No,4 初任務 II
「ハァハァ・・・ハァ・・・・・」
ある程度走ったところでフレデリックは両手で膝に体重をかけながら立ち止まり、後ろを向いた。そこにはもうさっきのドクロの軍団はもう居なくなっていた。
「撒けたか?」
フレデリックはそう呟き辺りに座り込んだ。その息づかいは荒く、如何にここまで全速力で走ってきたかが分かる。フレデリックは先程のドクロの軍団が一体何なのか、さっぱり分からなかった。
(そもそも奴等は何であんな状態なのに動けるんだ・・・・・魔術で似たようなことが出来なくはないが、確かそれは人形を動かすもので重さは10kgまでということが実証されていたはずだ・・・いくらなんでもあんなにたくさんの人の骨を動かす手段なんてどこにあるんだ一体・・・・・)
フレデリックはひたすら考えた。魔術的な思考でいけば可能を不可能に出来ることを彼は知っていたからだ。フレデリックは魔術に特化した魔術部隊の人間であるため、何でも魔術に結びつけて考えたくなるのは当然と言えば当然である。何より彼は魔術においては5年に1人の逸材と呼ばれていたため自分に分からないということがプライドを傷つけた。
(10kgの壁を越えられるのは魔術部隊のどの人間にも無理だったことのはずだ。でもそれ以外あんなに骨を自由に操る方法なんて・・・・・)
フレデリックは頭を抱えた。
「ハハッ・・・久しぶりに難題だな・・・」
フレデリックはそう言い、立ち上がった。そして
「そういえば・・・・・ミラはどこだ?」
フレデリックに一筋の汗が流れた。なんとなくそこに居るつもりで座り込んだがよくよく考えたらミラとは途中ではぐれたのだった。
「まさか・・・ドクロの軍団は全てミラの方に行ったのか・・・・・!?」
フレデリックの体は勝手に走り出していた。さっきまでヘトヘトでもう動けないと思っていた体が自然と動き始めた。
(クソッ!何で今まで気づかなかった!!何を悠長に考えてたんだ俺は!!)
フレデリックはこれほどまでに一歩一歩を遅く感じたのは初めてだった。
(待て!そもそもなぜドクロの軍団はミラの方に行ったんだ!?)
フレデリックは何かがつっかえたように思考が遅くなる。
(考えてみれば他にも不自然な点はたくさんあるぞ・・・たしか俺やミラが一緒に逃げているとき、周りの死体がどんどんドクロと化していった。今までまるで動きも何もなかったのに・・・そして今現在俺の周りにいる死体には何の変化もない。それに最初にドクロが現れたのはミラの前だった。こうも全てがミラの前で起こっているのは全て偶然なのか?もし偶然じゃないとするともしかしてドクロの軍団の狙いは・・・・・)
そこまで考えるとフレデリックは考えるのを放棄した。彼の心の中にはミラの無事を願うこと以外が消え去っていた。
そしてその音を聞いた。
ガキイィイィィィィイィン
その音はフレデリックの走っている方向から聞こえてきた。そして物凄い光が彼を襲った。
「魔力を感じる・・・」
彼はそう呟きさらに足に力を込めて、地面を蹴るようにして走った。
「ミラ!いるか!?」
フレデリックは音と光ね根元と思われるところに辿り着いた。辺りは爆発の後のように地面を丸い窪みができており、周りにあったと思われる家などは倒壊していた。
(こんな強力な魔術・・・見たことがないぞ!一体誰がこんなこと・・・・・)
フレデリック信じられなかった。実際、ここまでの魔術を使える人間は魔術部隊の中にも片手で数えられる程度だろう。
(ミラはどこだ。無事なのか!?)
