10 想定外
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
翌日。
俺たちは機械兵の手で瓦礫の山と化した街を離れ、今木々が生い茂る山中を洞窟に向かって、60人態勢で進んでいた。もちろん目的は、魔導石の発見である。
だが、1つだけ気になることが。
確かに「救世主」候補と言うべき、俺たちの安全を確保したいのはわかる。
だがこの大人数、4人を守るにはちょっとばかし大袈裟じゃないか?
これではまるで、軍隊の行進。そこまで警戒しなければいけない敵が、果たして出没するものなのか?
だが、そのような甘い予測はあっさり打ち破られ、『敵』は俺たちの前に現れた。
「むっ、現れたな……!」
「総員、戦闘態勢! 各人、自分の配置につけ!」
先ほどまでの、どこかのんびりした雰囲気はたちまち消え失せ、現場の空気が一瞬にしてピンと張りつめる。
敵の数は約15体。この人数、間違いなく機械兵の小部隊だ。
「てゆうか、山の中って魔獣しか出てこないんじゃないのか!?」
「思ったよりも事態は深刻のようですね……」
さすがの山野も、素っ頓狂な声を出して喫驚し、恭子も予想外のことに頭を悩ます。
しかし、鋼鉄の体を持つ鉄の光沢を放っている機械兵は、そんなことをさせる余裕を与えない。
機械兵の腕からビームが今にも発射されようとしている。
「総員、防御態勢! 構えろ!」
リーダー――今さらながら名前はオズワルト・リーマン――の指示によって全員が地に足をつけて踏ん張り、来たるべき機械兵の来襲に備える。
あの補佐官の研究員――こちらも今さらながら名前はトリスタン・ノースブルック――も戦場では立派な一兵卒である。
だが、一斉に放たれた機械兵のビームは、彼らの防御を貫かんとする。
「ぐっ、ぐおおおおっ……!」
次の瞬間、ビームによって巻き起こった煙が消えると、彼らはなんとか地面に対ししっかり立っている姿が確認できた。
機械兵のビームを辛うじて凌いだようだ。
しかしすでに彼らの息は、機械兵によるたった一撃で早くも絶え絶えに。プロの戦闘部隊と言うべき人たちが、である。
「クソッ、俺たちの戦闘能力はほぼ限界値に近いってのに……機械兵……ますます強くなっていきやがる」
「総員、再び配置につけ! 反撃開始だ!」
しかし休んでいる余裕はない。
グズグズしている間に、機械兵の追い討ちがあるかもしれないからだ。
「空想世界」なんてものをまともに研究したことのない俺でさえ、それぐらいは容易に思いつく。
幸いにも今回の機械兵は、一端攻撃が終了するとしばらく行動不能になるタイプのものらしく、相手は一向に攻撃の手を出そうとはしない。
だからこそ、強力なビームで一気に敵を一掃しようとの発想で造られたものなんだろう。
今こそチャンスだ。
「撃ち方、始め!」
再びリーダーの的確な指示により、味方の研究員が構えている武器から、動けない機械兵に向かって一斉に魔法を撃ち放つ。
「いっけええええ……!!!」
彼らの魔法は直で機械兵にヒットし、静かな山の中腹に似つかわしくない轟音と爆風が起こる。
「やった……か?」
さっきとは逆の立場で、全員が機械兵がいた方角を見つめる。
皆が息を飲む中、煙の向こう側には――――
「機械兵の姿は、見えませんね……」
機械兵は、一体も残ってはいなかった。
「――よっしゃああああ!! 勝ったあああ!!!」
辛くも勝利を収めた俺たち。
一時はどうなることかと思ったが、どうやらこの場は上手くやり過ごせたようだ。
勝利に戦闘員の人たちは歓喜に湧き、俺たち空想世界研究部の面々は安堵の表情。安心してその場に座り込む。
「ホントに大変だったね」
「ああ、そうだな。これこそ手に汗握る戦いってヤツだな」
そうは言っても、ハタから見ているからそんなことが言える訳で、実際あそこに立っていた研究員の人たちは、自分が死ぬかもしれない恐ろしさとも、戦わなくてはならないのだ。
思ったよりも過酷な現場だ。
だが、喜びも束の間。
さらなる恐怖が俺たちを襲う。
皆がバカ騒ぎをする中、遠方からズシッ、ズシッと巨大な『何か』がこちらに忍び寄ってくる音が聞こえた。
「な、何だ?」
「……へっ? ウソ……でしょ?」
その音は次第に近づいていき、とうとう俺たちの前にお出ましとなった。
「オイ、何だよ……これ……」
「総員、戦闘態勢! 配置につけ!」
再び起こった想定外の事態に、彼らは慌ただしく再び武器を手に取り、来たるべき来襲に備える。俺たちの前に現れたのは―――――
高さ10メートル以上もある巨大な機械兵が一体だった。
デカすぎる……俺たち、大丈夫なのか?
その機械兵はさっきの奴らよりも、残酷な現実を俺たちの前に叩きつける。
機械兵は戦闘員たちが防御態勢を整える間もなくさっきの機械兵よりもさらに強力なビームを放つ。
「ぐっ、おおおおっっ……」
戦闘員の声と姿はビームの音と光によって、いともあっさりとかき消された。
次の瞬間、ビームが放たれた地面に転がっていたのは――――
全身血まみれとなった戦闘員たちの死体だった。
「みっ、みんなあああ!」
恭子は悲鳴をあげたが、戦闘員たちの命は戻ってはこない。俺たちも悲惨なこの異世界の「現実」ってヤツを、深く痛感し、悲しみに暮れる。
だが、そんなことを思い詰めている暇はない。今この場にいるのは俺たち空想世界研究部のメンバーと恭子、そしてリーダーと補佐官の研究員が一名いるのみ。
巨大な機械兵を前にして絶望的な状況だ。
逃げようにも、あの機械兵のビームからは逃れられない。さっきのヤツとも違ってビームを放った後も、この機械兵は連続で行動できるタイプのようだ。
俺たちは万事休した。そのように思われた。
その時だった。
「……ん!? えっ、氏景? 一体どうしたんだよその体!?」
「へっ……?」
部長が俺の体を目玉を飛び出した顔で見ていた。
俺は部長の顔を怪訝な表情で見つめ返したが、その理由にすぐに気がついた。
「なっ、なんだこれはっ!!?」
部長が驚いたのも無理はない。
何せ俺の体からは青白い光が発せられていたからである。
さすがにこの俺もビックリだ。きっとこれが、部長たちが普段研究している「異世界の神秘」とも言うべき代物なのだろうが、それまで経験したことのない不可解な状態に、俺の脳はすでにパニックに陥った。
だがそんな中、恭子だけはなにやら俺の体の発光を見て、感動したかのように深く頷いた。
「やはり、私の目に間違いはありませんでした……」
すると、俺の目は部長や恭子たちのいる方向から巨大な機械兵に、無意識と言うか、俺自身の意志とは関係なしに自動的に向けられた。
「この世界を救えるのは……あなたしかいない……」
そして俺は、これまた自動的に今まで見たことも聞いたこともない言葉を、機械兵のほうに指を差しながら言い放った。
『眼前の敵を早急に打ち砕かん………ガイスト・ゼクスト!!』
次回の執筆者は、猫人@白黒猫さんです。