102 脱出
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
『救世主の子孫に刃向いたる者に制裁を加えん。……オルカーン・フルーフ』
言葉が発せられた直後、処刑場の氏澄を中心に大きな空気の渦が発生。迫りくる100人の衛兵達を一斉に巻き込む。
「う、うわあああああああ……!」
「ひいいいいっ! 助けてくれぇ!」
そして氏澄は、起き上がる途中の執行人に渦の中で必死にもがく衛兵達の身体を叩きつける。
「ぬおっ!? ……ぐへっ」
衛兵の下敷きになる執行人。彼らはそのまま動かなくなってしまった。
「こ、これは何が起きてるのでしょう……?」
さっきまで手も足も出なかった相手を、一方的になぎ倒していく氏澄。コロナの心は、マキナの死よりも彼の豹変ぶりに向けられていた。
「コロナ、って言ったね? ここは彼に任せ、早く外国人街に逃げるんだ」
「でも、氏澄さんが……」
「今の彼から負ける姿が想像できる? さ、見物人も皆パニックで逃げている所だし、まぎれるなら絶好のチャンスよ」
ワルワラの言葉通り、処刑場周辺の外国人が一斉に背を向けて逃走中。
血も涙も無く衛兵達を殲滅する様子に、死の恐怖を感じての行動のようだった。
最初は「夫の死体を置いて逃げたくはない」と言って難色を示したコロナだったが、ワルワラの必死の説得を受け、最終的に処刑場を脱出する決意を固めた。
「小癪な……大人しく処刑されていれば良いものを……」
「デメトリオス様! このままでは衛兵が全滅してしまいます!」
デメトリオスとしては、娯楽の道具が勝手に暴れ回っているのは大変不愉快。
歯軋りしながらも、氏澄の暴走を止めるべく足元に置いていたバイオリンを手に取り、演奏を始めた。
「食らえ! 暗黒の旋律!」
昨日同様、流れるのは優雅で美しいながらも恐怖を与える旋律。が、今の氏澄相手には全くの無駄であった。
「ぐおおおおおおおおおおっ……!」
衛兵の持っていた槍を両手に、氏澄がデメトリオスを襲撃。恐怖心などどこ吹く風、独裁者の身体に複数の裂き傷を刻む。
相当ダメージを負ったらしく、デメトリオスはバイオリンを下に落とし、血を流して呻きながら地面に倒れる。
残りの衛兵も氏澄に恐れをなしデメトリオスの護衛と治療を優先。結果、氏澄達を追跡する者はいなくなった。
周囲に敵はいない。
そう確信した氏澄のもう1つの人格は、コロナ達3人の後を追って猛スピードで逃走。3人に追いついたところで青白い光が消失し、そのまま意識も失って道路上に倒れたのであった。
次回の執筆者は、リレー小説に復帰されたまーりゃんさんです。