12 才能考察
今回の執筆者は、月蝕いくりさんです。
「……――で、つまり彼は――……」
「や……り、神の器…………。魔導石に触れず……魔法を……」
どこか暗いところから、俺はそんな声を聞いていた。
興奮し過ぎじゃないか、と少し心配になるくらい熱のこもった声だった。
ああ、倦怠感が体を支配している、もう少しこのまま…………、という俺の願望は続いた聞こえてきた部長の声で、強引にねじ伏せなければならなかった。
「では、いっそ解剖してみますか」
「おはようございますっ!」
状況を改めて見てみよう。
屋根はある、壁もある。だが、どこか急造感が否めない狭い場所だ。
恭子ほか、護衛に来てくれたメンバーは皆驚いた顔をしているのに対し、部長は何故かドヤ顔をしていた。
「ほら、起きたでしょう?」
確信犯だったのか、部長…………。
機械兵を倒した後に感じた不安は、するだけ損だった。仲間の体に異変が起こったとしても――――
「さて、順番的に次は誰の能力が覚醒する番だろう」
「ふ、オレは女の子にモテモテになる才能なら開花してるぜ!」
「……とりあえず大丈夫か、氏景」
まともなのは五十嵐先輩だけなのか。
部長、こちらを見る目が怖いデス。山野、お前の妄想が既に才能だよ。
「普段の運動量から考えて、あんな動きをした後では倒れもするだろう。準備運動も足りなかっただろうからな」
でも五十嵐先輩のツッコミも、少しばかりずれていた。
もう少しこのギャグパートを楽しんでいたいところだったけれど、現状がそれを良しとはさせてくれないらしい。
熱のこもった声で、オズワルトが話しかけてきた。
「やはり我々の目に狂いはなかった! 彼らこそが救世主だ、今こそ反撃の狼煙を上げるとき!」
「げほっ、ごほっ!」
「リーダー、背中を叩くのはやめてあげてください。“魔力虚脱状態”にある身には、辛過ぎる刺激かと」
諫めるトリスタンも、声は冷静とは言い難かった。
メガネの位置をずらしてこほんと咳払い。状況説明と対応が、彼のお仕事だ。
「森の中にまで機械兵が現れたということは、すなわちデウス・エクス・マキナが大いなる敵対勢力に感づいたということを意味します。その上で要所要所に機械兵を送り込んで、魔導石への接触を妨害している」
また説明で置いてけぼりを喰らいそうだ、と思った矢先に別のところから助け舟が来た。
「氏景さんは今、体内の魔力を使い過ぎて肉体が追いついていない状態にあります。なので、ドクターストップです」
恭子だった。研究員と同じような制服の上に白衣を纏っていた。
伸ばされてきた細い指が俺の額に触れると、そこからじんわりと温かい何かが流れ込んでくる。
「自然回復でない魔力の供給は効率が悪いのですが、ごめんなさい。時間が無いので、応急処置的に使わせてもらいます」
恭子はこのメンバーの中では、医療班と言ったところなのだろう。
それにしても、仲間が何人も死んだのだ。その現実を目の当たりにしても、前に進み、生き残ろうとしている。
状況がわからずとも、力の正体がさっぱりわからなくとも、俺は心の底からこの人たちを『助けたい』と思った。
「氏景、休んでいる間の暇つぶしをあげよう」
にっこり研究者スマイルを浮かべた部長。
既に頭の中では、俺の事を解析にかけていることだろう。
「機械仕掛けでも神は神だ。神に対抗するには、何になれば良いと思う? ――回復するまでの宿題だよ。頑張って考えてくれたまえ。ふふ、ふふふ…………」
……うっかり間違った答えを告げたら、何をされるんだろう。
と言うか、一体何をする気なんですか、そのワキワキさせた手は。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。