夫婦の会話
〜元服の儀が終わりしばらく後の輝宗の居室にて〜
義姫は、輝宗に話があると言ってきていた。
「やはり、梵天丸殿、いや藤次郎殿に跡を継がせまするか。」
と義姫が話を切り出した。かなり不機嫌そうだ。
『嫡出の長男が、嫡男で当たりまえではないか。
そのうえ、教養も深い。
まさに伊達家十七代目を継ぐのにふさわしい者ではないか。』当たり前ではないかと言う事を匂わせている。
<この章では、輝宗の言葉を『』で、義姫の言葉を「」であらわします。>
「しかし、梵天丸殿は、片目であられる故に家臣どもに侮られまする。」
『片目じゃからこそ威厳が増す。又神と見られる。』
<片目、片足は神の生まれ替わりといわれていた。>
「しかし、あれほど間で学問に秀で、賢しいのでは、戦で亡くられてはお可哀相では御座りま
せぬか。」やはり、自分が可愛がっている竺丸がいいと言いたげである。
『いや。あれは、武道も、戦略も長けておる』まだ言うのかとこちらも言いたげである。
「しかし。運悪く、流れ矢などに当たるということもありえる。
故に、僧にでもなされたらいかがでしょうか。」とまだ食いかかって来た。いかにも不機嫌ですと言いたげである。
『そちは、それほどまでに、竺丸が可愛いのか!』
と、温厚な輝宗が珍しく怒った。
『そちは、竺丸、竺丸と言うてばかりであったであろう。
しかし、梵天丸には辛ろうあたってばかりであったろう!
どれほどまで、どれほどまで、苦しんでおったのか知らぬであろう!
母上様、母上様と言うてないておったことを知らぬのであろう!』
「・・・」
「もうわらわは知りませぬ。」
とこれ以上言っても意味が無いと思って帰ろうとして、立ち上がった。
しかし、
『待て。実は、そちには言うな、と梵天丸が言うておったから言わなかったが・・・
一度死のうとしておった。』
「えっ!」
『母上様に嫌われては生きていけぬと言うておった・・・』
『そのときの悲しそうな目を思い出すと、いっ、いまでも・・・』
『うっ。うっ。』
と輝宗はとうとうすすり泣いてしまった。
そのとき、義姫の目にも涙が光った。
少なくとも私が読んできた、本の中では自殺しようとしたのはありません。
徳川家光の話から少しパクリ、、、いや参考にさせていただきました。
後、次回幼少の頃の話になります。