113 勢力基盤の安定
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「あの……ユスティナさんが頑張っている間に、私達も出来ることをしませんか?」
ユスティナが情報収集に向かった後、コロナは残ったメンバーに対して提案した。ただ待つだけじゃなく、これからの戦いに備えようと考えての事だった。
「ならばまずは、基盤を固めに行かん」
「そうだね。支持基盤を固めないと、持久戦になったら僕達は一気に内部崩壊しちゃうからね」
「でも、支持者はどんどん増えているのに、わざわざ固める必要ってあるのでしょうか?」
「基盤なくして恒久的な支持なし。現状の拙者らは、勢い任せの烏合の衆なり」
「そういうこと。……って、僕の意見もワルワラさんの受け売りなんだけどね」
そう言ってタデウシュが見せた紙には、勢力維持に必要な策が幾つも書かれていた。
「ええと……自分達の勢力範囲内で、まだ反乱への参加を躊躇している人達を引き込んだほうが良い、とありますね」
「幾ら領主さんを恨みに思っても、社会をひっくり返す覚悟を持って行動する人は多くはないからね。ここは僕達が積極的に呼びかけるしかないんじゃないかな」
当時のぺトラスポリス外国人街の人口は約12万人。一方、現時点であらゆる形で反乱に参加しているのは約2万人。外国人全体の2割に過ぎない。
このままでは持久戦になった時に安定した支援を受けられず、相手方に切り崩される隙が出来るのは確実。仮にデメトリオスを打倒したとしても、氏澄達の政権は短命に終わる。
「ならば、近くの家に参らん」
こうして氏澄達は現在の参加者とともに、外国人街の中で呼びかけを始めた。
◆◆◆◆◆
「拙者、砺波松之助氏澄と申す者にござる。貴公も民を慈しまぬ男を討ち果たしに参らんか?」
「お、おお、あんたが噂の男か。確かにデメトリオスは領主代行に相応しくない男だけど、俺達がどうこうできる相手じゃ……」
「否、皆の者の力あらば、天は必ずや拙者らに味方してくれようぞ」
「でも……あのデメトリオスッスよ? 彼の暗黒の旋律の前には万人がひれ伏すって言うけど……」
「だ、大丈夫だと思いますよ。氏澄さんには暗黒の旋律は通用しないのですから」
「それに、デメトリオス打倒を決起する人達はどんどん増えている。武器も確保している。どのみち彼の恐怖政治に明るい未来はないし、参加するなら今のうちだよ」
積極的に勧誘する氏澄達。彼らの必死の呼びかけに未参加の住民達も心が揺れ動いたのか、周囲の人とコソコソ話し始める。
その間に彼らは言葉でさらに畳みかける。
「拙者らの行わんとするは世直しにござる。民のみならず同じ一族をも虐げる鬼から、街を救おうではないか!」
「……!」
ただ真っ直ぐな瞳を向けて声高に演説する氏澄。事実上反乱のリーダーとなった彼の言葉に、残りの住民達もついに決心を固める。
「そうだな……このままデメトリオスに処刑されるのも御免だ。俺は参加するぜ!」
「放っておけば、外国人街が蹂躙されるのは明らかッスね。なら、あの鬼男に一泡吹かせるのも面白いッスね」
「オレはお世辞にも戦い向きじゃねえが、後方支援なら協力するぞ」
「オラもあの領主にはムカついてただよ!」
「わたくしも!」
「アタイもよ!」
宣伝が功を奏し、反乱に賛同する外国系住民達。各々、家から食糧や武器になりそうな物を持参し参加を決意。この様子に氏澄は体を震わせながら感動する。
「……皆の物! 共にデメトリオスに鉄槌を食らわせようぞ!」
「おおおおおおお!」
高らかに氏澄達への協力を宣言し、大喝采する住民達。
この後、ユスティナが戻ってくるまでの間、彼らは出来る限りの広範囲で宣伝活動を展開。結果、さらに1万人の支持を集めることに成功した。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。