101 マキナの死、そして氏澄覚醒
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
翌日。再び地下牢で暴行を受けたマキナ達は、全員体を縄で縛られ処刑場へ連行。
度重なる激痛と無力感に打ちのめされ、4人とも完全無言状態。
「ああら、奇遇ね……。まさかキミたちと同じ日に死刑執行されるなんてね……」
「……」
そんなマキナ達の少し後方、同じく衛兵の手で連行されるワルワラの姿が。
どうやら、彼女もマキナ達同様公開処刑の対象者となっていたようだ。
「てっきり死ぬ時まで一人ぼっちかと思ってたけど、そうならずに済みそうね……」
刑の執行を前に悲しい笑顔を見せるワルワラ。
その後5人は、周囲にペトラスポリス在住の外国人が集まる断頭台に到着する。
「皆の者! 我が街の領主に逆らうとどうなるか、見せてやる!」
死刑執行人が見物客に向かって高らかに叫ぶ。
処刑場の奥には、質感の良い木製の椅子に座るデメトリオス。マキナ達が刑場の露となる瞬間を、今か今かと心待ちにしている。
一方、衛兵達の命令で強制召集された外国人達は、各々複雑な表情を浮かべる。
「衛兵に強制召集されたかと思えば、公開処刑だって?」
「おい、前までそんなことあったか?」
「そう言えば、この街では聞いたことないわね……」
「デメトリオスが領主代行となってから、どんどんおかしくなっていきやがる……」
『公開処刑……当時、ペトラスポリス史上初メテノ刑罰ナリ……』
しかし戸惑う民衆に構うことなく、執行人は用意された断頭台にマキナの首をセット。
断頭台とは言っても、ギロチンのような吊るされた刃を落とす仕組みはなく、死刑囚の首をただ固定するだけの者であった。
よって、実際に首を斬り落とすのは執行人の持つ斧。だがその斧は、至る所に錆があった。
「さあ! これが極悪人の哀れな末路だ! とくと味わうが良い!」
高らかに叫ぶ執行人。
そして意識薄弱なコロナや氏澄達の眼前で、マキナの首に死神の斧が振り下ろされる。
「ぐああああっ……!」
だが斧はマキナの首を斬り落とすまでには至らず、激痛に喘ぐマキナの絶叫が会場にこだまする。
断頭台上の残酷な光景に、見物人の中には耳を塞いだり、目を覆い隠すものも出現。
その様子に、執行人は残忍な笑みを浮かべて楽しむ。
「しぶとい囚人だ。だが貴様の死は既に決まったこと。くたばれぇ!」
「どぅおおおあああ……!」
再び斧がマキナの首に降りかかるも、今度も斬首ならず。その後も執行人は錆びた斧で何度もマキナの命を奪いにかかる。
その度、会場にはマキナの苦悶の悲鳴が響き渡り、見物人からも執行中止を求める叫びがあがる。
が、執行人はそんな阿鼻叫喚の地獄絵図を心の底から愉しみ笑う。
わざわざ錆びた斧を使ったのも、この地獄絵図を演出するためだったようだ。
「やめて……やめて……」
無駄な苦痛を与えて遊ぶ執行人に、コロナも自制を願うも届かず。のたうち回る夫の姿に涙することしか出来ない。
そして数分後、マキナの首がついに胴体と切り離されてしまう。
「……!」
執行人が彼の死を確認。直後、会場中に「マキナ・シュトラウスは地獄に落ちた!」と喧伝する。
声を荒げることも、体を動かすことも無くなったマキナ。彼はとうとう絶命の時を迎えてしまったのだった。
「あ、あなた……」
夫の死に様に涙するコロナ。争い無き世のため職人修行に来ただけの彼を襲った、理不尽極まりない仕打ち。
だが間を置かずして、次なる執行対象者の名前が告げられる。
「次の死刑囚は砺波松之助氏澄!」
「拙者の番にござるか……」
今度は氏澄が断頭台へ。執行人の手にはマキナを散々甚振り落命させた錆びた斧。
「仲間の血を浴びながら死ぬのも良い体験であろう? はっはっはっは!」
「異国で果つるとは……父や母に申し訳が立たぬ。無念……」
耳元でそう囁く執行人。観衆が悲愴と同情の念を向ける中、いよいよ氏澄にも悪魔の刃が迫る。
「存分に苦しんで逝けぃ!」
目を瞑って自らの宿命を恨む氏澄。
そして無慈悲で暴虐な仕打ちが盛大に彼を弄ぶ――かと思われたその時。
「ぬわああああああ……!」
彼の後ろから突如執行人の悲鳴があがり、斧と一緒に遠くに吹き飛ばされる。
「ぬ……」
肝心の氏澄はというと、青白い光を身に纏いながら周囲に目配り。続いて断頭台から離れ、自分の手をじっと見つめる。
「う、氏澄、さん……?」
泣き続けるコロナも、氏澄の異変に困惑を隠せない。
「これは一体……?」
ワルワラも未知の現象を前に混乱をきたす。エルネスタも、幼いながら尋常ならざる事態であることを察知した様子。
当然、民衆も死刑囚の異常事態に騒然となる。
「衛兵! 直ちにあの異邦人を叩き殺せ!」
「は、ははっ!」
デメトリオスも危機を感じたのか、近くの衛兵に氏澄殺害を命令。100人の衛兵が氏澄に向けて突撃を開始する。
(これって、もしかして俺と同じ……?)
氏景も初めて機械兵に襲われた時を思い出し、先祖の行く末を見守る。
一方、まるで別人と化した氏澄は機械的に執行人や衛兵、デメトリオスを指差し反撃の狼煙をあげた。
『救世主の子孫に刃向いたる者に制裁を加えん。……オルカーン・フルーフ』
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。皆様の参加、心よりお待ちしております。