プロローグ~神々の黄昏(暇潰し)~
あっちの小説が行き詰まったりして書く暇ができたらちょこちょこのんびり更新していく予定です
この世界を勇者が救ったのは何百年前の出来事だったか。
魔物は未だはびこってはいるものの、今はもう平和な世の中で、魔王が世界征服を企んでいたなんて大昔の出来事。
もはやおとぎ話のような遠い存在にまで人々の歴史から薄れていっていた。
そんな平凡で緩やかな世の中。
今再び勇者が託宣を背負い、平和すぎるこの世界に降り立とうとしていた。
なぜ今になって勇者なんて存在が現れたのか。
それは誰にも分からない。
勇者の銘を託された本人にさえ。
これは、一人の少年が異世界から呼び出され、いきなり新しい人生を押しつけられ、振り回される物語。
暇を持て余した神様の、気まぐれから生み出された新たな歴史。
◇
「暇だ。」
人気の少ない道をぶらぶらと歩きながら俺は誰に伝えるでもなくそう呟いた。
もう口癖にさえなりつつあるこの台詞。
俺の中では流行語大賞3年連続堂々の1位だと確信している。
だってほぼ毎日呟いてるし。
俺、神薙蓮は、日曜日の昼下がりに、あてもなくふらふらと街をさまよっていた。
理由は特にない。
強いて挙げるなら暇潰しの種を探しに。
家の空気から逃げ出すように。
なぜなら両親が結婚20年目にもかかわらず家の中で四六時中イチャイチャ仲良くしていたからだ。
ぶっちゃけ居づらい。
甘過ぎて胸やけまで起こしそうである。
だからって俺のことがほったらかしにされているわけでもなく、ちゃんと愛されてる感じはする。
それはそれで可愛がられ過ぎのような気もするけど。
まぁそんなことはどうでもいい。
とにかく家に居づらいのだ。
それで俺は逃げるように外を出歩いている。
で、だ。
「ここはどこだ?」
暇だ暇だと呟きながらいつのまにか迷い込んだ場所は人っ子一人いない小道。
路地裏とかに入ったわけでもないし、そう遠くまで歩いた覚えもない。
なのに何故。
今この視界には、見覚えのない道が続いているのだろうか。
何か嫌な予感がする。
しかし、この時の俺は、まるで何かに引き寄せられるようにその小道を進んでいたのだ。
そして辿り着いた場所はどこかの教会。
周りは全くの見覚えのない風景。
霧がかかったように霞んで遠くまでは見通せないが、木に囲まれているような場所。
まるで森の中のようだ。
でもおかしい。
俺は森になんか入った覚えはないし、そもそも俺の住む地域は、ビルの森ならともかく自然の森なんか都内には存在しない。
せいぜい自宅の近くの裏山とか、学校へ行く道の山が唯一の固まった自然である。
なんでこんな所に着いたのだろう。
道を振り返ってみると、そこには通ってきたはずの道がなく、完全に木々に囲まれた空間であった。
これが噂の神隠しという奴であろうか。
あまりにも非現実的な状況だからか、怖いくらい自分の心は冷静だった。
改めて今自分に出来ることは何かを考える。
森のように広がる木々は360度今自分が立っている空間の周りを取り囲んでいる。
そして目の前には随分とボロボロな教会が建っている。
さて、ここで自分が取るべき行動は何か。
「寝て起きたら夢オチとかになるかな。」
やっぱり自分の心中はパニクっているということが今自分の口から出た言葉で分かった。
こりゃやべーや。
かつてないピンチって奴だろうか。
木々の隙間は不気味な程真っ白な濃い霧に塗り潰されていて、とてもじゃないが飛び込んで森を抜け出そうという気にはなれない。
ということはつまり。
「教会の中に入るしかないのか…?」
嫌な予感しかしない。
『まぁそう言わずに。』
「ファ?」
今何か聞こえなかっただろうか。
しかしそれを気にする暇はなかった。
無意識にだろうか、気付けば俺は教会の入口である大きな扉に手をかけていた。
ギギィ…と鈍く甲高い音を出しながら開かれた扉の向こうは…
真っ暗だった。
外の光が入り込んでいないことに俺は気づかなかった。
そのまま足を踏み出そうとする。
しかし出した足を受け止める床の感触はなく
「ぅお…わぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そのまま空を踏み抜こうとして真っ逆さまに落ちた。
◇
ここはどこだろう。
いつの間に気絶していたのか、覚醒する感覚を覚えた。
確か俺は、教会の中に足を踏み入れて…
そうだ、床がなくてそのまま落ちたんだ。じゃあ、ここは一体?
