No,5 まさかの出来事
「ふわぁああぁぁ・・・・・よく寝たぁ」
朝日の気持ち良さにミラは目を覚ますが、再び二度寝を企てる。
「だめだ!フレディに怒られる!!」
ミラは急いで飛び起きると、時計の時間に目をやる。
「8:00か・・・そろそろ着替えるか。」
ミラはベッドから起き上がる。
「ほんの一週間離れてただけなのにこんなにベッドが気持ちよく感じるなんて・・・」
ミラは顔を洗い、パンをトースターに突っ込んだ。
あれから6日が経った。あの後、リサはミラの同期などに片っ端からミラについて聞き、ミラが魔術は使えないことはほぼ証明された。
まだまだミラは覚えてないの一点張りで疑問は残るのだが・・・
それでもミラは疑いが晴れたため、その後はセレーナ王国の調査を引き続き行った。
結果、ミラの近くで骨が動き始めるなどの異常現象は起こらなかった。
フレデリックやミラの言葉を疑うわけではないが、軍上層部はそれは幻覚として片付けた。誰かがミラたちに幻覚系の魔術を使ったということだ。
そうすれば、ミラが無傷だったのもその魔術師によるもので片付けられる。
何が目的かは分からなかったが・・・・・
「以上が今回の調査の結果報告です。」
第120班から第140班までが集まり、整列している。
その前で今回の任務の責任者であるリサが将軍たちの前で結果報告を行っている。
内容はドクロの軍団やミラのことについて、またそれが他の魔術師による幻覚である可能性やその後の調査には何も手掛かりが無かったことなどがあげられる。
「話にあったミラとはどいつだ?」
将軍の一人が尋ねた。
「私です!」
ミラは列の一番前に並んでいたためすぐに分かる位置にいた。
「お前か。確か武術部隊の期待の星だったな。」
ミラは「そうなの!?」と内心思ったが口の中に押し込んだ。
「魔術が全く使えないのは本当か?」
「はい!最初の試験で才能ゼロの評価だったため全く練習しなかったので間違いありません!!」
ミラは胸を張って答える。
「そこまでは聞いてないが・・・」
将軍はそう言い、すこし表情が和らぐ。
ミラが言わなくてもいいことまで言ったので辺りからも少し笑いの声が聞こえる。
「なら、何か光の衝撃があったときの記憶は戻ってきたか?」
「・・・いいえ・・・・・残念ながら。」
「そうか。」
「申し訳ありません!」
「いや・・・仕方あるまい。」
将軍はそう言うとミラへの質問を止めた。
「これ以上の報告は無いのだな?」
他の将軍がリサに聞いた。
「はい。今回はこれしか収穫がありませんでした。申し訳ございません。」
リサは頭を下げる。
「もうよい。頭を上げろ。後日また調査団を送るとして今回はこれくらいでいいじゃろう。」
将軍の一番偉そうな雰囲気の人がそう言った。
「それでは今日は解散じゃ。皆帰ってよいぞ。」
将軍たちを残し、皆帰って行く。そして部屋には将軍たちのみが残った。
「どう思う?」
「嘘はついてるように見えんかったがな・・・」
「まぁ魔術が全く使えないのは本当じゃろう。」
「記憶の有無については?」
「それは判断できんかった。」
「記憶については確たる証拠がありませんからね。」
「まぁ、様子見でいいのでは?」
「うむ。そうせざる終えまい。」
「奴についてをよく知るフレデリックに探りを入れてみるのはどうだ?」
「考えておこう。」
何人かの将軍の声が扉から漏れていた。もっとも、それを聞いている者は一人しかいなかったが・・・
「フレディ。今日午後は暇?」
先程の解散後、ミラたちの班は任務が入っていなかった。
だからとりあえず皆第126班用のオフィスに来ていた。そのためミラはフレデリックに退屈しのぎの相手にさせようとしていた。
「暇ではない。」
「じゃあ暇にして。」
ミラはフレデリックの素っ気ない態度に内心傷つきながら食い下がる。
「無茶言うな。」
フレデリックはそう言うと立ち上がる。
「じゃあ俺は用事があるからもう行くぞ。」
「え?もう!?」