フレデリックは必死になってミラ探した。こんな魔術に巻き込まれたとしたら助かる可能性なんて1%を切っているだろう。フレデリックはひたすら焦りを抑えて探し続けた。すると瓦礫の下に埋もれて、腕のみが出ている人間が居るのに気づいた。フレデリックは嫌な予感がした。首筋を風が撫でる感覚がした。妙に冷えて感じた。
「ミラ!」
彼はひたすらその名を読んだ。
「念動」
フレデリックは本来魔術に必要な呪文を破棄し、魔術名のみを言った。呪文を破棄すると失われる魔力が大きいのだが、フレデリックにとって今はそんなこと言っている場合ではない。瓦礫の山が見る見る内に退けられていく。そして人の頭のようなものが見えた。髪の色は赤・・・・・その色には心当たりがあった。
「ミラ・・・」
彼は喉が干上がるような感覚を感じとり唾を飲んだ。もう彼にも分かっていた。瓦礫の下に埋もれている人間が誰なのかを。いや、ここに来た時から分かっていたが、自分を信じようとしなかったのである。
「フレディ?」
聞き覚えのある声がフレデリックの耳に届いた。そして一気にミラを瓦礫の下から魔術で引きずり出した。
「ミラ!聞こえるか!?」
フレデリックはそう言うとミラをの体と顔に目を回した。目立った外傷は見えず、さっきの強大な魔術による怪我は無いように思え、安堵した。しかし、ミラの目を見た瞬間、頭が真っ白になった。
「目が・・・・・黒い・・・?」
普段のミラの目の色は黄色であったはずだ。なのになぜ黒いのか・・・フレデリックには全く分からなかった。そんなことを考えていると次の瞬間ミラの体から力が抜けた。
「ミラ!どうした!?」
フレデリックはミラをひたすら読んだが反応がない。専門ではないが、回復魔術の術式を立ち上げようとしたらミラから寝息が聞こえた。
「なんだ。寝ただけか・・・人騒がせな奴だな。」
フレデリックは安心するとさっきまでの疲れがドッと来たらしく、その場にへたれこんだ。
少しすると騒ぎを聞いた他の班員達が集まってきた。
「フレディ!今の音は何だ!?」
ロンはそう言うと走って駆け寄ってきた。
「分かりません。ただ、ミラなら何か知っているかも・・・」
フレデリックはそう答えると事の始終を話し始めた。
「ドクロの軍団ねぇ・・・」
レミはそう言うと何か考え込んだ。レミとヘキサも魔術部隊の人間のため、ドクロの軍団のことは少し信じられないというような表情をしていた。
「ところで、ミラは平気なのか?」
ロンはフレデリックにそう聞いた。
「はい。ミラには目立った外傷は無く、見つけた時は瓦礫に埋もれていたからそっちが原因で今は気を失っているんじゃないかと・・・」
フレデリックの言葉にレミが怪訝そうな表情を浮かべる。
「ねぇフレディ。ミラは武術部隊の人間だったわよよね?」
レミの突然の問いにフレデリックはあわてて答える。
「あぁ。」
「じゃあ、こんな強大な魔術、どうやって防いだのよ?正直言ってここまでの魔術だったら私でも防ぎきるのは無理だよ。ミラは軍学校時代、魔術の成績も良かったのかい?」
フレデリックはそれを聞いてハッとなった。
「いや・・・そもそもミラは全く魔術が使ないんだ。」
フレデリックがそう言うと班員全員が驚きを隠せずにいた。
「魔術が使えずに成績上位50名に入るなんて・・・」
ヘキサがそう言うとレミはヘキサの頭をスパカンッと叩いた。
「そこじゃないわよ!ミラはどうやってあの魔術に巻き込まれながら防いだのかってこと!!」
おかしな話だった。確かにミラは頑丈だが、これはもはや頑丈のレベルを超えている。
「そもそも何故あのドクロの軍団はミラばかりを狙ったのだ?」
ロンはそう言うと考えこんだ。
(ミラの目の異常について言うべきか?でもあれは見間違いかもしれないし・・・)
フレデリックは悩んでいた。
「これはどういう状況だ。」
フレデリックはドキリとした。そして声の方向を向く。
そこには長い黒髪を後ろで束ねている女性、魔術部隊隊長のリサ・レイセイブとその班員と思われる人たちと他の班の人たちが多く集まって来ていた。
ミラの目が覚める。
「・・・フレディ?おはよー」
ミラは一番最初に視界に入ったフレデリックにそう言う。
「何がおはよーだ!皆どれだけ心配したと思ってる!!」
フレデリックの言葉にミラは困惑する。
「そもそも私は何で道端で寝てるんだろう・・・」
フレデリックや周りの班員たちが呆れ返る。
「お前、覚えてないのか?」
ミラはまだ困惑しながら必死に思い出す。
「えっと・・・・・確か変なドクロみたいな軍団に襲われて・・・ぎゃああぁあぁぁ!!!骨に足捕まれて・・・・・」
「とりあえず落ち着けミラ。」
フレデリックはそう言いながらふと気が付いた。ミラの目が黄色に戻っていることに・・・・・
(やはり俺の見間違いか・・・?)