目を開けて周りを見ると、謎の空間だった。
謎としか言いようがない。
視界の全てが真っ暗闇で、何も見えない。
いや、唯一自分自身の全身は見える。
ただの暗闇じゃないってことか?
それに、浮遊感がして変な感覚だ。
重力の感覚がなく、しばらくこのままいたら気持ち悪くなりそうだった。
そんなおかしな状況に頭を捻っていたその時。
『やぁ、お目覚めかな?』
「ほわ!?」
なんぞ?なんぞ?
唐突な謎の暗闇でさらに唐突に謎の声が響いて色々と訳がわからない。
さらに声の主は見えず、音のした方向も分からない。
今俺はそこいらのミステリー番組よりもミステリーな体験をしている。
これから俺は一体どうなってしまうのか。
なんとなくだがいきなり死んだりはしないとおもう。
『そんなに驚かなくてもいいじゃないか。』
いや、普通驚かないほうがおかしいだろ。
「いや、普通驚かないほうがおかしいだろ。」
考えたことがそのまま言葉として出てしまっていた。
『それもそうか。』
謎の声は俺の言葉に素直に納得したかのように声を響かせる。
今更ながら気付くが、今聞こえていた声は教会へと俺を誘ったあの声と同じものだった。
『しかしまぁ、とりあえずゆっくり話でもしようじゃないか。』
「いやその前に答えるべきことがあるんじゃないか?」
さっきから勝手に向こうに話を続けられているが、良い加減突っ込ませてもらった。
なんだか余裕のありそうな声にもおちょくられているような感覚がしてイラッとしてきたところなんだ。
しかし俺ってこんなに非現実に対する適応力があったのか。
どこから聞こえるのかもわからないような声に臆することなく反論できているとは。
すごいな俺。
学校ではそれなりにコミュニケーションはとるけど。
それとこれとは違うか?
まぁそんなことはどうでもいい。
「まず最初に、お前は誰だ?」
『私か?私は神だ。』
「はぁ、神。なるほどね………………は?」
『神だ。英語で言うとGOD。つまりは1番偉い存在。OK?』
「いやいやいや何さらっと言ってんの」
『……まぁいい。君をここに呼んだのは私だ。』
なんとなくそんな感じはしてた。
というかお約束の展開だよな。
「何が目的なんだ?」
『いや…まぁ、なんというか…ちょっとした余興って奴だ、うん。』
「くっだらねー理由で拉致なんぞよくもしてくれたなオイ。」
つまり「暇だったからテヘペロ☆」って事か。
よくもまぁそんな身勝手な理由で神隠しなんてしたもんだ。
「世界が崩壊の危機で君が最後の希望なんだ!!」みたいな理由づけくらいはして欲しいもんだ。
いやまぁ、そんな重たい使命も押し付けられたくないけど。
「目的も無く呼び出しといて一体俺に何を期待してるんだ。」
『御察しの通り、暇潰しに付き合って欲しい。』
予想していたがなんともアバウトな答えだ。
「どーやって姿も見えない相手にどう暇潰しの種になれってんだよってか姿くらい見せろよそれが最低限人に物頼む誠意だろが」
なんかどうでもいい理由で呼び付けられたって考えるとだんだんイライラしてきた。
とりあえず一発殴りたい。
『私は人じゃなくて思念体だからな。』
「は?思念体?」
『ああ。私は君のいた世界とは別の世界を管理する高度な知的思念体だ。だから私は神様だということさ。』
どうだすごかろーとばかりの偉そうな態度が声だけでありありと伝わってくるが、正直あまり驚かない。