ミラがそう言っている間にフレデリックは扉を閉めてどこかに行ってしまった。
「ふられたわね。」
レミが突然ミラに肩を組んでくる。
「へ?」
ミラのふぬけた声が辺りに響く。
「じゃあミラ!私に一日付き合いなさい。」
レミはそう言うなりミラの腕を強引に引っ張っていく。
「えぇ!?ちょっと・・・!」
ミラは抵抗する間もなくレミに連れ去られていく。
「・・・・・・・。」
辺りにいた他の班員たちはただ呆然とその姿を眺めていた。
「俺らも仲間に入れてくれないのか?」
ロンは呟く。
他の残された2人の班員も頷く。そして3人は声を揃えて言った。
「暇だなぁ・・・」
「実はこれを一緒に食べにいきたいのよ!」
レミはミラをある程度引っ張ると手を離した。そしてミラの片手に雑誌を持たせる。
「ミラは行きたい店とかない?」
「え?特にありませんけど・・・」
ミラは少し困った顔をしながらそう言った。
(私はフレディから見るとこんな感じだったのか・・・)
ミラはそう思いながらまた引きずられていった。
「魔人の好む味ベスト3・・・?」
ミラはさっきレミに渡された雑誌に折られたページがあったため開いてみると、そう書いてあった。
「魔人の味覚と、人間の味覚がどれくらい違うのか知っときたいのよ。」
レミはミラの聞こうとしていることが分かったらしい。
「私が何でここに行きたいのか、分かった?」
「何で魔人の味覚が知りたいんですか?」
ミラは率直に疑問を投げ掛ける。
「ちょっとね・・・ウチにはめんどくさい魔人の子供と人間の子供が一人ずつ居てね・・・親父が孤児を拾ってきたんだけどさぁ・・・・・」
レミは苦笑しながらそう言う。
「食事で魔人の子供の方がやたらうるさいんだよ。不味いだの何だの言ってさ!だから、魔人の味覚を知って、あいつにも上手いもの食べさせてあげたいのよ。」
それを聞き、ミラはようやく納得した。レミの性格を考えれば当然のことだろう。
「そう言ってる間に着いたわよ。」
レミは目の前にある店を指差した。そこには新しい感じのカフェがあった。いかにも繁盛してますといった感じのオシャレなカフェだ。
カランカランという扉の音を鳴らしながら二人は中に入っていった。
「いらっしゃいませ!」
店の奥からは何やら高い女性の声が聞こえた。
「何名様でございま・・・すか・・・」
店員さんは二人を見た瞬間に固まってしまった。長くて黒い髪を後ろで束ねて、メイド服のような衣装を身にまとっている美人。ミラとレミも固まった。目の前の女性には見覚えがある。
「・・・リサ魔術部隊長・・・・・?」
二人は声をそろえた。
まさかの出来事に今だ頭が付いていかなかった。目の前に先程まで凛とした態度をとっていた女性が軍服ではなく可愛らしいメイド服を着て現れたら流石に皆驚くだろう。
「こ・・・これは臨時の助っ人というかで!いつもこういうことしてる訳じゃないんだぞ!!」
リサは驚きを隠せない表情で顔を赤らめながらフォローしようとする。
「いや・・・まだ何も言ってません。」
ミラはそう言いながらもやはり驚きを隠せずにいた。
「とにかく!二人でいいんだな?」
リサは話しの話題を変えようと必死になる。
「は・・・はい。」
レミも同じ様子だ。やはり驚きを隠せていない。
「注文を言え!」
リサは店員とは思えない態度でミラたちに言った。
「えっと・・・この魔人人気No,1の干からびパフェを二つ・・・」
「了解した。」
レミとリサの短い会話が交わされる。その中、ミラは干からびパフェというとんでもない名前について必死に考えていた。
(干からびパフェって何だろう・・・干からびって言ってるだけあって何か全然味が想像できない・・・・・)
ミラが頭を悩めさせているとレミが話しかけてくる。
「と・・・とりあえず、任務疲れたね!初任務からあれじゃあちょっと気の毒だよ・・・」
あからさまに話題を変えようとしているレミに横から他の声が入ってくる。
「全くだ。あんな面倒な任務、私が入隊してからの10年間、一度も無かったぞ。」
