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ヒトミの中に咲く花*前編*

童話っぽいものを目指しておりますが、読み辛かったらすいません…。

ある冬の晴れた日の事です。


突然空が薄暗くなっていったかと思うと、太陽の光が失われていきました。

天気が悪くなったのかと見上げても、そこには雲ひとつありません。


実は太陽が月の影にスッポリと隠れてしまったのでした。


外を歩く人も畑で作業する人も動きを止めて、ただ空を見上げていました。


ただ、村はずれに住む少年、ハルタだけは森で拾ってきた小鳥の世話に夢中で、周りの異変に気がつかないままでした。


この辺りでは見たことのない真っ白な身体に青い目をした小鳥は、ハルタが姉と一緒に薪を集めに入った森にポトリと落ちていたのです。

一見怪我をしている様でもないけれど、ハルタの手の中でジッとして動かない小鳥は、さっきまで木の実をついばんでいたのですが、ふと空を見上げて「ピピピ」と鳴いたと思うとフルフルと震えだしたのです。

ハルタは小鳥の背をさすってやったり、そっと息を吹きかけたりして小鳥の様子を注意深く見ていました。


「ねえハルタ、あれ見て!」


姉のサクヤが呼ぶのでそちらを見ると、上空から白いものがヒラヒラと舞い降りています。


「雪かしら…あっ冷たっ!」


サクヤは左目を押さえています。

白い粒が目に入ってしまったのでしょうか。


「嫌だわ。薪が濡れちゃう!ハルタ、早く帰ろ!」


目をこすりながら足早に進むサクヤの後を追って、ハルタも家路を急ぎました。


◇◆◇◆


その日からサクヤは寝込んでしまいました。

身体がどんどん冷たくなり「寒い…寒い…」と言ったかと思うと、

顔は青ざめ、布団をたくさんかけても、部屋をいくら温めても身体はぶるぶると震えているのです。


「目が…こっちの目だけが…熱い…」


時折、唇を震わせながらサクヤはうわ言のようにつぶやきます。

それはあの日、空から降ってきた何かが入った方の目でした。


ハルタが姉の目のあたりをじっと見つめていると、何やら半透明な細いものが伸びているのに気が付きました。

手を伸ばしてそれに触ってみようとするとかすかにヒヤリとしますが何もありません。


しかし、次の日姉の顔を見ると、更にその『何か』が伸びているような気がします。

ハルタは毎日その『何か』を観察することにしました。


その『何か』はハルタが春に庭に植えた花の芽に似ていました。

ひょろりと伸びたと思えば、双葉のような葉が生え、更に上へと伸びていくのです。


そしてその『何か』が成長するにつれて、サクヤにも変化が出てきました。


ようやく身体の震えはおさまりましたが、あいかわらず顔色は青白く、吐く息も冷たいまま。

だんだん寝ている時間が長くなっています。


しかも『何か』の葉が増える度に、サクヤは忘れっぽくなっているようでした。


「ねえ、ハルタ。今日は火曜日かしら?」

「ううん。水曜日だよ」


「ねえ、あれは何?」

「あれ?あぁ、あれは姉さんの大切にしてたオルゴールじゃないか」

「え…そうだっけ?」


「ねえ…あなた…どなた?」

「…えっ…嫌だなぁ。僕だよ!姉さんの可愛い弟のハルタだよ!」

「そう…そうね!…そうだった…」


ハルタが慌てて大きな声でそう言うとサクヤもなんとか思い出したようでしたが、その次の日には今度は母の事が思い出せなくなったようでした。

その時ばかりはサクヤの部屋を出てから、ハルタは母と二人で少し泣いてしまいました。


姉の世話をする母も心労からか日に日に顔色が悪くなっていきます。



「お前だけは元気になったみたいで良かったよ」


小鳥の背を撫でてやりながら、ハルタはそう話しかけます。


あの日元気のなかった小鳥は日に日に元気になり、ハルタが作ってやった鳥かごの中でその白い羽をばたつかせたり、ハルタが落ち込んだ様子を見せるとピルピルと囀ったりするまでになりました。


◇◆◇◆


そんなある日。

ハルタは買い出しに来た街で噂を耳にしました。


旅の医者がこの街を訪れているというのです。


もしかしたら姉の病気について何か知っているかもしれない。

そう思ってハルタはその旅人が泊まっているという宿屋を訪ねる事にしました。


宿屋のおじさんに案内されて恐る恐る旅人の部屋の扉をノックすると、「どうぞ」という低い男の人の声がします。

ゆっくりとハルタが扉を開くと、窓辺で外の方を向いていた男の人が、クルリとこちらを向きました。


「…!…あ、あの!!」


驚きと緊張でハルタは言葉がなかなか出てきません。

部屋の入口で固まってしまったハルタを不思議に思ったのか、男の人はゆっくりとこちらへ歩いてきました。

近くで見る男の人は、今までハルタが見たことないくらい背が高くて、見上げると首が痛くなりそうでした。背中まで伸びた髪は銀色で、身体つきもしっかりしています。

そして何よりハルタが驚いたのは、男の人の右目が眼帯で隠されている事でした。


はるか頭上から見下ろされると緊張がますます高まりましたが、ハルタは思い切って目を合わせて口を開きました。


「あの!あなたはお医者さまだと聞きました。僕の姉さんが病気なんです。ずっと治らないんです。一度診てもらえませんか?」


ハルタの必死な様子に目を少し見開いた男のその目が、ハルタの拾った小鳥と似た色をしている事に気が付いて、ハルタは一気に言葉を吐き出しました。


「んー、別に俺は医者じゃないんだが」

「えっ…!」

「しかもこの街にはある探し物をしにきただけで…」


困った様子でポリポリと頭をかきつつ答えた男の言葉に、ハルタの目にはみるみるうちに涙が浮かんできます。


「あぁ…泣くな、少年。医者じゃないが学者なんだ、俺は」

「…学者…さま?」

「そんな御大層なもんじゃないけどな。珍しい病気について見たり聞いたりして旅してるんだ」

「じゃあ…」

「あぁ。もしかするとお前の姉さんの病気についても分かるかもしれない」


でもだからって治せるとは限らんけどな。

そう前置きする男にハルタは精一杯の笑顔で答えた。


「ありがとうございます。学者さま!あ、僕、ハルタって言います。よろしくお願いします!」

「…礼を言うのはまだ早すぎるぞ。それに学者さまってのはやめてくれ。俺はリアムだ。よろしくな、ハルタ」

「はい!」


ハルタの笑顔につられてか、口端に笑みを浮かべたリアムの姿は、その髪に窓からの陽の光が反射してキラキラと輝いて見えたのでした。




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