神様だということが本当なら確かに思念体だというのもありえなくはない。
しかし常識とはあまりにもかけ離れた話だ。
信じられないという方が正しいだろうか。
まぁそっちよりもイライラやムカつきの感情の方が強いからかもだけど。
とにかく殴りたい。
一発どころかフルボッコになるまでぶん殴りたい。
なので、超絶だるそうに返事をする。
「へーすごいなーびっくりだー(棒)」
『そう思うなら少しくらい驚きを声に滲ませてくれないかな…?』
急に寂しそうな声で呟くのやめろ。
声が声だからすっげー気持ち悪い。
というか、俺が聞きたいのはそんなどうでもいいことじゃない。
「結局俺に何をしろというんだ神様とやらは。」
『うむ。今から考えるから少し待ってくれないだろうか。』
「40秒で納得のできる理由のある目的を捻り出せ。」
『え、ちょっと制限時間短すぎじゃ…』
「文句言う暇があるんならちゃっちゃと脳みそ回せやコラ。」
神様としてはあまりにも胡散臭過ぎる知的思念体とやらを相手にカツアゲばりの威圧をかける。
遠慮なんてしてられるか。
こちとら被害者なんだ。
『あー…そうだ。うん、これなら目的としては申し分ないな。』
「あん?なんだ言ってみろ。」
『おぉ怖い怖い。えーっと…君には勇者として、私の管理する世界中に散らばる魔剣を集めて欲しい。』
「理由は?集めてどうするんだ?」
『悪用する輩が出て来ない内に手を打ちたいって所だ。集めたら、君のモノにして欲しい。』
「モノにするってなんぞ?」
『正式的に魔剣の持ち主になってもらいたいってことだ。』
「てか、勇者が魔剣の持ち主ってどうなのさ。」
『細かいことは気にするな。どうせ平和な世界なんだ。勇者なんてただの上っ面の名目程度にしかならないさ。』
さっきから言ってることが無茶苦茶過ぎる。
平和な世界ならただの人間が魔剣なんぞ持ってたって持て余すだけだろ。
ならほっといたっていいじゃないか。
まぁそれでも、念には念をってことなんだろうが…
というか、今更ながらおとなしく帰してくれるという選択は無いのだろうか。
『まぁいいじゃないか。自分で言うのもなんだが、私の世界はそれなりに楽しいぞ?君の世界では架空でしかなかったファンタジーがお腹いっぱい夢いっぱいだ。それに、君は自分の人生に退屈していたんだろう?』
「…そりゃ、そんな世界に興味が無いといえば嘘になるし、自分の今の生活に不満は無いこともないが。」
『だったらいいじゃないか。一度きりの人生、楽しまなきゃ損だぞ?』
なーんか丸め込まれてる気もするが…もういいや。
確かに言ってることは間違ってないし。
しゃーない、付き合ってやるとするか…。
「…OK分かった。魔剣探し、やってやる。あんたの暇潰しになるかどうかは保証しかねるぞ。」
『いや、私のことは気にしないで、本能の赴くままに世界を楽しんで欲しい。それだけで私も見てて楽しめそうだしな。じゃ、目をつぶってくれ。そのまま一度寝てもらうから、起きたらまた連絡しよう。』
言われるがまま目をつぶる。
すると急激に睡魔が襲い掛かってきた。
神様の力という奴だろうか。
さて、引き受けちゃったし、ちょっとはその神様の創った世界とやらに期待してみようかね。
そう考えながら、心地よく意識を手放した。
神様のバカヤローという台詞がこの小説には似合うと思います←