしない。
「……」
「どうしたのだ氏澄? まさか……」
だが隠し通せるものでもなく、氏澄は声を詰まらせながら皆に向かって話した。
「その2人は……殺され申した」
「何だって!?」
「『停戦合意』という罠につられ、鎮圧軍に式典と称して処刑場におびき寄せられたが挙句……コロナ殿は炎で焼かれ、ワルワラ殿は無数の銃弾で木っ端微塵に……」
「そんな……」
氏澄が伝える冷酷なまでの事実に、評議会のメンバーで涙を流さないものはいなかった。
「コロナの影の支えと、ワルワラの兵法があったからここまでやれたのに……。ここにきてそんなことって……」
「鎮圧軍、人としての心はどこにいったのだ……」
タデウシュは目を覆い、ユスティナも目を閉じて彼女らを偲ぶ。
そして氏澄は新たな決意を彼らに述べる。
「皆の衆、かの両名の死は拙者が負うべき責め。だが、自らの力のために切腹が許されぬ以上、拙者が為すべきはただ一つ。
--デメトリオスの首を討ち取る」
「氏澄……」
「されど、拙者1人の力だけでは限界がござる。そこで、皆の力を今一度貸してほしい」
「もちろんだとも!」
「このままじゃ、コロナさんとワルワラさんも報われねえからな! やったるぜ!」
評議会の長として、そして1人の武士としてデメトリオスを討つと宣言した氏澄。
それを聞いて、崩壊寸前であった評議会の結束が再び固まり、決死の覚悟が生まれる。もはや、寄せ集めの集団とは呼べない強い覚悟が……。
そして彼らの結束と行動は、外国系ではない他の住民の心をも動かすことになる……。
次回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。