勇者召喚物語
本編[1ヵ月後]に出てくる絵本の全文です。
本編を読んでなくともまったく問題なく読めるはずです。
この世界の名は人界。竜や精霊、人が暮らす世界です。
竜は真実を、精霊は虚偽を、人は魂を知っていました。
人界には1つの大陸がありました。
竜は真実を知っているので、争うことはなく静かに暮らしていました。
精霊は虚偽を見抜けるので、争うことはなく優美に暮らしていました。
人は魂を奮わせれるけれど、竜や精霊がいなくては真実も虚偽も分かりません。
ですから人は竜と精霊を尊びました。
ですが大陸には竜や精霊を信じない人間の国がいくつかありました。
そのなかの2つの仲の悪い国は、いつも戦争ばかりしていました。
ある時大陸のあちこちに黒い穴が出現しました。
そして時を置かずに世界に災いをもたらす魔物がたくさん現れました。
2つの国の人々は戦争をしている余裕が無くなりました。
2人の王様は魔物を倒すために協力する事にします。
2人の王様は兵達に命令します。
「魔物を倒すのだ」
「はい、王様」
兵達は必死に戦いましたが魔物は次々と現れます。
2人の王様はきりがないと思いました。
魔物の元凶になったものをなんとかしないと、どうにもなりません。
2人の王様はあちこちに出現した黒い穴を調べる事にしました。
王様は兵と学者に命令しました。
「黒い穴を調べるのだ」
「はい、王様」
兵と学者は黒い穴を調べました。
ですが黒い穴を見ても、どうしてそこに穴があるのか分かりません。
学者は思いきって、黒い穴に入ってみました。
すると穴の向こう側には、見たことのない世界が広がっていました。
学者は兵を連れて穴の向こう側の世界を調べました。
向こう側の世界はいつも暗い雲に覆われていて、雷が絶え間なく落ちています。
地面が揺れて、嵐が頻繁に起こりました。
そこで生きている生き物達は、ほとんど見たことのない形をしていて、とてつもなく凶暴です。
そこはとても、人の立ち入れるところではありませんでした。
兵と学者はさっそくその事を王様に報告しました。
「王様、穴の向こう側は異世界に繋がっていました。
そこはとても人の立ち入れるところではなく、恐ろしい生き物がたくさんいました」
2人の王様はそれを聞き、穴の向こう側から魔物がやって来ているのだと思いました。
王様は穴の向こう側の世界を畏怖し、魔物の世界、魔界と呼びました。
「こうしてはいられない!」
2人の王様はありったけの兵を集めました。
穴の向こう側の世界の生き物を皆殺しにするためです。
けれど魔界に行った兵達はほとんど帰って来ることはありませんでした。
大陸からは魔物はまったく減りません。
生きて帰ってきた兵達は王様に報告しました。
「王様、魔界には人の形をしたものすごく強い魔物がいました。
その魔物は言葉が通じず、ほとんどの兵は殺されてしまいました」
2人の王様は恐れ慄きました。
この事を聞きつけた周りの国の王様達は、先に戦った2つの国の王様と協力することにしました。
そして前よりもっと多い兵達の軍を作りました。
王様達は前よりたくさんの兵を見て、これなら人の形をした魔物も倒せるかもしれないと思いました。
けれど兵達は半分以上も帰ってきませんでした。
大陸からは魔物はまったく減りません。
帰ってきた兵達は王様に報告しました。
「王様、人の形をした魔物は空を自在に駆け、普通の魔物より遥かに強く手も足も出ませんでした。
私達はその魔物一人に勝てませんでした」
「ううむ、もしやそれが魔物の王なのか?」
「分かりません」
人の形をした魔物は、しかし一向に大陸には攻めて来ません。
その魔物はいつしか恐れられて魔王と呼ばれるようになりました。
ある時、とある国の魔術師が言いました。
「王様、この大陸で一番強い者を呼び寄せる魔術を創りましょう」
「そんな事が出来るのか」
「難しいですが、きっと出来ます」
そして魔術師はついに召喚魔術を完成させました。
王様は言いました。
「ではさっそく召喚しなさい」
「はい。王様」
魔術師は召喚魔術を発動させました。
召喚魔術は成功してそこには大陸で一番力の強い人間、勇者が出現しました。
勇者はどんな人間よりも剣術が得意で、剣撃の勇者と呼ばれました。
王様は勇者に命令します。
「勇者よ。魔界に行って魔王を倒すのだ」
「はい。わかりました、王様」
勇者は多くの兵達と共に魔界に行きました。
しかし勇者は死に、兵達もほとんどが帰って来ることはありませんでした。
大陸から魔物はまったく減りません。
王様達は諦めません。
「魔術師よ、次の勇者を召喚するのだ」
「はい。王様」
魔術師はそう言うと召喚魔術を改良して、新たな召喚魔術を作りました。
魔術師は召喚魔術を発動させます。
召喚魔術は成功しました。
二代目勇者はどんな人間よりも弓術が得意で、弓神の勇者と呼ばれました。
