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夢を抱く少年 先達の軌跡 Glorious Feats (再投稿版)  作者: 磯別学園高校『空想世界研究部』なろう支部
114/194

114 勢力基盤の維持

 今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。

 戦わずにさらなる勢力拡大を果たした氏澄達。すると、「職人の街」を象徴するある現象が起こった。


「さてと、この施設の設計はこんなもんでええかい?」


「う~ん、砲身の口径はもう少し短くても良いな。狭い通りが多い分、長い砲身はかえって戦いづらいから」


「ああ、言われてみればそうやな。材料も限られとるさかい、仕方あらへんな」


 外国人街の一角にある武器の製造所。そこでは1000人以上の職人が、炉の熱気にも負けず50門近くの大砲を製造していた。

 職人達は皆、手に額に背に、大量の汗をかいて仕事に励んでいる。


「熱さの極みにござるな……」


「凄い数の武器職人さんがいらっしゃいますね。ぺトラスポリスの『職人の街』としての一面がひしひしと伝わってきます」


「全員が専門の大砲職人じゃないんだけどね。剣や槍の職人もいれば、僕のような建築技師もいる。それぞれの専門分野を生かして、うまく協力で来ているみたいだ」 


 もともと国境の街としても発展した都市、ぺトラスポリス。その地理的性質上、戦争が絶えない地域でもあった。

 よって数ある職人の中でも、武器職人は数も質も突出して多く、武器の特性を衛兵よりも理解している人も多い。これが反乱初期における勢力拡大の大きな要因となっていた。


「おい、タデウシュ! 砲弾の生産はどうなってんだ?」


「まだまだってとこかな。職人も道具も揃っているけど、火薬がどうも足りなくてね。ワルワラさんが補給路を確保してくれれば、すぐにでも……」


 どれだけ威力の高い大砲も、弾がなければただの鉄の塊。反乱開始までの準備が足りず、火力を最大限発揮するための火薬が不足していた。

 このままでは砲弾の生産は到底間に合わない。だが――


「皆ぁ! いい知らせだぞ! キリロス様が外部からの補給路を確保し、火薬の原料がもうすぐ届くってよ!」


「ホンマか!?」


「おおおおお! 神が俺達に味方してくれてるぞぉ!」


 より詳しい報告によると、キリロスの部下がぺトラスポリスより東方の都市を幾つも回った結果、全ての都市が協力を約束。その印に弾薬の原料と軍事力の提供に合意したとのこと。

 彼らの元に次々寄せられる吉報。万事上手く進み、彼らの士気と勢いはもはや天井知らずであった。


「どうやら周辺都市も、デメトリオスの統治に不信感を持っていたようだね」


 周辺の動向を好意的にみるタデウシュ。ところが、氏澄とコロナはこの報せにある疑問を抱いていた。


「あの、氏澄さんにタデウシュさん。なんか上手く行き過ぎている感じがしませんか? 普通反乱を起こされたら、国としては私達の鎮圧に向かいそうなものなのに……」


「あ、言われてみれば……」


「キリロス殿の名声は恐らく国中に届いてござろう。なればこそ周辺の街は共闘を決めた。されど拙者は、何か陰謀めいたものを感じてならぬ」


「陰謀めいたもの? それは一体……?」


「分からん。だが現状、キリロス殿と手を組んだ方が利は大きい。ワルワラ殿の申す通り、あの者が何かを企んでいるのも見込みに過ぎん」


 事実、キリロスあっての大きな協力関係。それをみすみす手放すのは完全な不利益でしかない。彼らにとっての最優先事項は、あくまで「デメトリオス打倒」なのだから。

 だがキリロスにある危険なカリスマ性の存在を否定できない以上、対応策を別個に用意する必要性に迫られた。


「こうなると、キリロスさんに頼らない仕組みを作ったほうがよさそうですね」


「ならば、デメトリオス討伐後の政の仕組みを作ることこそ肝要なり」


「じゃあ、トップは間違いなく氏澄だな。デメトリオスに傷を負わせた功績だけで、皆も賛成してくれそうだし。でも僕達はお役人さんじゃないから、どう統治体制を築いたら良いものか……」


 反乱の主体は、あくまで下町の職人。彼らにも親方-職人-徒弟から構成される徒弟制度はあるものの、それは工房内という極めて狭い範囲でしか通用しない。

 政権の支配者側に立ったことのない彼らの殆どは、政治の仕組みをよく理解していなかった。

 

 だが、この2人は違った。


「でしたら、以前私は故郷で役人をしていた経験がありますので、少しはお役に立てるかもしれません」


「拙者も日ノ本で政を担っていた者の1人。微力ながら期待に沿おうぞ」


 数年前までモントドルフ村で役人をしていたコロナ。武士として、加賀藩の職制を担う一族で育った氏澄。

 政治体制づくりに2人の力が不可欠なのは明白であった。


「そうだね、皆の意見を合わせれば上手くいくかもしれないね」


「しかし、コロナ殿が役人だったとは驚きにござるな」


「ええ、マキナを家族の一員として受け入れられたのも、役人としての収入があったお陰でして……。エルネスタが生まれてからは辞めたんですけど」


 出産に伴う女性の辞職が問題視されるようになった21世紀の日本と違い、この時代の「ギーメル」は未だ出産退職者の存在は一般的であった。


「ともあれ、猶予はあまりござらん。早急に拙者らの拙者らによる政を始めようぞ」


 氏澄の一言に、強くうなずくコロナとタデウシュ。かくして、政権奪取を意識した体制構築は着々と進められていった。

 次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。

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