リサはそう言うと干からびパフェをさしだす。
見た目は綺麗に彩られた華やかさには目を見張るものもある普通ねパフェだ。
「そんなことよりリサさん!何でこんな所で働いているんですか!?」
ミラは躊躇いもなくレミが言おうか言うまいか迷っていたことを聞いた。
「あぁ・・・昔学生時代にここでバイトしていてな。また雇って貰ったんだ。」
リサは冷静さを保ちながら答える。
「え!?でも軍の仕事は・・・?」
ミラがそう聞くのを予想していたのかミラがまだ話している途中に遮るかのように話し始めた。
「それなら問題はない。解雇されたからな。」
「え!?」
ミラとレミは口を揃えた。
「えええぇぇぇえぇぇぇ!?」
まさかのことをさらって言うリサに二人は顔を見合わせる。
「な・・・なな何で!?」
ミラがそう聞くとリサは少し笑って答え始めた。
「分からん。だが、今回のことで失態を作ってしまったのは確かだからな。」
リサは軽く答える。
「あれだけ軍を動かして、得られた情報がたったのあれだけではな・・・責任者に問題があると考えるのは当然だろう。まぁ、解雇の口実はそれだが、実際は違うだろうがな。」
リサは最後にボソッと言ったが、二人は聞こえなかった。
そして二人は戸惑う。
まさかあの凛としたかっこいい系女子のリサがこんなあっさり解雇されるなんて思いもよらなかった。
「この間はすまなかったなミラ。お前に罪を押し付けようとしてしまっていた。ちゃんと確かめることもなく・・・な。」
リサはミラに頭を下げる。ミラはあわててリサに頭をあげるように言う。
「やめてくださいよ!私はちっとも気にしていませんし、元はと言えば、私が覚えてないのに問題があるんですから!」
ミラはそう言うとリサに笑顔で笑いかける。
「本当にすまない。これは詫びと言っては小さいが、このパフェは私の奢りだ。存分に食べてくれ!」
リサはミラの笑顔を見てほっとすると、笑顔で食べるように促した。
「じゃあいただきまぁす!」
ミラとレミは一口食べる。
「まっずぃ!!!」
レミはリサの前なのに我慢出来なくなって言ってしまった。
「それはそうだ。これは魔人の味覚に合わせているからな。人間にはそうそう受け入れられる味じゃない。」
リサはくすくす笑いながら言った。
「えー?そうですか?美味しいんですけど・・・」
ミラは美味しそうにパフェを頬張る。
「シラス干しとかが入ってるから干からびパフェっていう名前何ですね♪」
ミラは最後まで平らげた。
「お前・・・人間か?」
レミとリサは口を揃えてそう言った。
「本当に美味しいですよ!」
ミラは笑いながら答える。
「実は魔人っておちはないよな?」
リサは苦笑いする。
「ごちそうさまでした。」
レミは結局他の人間用のを頼んだ。二人は食べ終わり、リサの奢りということで勘定もなく帰ろうとしたが、リサに引き留められる。
「二人とも、ちょっといいか?」
「あ・・・はい!大丈夫ですよ。」
ミラはにこやかに返す。笑顔が取り柄というのがよく似合う。
「今の軍はどうにも怪しい。具体的に何がと言うのは分かってはいないんだがな。」
リサは急に声を小さくした。
「え?」
ミラはキョトンとする。
「何が怪しいかは分からないから何とも言えないんだが、私はそれに探りを入れていた。だから解雇されたんだろう。」
リサは目線を下に背け、何かを考え始める。
「えぇ!?それって・・・」
ミラがちょっと大きな声で言うのでレミはミラの口を片手で押さえた。
「とにかく、気を付けろよ。」
リサはそう言うと、店の奥に入っていった。
「なるほどね。いくらなんでもあの程度の失態でリサさんほどの人が解雇される訳がないとは思っていたけど、それなら納得いくわね。」
レミはそう呟くとミラの方を見た。ミラもまた、考え事をしていた。
「ねぇレミさん。何でリサさんは私たちにこんなこと言ったんだろう・・・」
ミラは再び考えこむ。
「さあね。」
レミの声が辺りに響いた。