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魔界姉弟

作者: みもこちと


 弟という生き物は姉の奴隷であるという。

 いかに弟が眉目秀麗、文武両道、人当たりも良くて、周囲の評判も上々といった笑えるほどハイスペックな男児であろうとも、いかに姉が中の下レベルの容姿の自堕落女であろうとも、その力関係はなかなか覆らない。

 そう。たとえ弟が魔王の息子であり、魔界最強といわれる魔力を持っていようが……。




 シルヴァルピリアデリベリアは魔王の長女、魔界の王女である。しかし、その能力はそこらの魔族以下であった。火魔法はろうそく程度しかつけられないし、水魔法はのどの渇きを潤すのがせいぜいだ。

 反して弟のデルジェリオズデリベリアの力といったら、相当なもので、火魔法で大海を飲み込み、水魔法で太陽を消すといった勢いだった。ちなみに、これらは全部実際に行われたことである。おかげで魔界の海は今は三分の二に減り、太陽はちょっと光が弱まっている。

 

 姉弟の性格もまた正反対。魔王の子どもの、性格が悪い方といえばシルヴァルピリアデリベリア。良い方といえばデルジェリオズデリヴェリアといった次第である。


 姉の分の才能を弟が全部持ってうまれてきたなんていわれることもよくあった。

 性格の良いデルジェリオズデリヴェリア(以下オズ)は「まったくもってその通り。姉上の脆弱さときたら、腹の中でも発揮されていたんだろうね」と笑い飛ばすが、それを聞いた性格の悪いシルヴァルピリアデリヴェリア(以下ピリア)は「そんなわけない! アレの異常さは私がいなくたって変わらなかったでしょうよ」とふてくされるのであった。

 ちなみに魔界での性格の良し悪しは、人間界の意味ではあまり通じない。


 こんな正反対の二人であるが、世の姉弟の例にもれず、力関係はピリアが上である。そこには性格だけではない事情があった。


 この魔界では、魔王は長子の世襲制だ。長子の能力が足りない場合は伴侶で補えといった決まりで、一夫多妻、一妻多夫、どんとこいというものである。おかげで、歴代の次期魔王の中でも飛びぬけて力の弱いピリアには夫がたくさん必要であろうと、たくさんの求婚者がいた。

 力こそすべての魔界において、弱小王女なぞ、押し倒してしまえばこっちのものと、息巻く求婚者たちに対して、困ったらしいのがオズだった。

 姉がどんな伴侶とつがおうが勝手だが、無駄に猜疑心の強い男では、強い義弟を排斥しようと考える可能性がある。

 魔王にはなれないまでも、魔王弟としてある程度の権力を握るつもりであると言い張るオズは、自分と敵対しない王配を求めて、求婚者たちを一掃していた。



 


 

 赤い月の輝くお茶日和、いやお茶月和、姉弟が二人でのんびりしていると、唐突にピリアが両手をうった。


「オズ、わたし好きな人ができたわ!」

「へえー誰?」

「スライム族のジュルジュル様!」


 とくに興味をひかれた様子もなく、カップの端の蜘蛛を覗いていたオズだが、姉の言葉にぽんと優しく虫を燃やして、渋い表情で彼女を見やり、言った。


「却下」

「え」

「すべての能力において、王配にふさわしくない。わかって言ってるだろう」

「かわいいのに」

「かわいさは伴侶の条件に含みません。いいかげん姉上は自分の能力のなさを自覚したらどうかな。生半可な魔族だと五十人は伴侶にしないといけないくらい弱いんだから」

「でもさ、魔力値ナンバーワンのマーリン族のマリゾン様は、あんたが海を干上がらせて追い返しちゃったし、すっごい頭がいいっていうエルフ族のセルフィー様も、あんたが「太陽消して光合成できなくしてやる」って脅して逃げられちゃったじゃん」

「あーいう小賢しいタイプは駄目だって。姉上を下に置く気が透けて見えていたし、そのついでに俺まで下に見るような奴じゃ困る。多少能力は劣っても、俺らと対等になる気がないと」

「だからジュルジュル様……」

「スライム程度だと姉上の伴侶は百人は必要だね! だいたい、そのジュルジュル様とやらの何が気に入ったんだよ。面会にはいなかっただろ」

「気になる?」


 ピリアは、大きめの焼き菓子とともに、二杯目のお茶を口に含んだ。相手が答えない限り、絶対にしゃべらないという彼女なりの意思表示である。オズは蜘蛛のついたカップを地面に投げた。


「そりゃあね。干上がった海を見て爆笑、太陽が弱くなって悠然と昼寝。それなりに、立派だった求婚者の醜態を、腹抱えて傍観していたあんたが、どうやって落とされたか、興味はある」


 愁眉をゆがめる弟に、ピリアは口の中身をごくりと飲み込み、端からこぼれた液体を袖でぬぐって、ほくそ笑んだ。


「庭を歩いてたら、花を渡して、「はんりょにしてくだちゃい」って」


 目を丸くした弟の口に、ピリアは笑ったまま、黒色をした焼き菓子を押しつけた。からかわれたことに気付いたオズは、その手を軽く払い、イスから立ち上がって言った。


「ちょっと庭の害虫溶かしてくる」






 月が山端に近づく頃、魔王妃自慢の庭の植木の、およそ半分が燃え尽きたそうだ。

 お気に入りのバラを消し炭にされた魔王妃が怒り狂い、姉弟を半日正座の刑に処すのは、黒い太陽が空の真ん中に昇った頃の話である。



読了ありがとうございます。

いつ出せるかわからない裏設定では今の二人は知りませんが実は従姉弟です。ありがち。

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