王様は勇者に命令します。
「勇者よ。魔界に行って魔王を倒すのだ」
「はい。わかりました、王様」
勇者は多くの兵達を引き連れて魔界に行きました。
しかし勇者は死に、兵達もほとんどが帰って来ることはありませんでした。
大陸から魔物はまったく減りません。
王様達は諦めません。
「魔術師よ、次の勇者を召喚するのだ」
「はい。王様」
魔術師はそう言うと召喚魔術を改良して、新たな召喚魔術を作りました。
魔術師は召喚魔術を発動させます。
召喚魔術は成功しました。
三代目勇者はどんな人間よりも魔術と槍術が得意で、魔槍の勇者と呼ばれました。
王様は勇者に命令します。
「勇者よ。魔界に行って魔王を倒すのだ」
「はい。わかりました、王様」
勇者は多くの兵達と共に魔界に行きました。
勇者は多くの兵を失いながらも魔王と戦いました。
けれど倒す事は出来ません。
勇者は死に、兵達もほとんどが帰って来ることはありませんでした。
大陸から魔物はまったく減りません。
王様達は諦めません。
「魔術師よ、次の勇者を召喚するのだ」
「はい。王様」
魔術師はそう言うと召喚魔術を改良して、新たな召喚魔術を作りました。
魔術師は召喚魔術を発動させます。
召喚魔術は成功しました。
四代目勇者はどんな人間よりも魔術と剣術が得意で、双剣の勇者と呼ばれました。
王様は勇者に命令します。
「勇者よ。魔界に行って魔王を倒すのだ」
「はい。わかりました、王様」
勇者は多くの兵達と共に魔界に行こうとしました。
しかし突然、魔王は大陸に現れました。
勇者は戦いました。
けれど力及びません。
魔界から現れた魔王は勇者を殺しました。
魔王は大陸の国々をいくつか滅ぼし、魔界に帰って行きました。
大陸から魔物はまったく減りませんでした。
残った国々は、次にいつ来るか分からない魔王の出現を恐れました。
王様達は急かします。
「魔術師よ、早く次の勇者を召喚するのだ」
「はい。王様」
しかし魔術師は考えました。
このまま勇者を召喚しても、きっと今までと同じことを繰り返します。
魔術師は思い付きました。
この世界の人間ではとても魔王には敵いません。
ならば、異世界から勇者を召喚してみようと。
魔術師は召喚魔術を何度も創り直しました。
そしてついに召喚魔術を完成させました。
魔術師は召喚魔術を発動させます。
召喚魔術は成功しました。
異世界から勇者が召喚されました。
五代目勇者はこの世界の人間の誰よりも強く、戦神の勇者と呼ばれました。
王様は勇者に命令します。
「勇者よ。大陸の魔物を減らし魔王を倒すのだ」
「はい。わかりました、王様」
異世界から召喚された勇者は、まず大陸の魔物を減らしました。
勇者は仲間と共に、またもや大陸に現れた魔王と戦いました。
勇者は魔王に一太刀浴びせるも力及びません。
魔王は勇者を殺すと魔界に帰って行きました。
魔物はどんどん増えていきます。
王様達は諦めません。
「魔術師よ、次の勇者を召喚するのだ」
「はい。王様」
魔術師はそう言うと召喚魔術を改良して、新たな召喚魔術を作りました。
魔術師は召喚魔術を発動させます。
召喚魔術は成功しました。
異世界から勇者が召喚されました。
六代目勇者は死剣の勇者と呼ばれました。
王様は勇者に命令します。
「勇者よ。魔物を減らし魔王を倒すのだ」
「わかりました、王様」
異世界から呼び出された2人目の勇者は、まず大陸の魔物を減らしました。
そして大陸に現れた魔王に深手を負わせます。
けれど力尽き死んでしまいました。
魔王は勇者が死ぬのを見届けると魔界に帰って行きました。
魔物はどんどん増えていきます。
王様達は諦めません。
「魔術師よ、次の勇者を召喚するのだ」
「はい。王様」
魔術師はそう言うと召喚魔術を改良して、新たな召喚魔術を作りました。
魔術師は召喚魔術を発動させます。
召喚魔術は成功しました。
異世界から勇者が召喚されました。
七代目勇者は、今まで召喚された勇者の中でも飛び抜けて強い勇者でした。
王様は勇者に命令します。
「勇者よ。魔物を減らし魔王を倒すのだ」
「はい。わかりました、王様」
異世界から召喚された3人目の勇者は、仲間と共に大陸に蔓延っていた魔物を次々と倒していきました。
勇者は一つ不思議に思うことがありました。
穴から魔物が現れたのを見たことのある人が、あまりいなかったのです。
勇者は不思議に思いましたが無数にある穴を全て調べる事など出来ません。
勇者は旅を続けます。
魔王はいまだに現れません。
勇者はたくさんの国に行きました。そこでも魔物を次々に倒していきます。
魔物の脅威に晒されていた人々は勇者を称えました。
勇者はある国に立ち寄りました。
その国は竜を信じて、精霊と共にある国でした。
勇者はそこで不意に驚く事を聞きます。
その国の人は、ほとんどの魔物は穴から出てきている訳ではないと言うのです。
勇者はその国の人になぜそんなことが分かるのか理由を聞きました。
するとその国は魔界の事を他の国よりずっと詳しく調べていて、魔界の住人にも話を聞く事ができたと言うのです。
勇者は疑問に思っている事を尋ねました。
「では、魔物は何処から現れているのですか」
その国の人は淀みなく答えました。
「あれは大陸に元からいる生き物達です。
世界が衝突した時にできた黒い穴の影響を受けて、魔物になっているのです」
勇者は驚きました。
けれど各地を巡って疑問に思っていた事が、それならば辻褄が合いました。
さらに勇者は尋ねます。
「では魔王と呼ばれている魔物は一体何なのですか」
その国の人は悲しそうに答えました。
「あれは魔界住む者です。決して魔物ではありません」
「ですが魔王はこの大陸の人々をたくさん殺しています」
「それはこの大陸の多くの国々が、あちらに兵を送ったからです」
勇者は黙り込みました。
その人は話を続けます。
「魔界の者達も、ある日現れた穴と時を同じくして、魔物が出現するようになったと言っていました。
私の国はその事を魔界に兵を差し向けた王達に、何度も何度も言いました。
けれど信じてもらえませんでした」
その人はさらに勇者に言いました。
「勇者さん、どうか魔界に住む者とは争わないでください。
こんなことになったのは、全てこの大陸にいる人のせいなのです」
勇者は考えました。
この事が本当ならば確かめなければなりません。
勇者は仲間と共に魔界に行く決意をしました。
勇者がその事を伝えると、この国の人が案内をしてくれることになりました。
勇者は仲間達と共に魔界に行きました。
魔界には確かに強い魔物や、大陸では見たことのない生き物がたくさんいました。
勇者達は案内されて魔界に住む者に会うことができ、話も聞けました。
すると驚愕の事実が判明したのです。
なんと魔界に住む者達も魔物の被害に遭っていたという事が分かりました。
それなのに大陸の人々は魔界に攻めて、魔界に住む者達を襲っていたのです。
魔界の王様はそれを知り酷く気に病みました。
そして魔界で力の強い者を大陸に送り込み、巨大な戦力を抱えている国を滅ぼしていったのです。
それにより大陸から時折やってくる兵達による、魔界の住人の被害は無くなったのです。
すべて案内をしてくれた人の国で聞いた事と同じでした。
勇者達はそれを信じました。
真実を知った勇者達は、勇者を召喚した王様にこの事を報告しました。
そして魔界に攻め込むのを止めるように言いました。
しかし王様は信じませんでした。
「そんな事がある訳がないだろう。
勇者よ、これから魔界に総攻撃を仕掛けるのだ。
兵と共に魔界に行き、魔王を殺すのだ」
勇者は辛抱強く王様を説得します。
「王様、向こう側の者達は敵ではありません。兵を向かわせるのはもう止めて下さい」
けれど王様は聞く耳を持ちません。
しかし王様の末の王子様は勇者の話を信じました。
末の王子様は精霊の声が聞こえたので、勇者が本当の事を言っているのが分かったのです。
末の王子様は王様に言いました。
「王様、勇者様の事を信じて下さい。
勇者様は本当の事を言っています。
もう兵を魔界に向かわせるのは止めて下さい」
しかし王様はそれを聞いて大変怒りました。
そして兵に命令をします。
「兵よ、勇者と末の王子を捕らえるのだ!
勇者などもう必要ない。
近隣の国々の兵達を集めて、魔界に総攻撃をするのだ」
兵は王様の命令どおりに勇者と末の王子様を捕らえようとしました。
けれど勇者に敵う者などいるはずがありません。
勇者は剣を抜いて兵を殺しました。
勇者は怒り、説得を諦めて王様を殺そうとしました。
しかし勇者が王様を殺す前に、末の王子様が王様を討ち取りました。
末の王子様は勇者の前に膝をつきます。
「勇者様、私達はこの世界になんの関係もなかったあなたを召喚しました。
そして今まで気付かなかった真実を教えられました。
それなのにあなたを害そうとした罪は、もはや王の首一つではとても贖えません」
末の王子様は深く頭を下げました。
「どうか私の首でもって怒りを収めて下さい」
勇者はそれを聞いて剣を下ろしました。
勇者はこの末の王子様ならば、兵を魔界に向かわせる事がないと思いました。
勇者はまだ年若い末の王子様の後ろ楯になることにしました。
そして末の王子様は勇者や勇者の仲間達の支持を受けてその国の王様になりました。
王様は自分の国だけでなく他の国々にも、魔物は魔界から来ているわけではないと広めていきました。
勇者に助けてもらった人々はそのことを信じました。
信じられずに戦争になった国もありました。
王様はその国々と戦ってすべての国を統括しました。
時が過ぎ、魔物が魔界から現れると信じる人はいなくなりました。
勇者は二度と召喚されることはありませんでした。
実は話の中で1000年以上の時が流れているていう……。