フレデリックはとりあえず安心する。しかし、その安心感はいつまでも続きはしなかった。
「そろそろ良いか?」
「へ・・・?リサ・レイセイブ様?」
ミラでも顔くらいは知っている超有名人なのだ。なんせ初の女性魔術部隊隊長であり、歴代最年少で魔術部隊の隊長まで上り詰めた実力者だからだ。
「貴様は何をした?」
「え?」
ミラには質問内容がよく分からなかった。
「貴様が魔術が使えないのは本当なのか?」
ミラは困惑する。何故こんなこと聞かれるのかがよくわからないからだろう。
「えっと・・・軍学校では訓練中一度たりとも使えませんでした。」
「なら何故貴様はあの魔術の影響を受けていないのだ!?」
ミラには何のことだか分からなかったが、自分に対する敵意ははっきりと分かった。
「あの・・・何のことだかさっぱり・・・」
「しらばっくれるな!!」
ミラの体がビクリと震えた。何故自分がこんな目で見られるのか理解できない。
「あの強大な魔術は何だ?」
フレデリックはリサ・レイセイブが何を言いたいのかが何となく分かった気がした。
「レイセイブ隊長!彼女は本当に魔術が全く使えません!!恐らく証人や証拠ならいくらでもあります。」
フレデリックは必死にミラの弁護をした。
「でもな、ミラ・ブロッサムがあの強大魔術を使ったなら、ミラがほぼ無傷だったのも頷ける。また、ミラがただ近くにいただけで、ただの傍観者だったとしても防御系の魔術が使えるなら話が通じる。しかし、この二つの仮説はどちらにしても魔術が使えなければならないのだ。」
リサの言っていることは最もである。しかし肝心のミラはと言うと、
「あの・・・まずあの強大魔術って何ですか?」
といった調子だ。
「ミラはあの光の衝撃もあまりにも強大だったため記憶が一時的に抜けてるようです。今の彼女に何かを聞くのは酷じゃないかと・・・」
ロンはとりあえずこの場をどうにかするためにミラが状況把握ができていないのを利用した。
「分かった。とりあえず状況確認はまた後日にする。」
リサの言葉にフレデリックは全身で安堵する。もしあのままリサが問い詰めて来ていたらミラは半強制的にこの強大魔術の犯人にされ、許可なく調査中に魔術を使い、貴重な証拠が残っているかもしれないような場所を壊滅させたということで懲戒処分だったかもしれない。
「では今日のところは調査は中止して、明日に備えよう。」
リサの言葉に、ミラの周りに集まっていた他の班の人たちは一旦解散していった。
「しかし、災難だったなミラ。」
ロンはミラの肩をポンッと叩くとそう言った。
「本当に災難だったわよね!あれじゃあまるでミラに罪を擦り付けようとしてるようなもんじゃない・・・憧れのリサ様だったのに幻滅したわ。」
レミはそう言うなり、その場に座り込む。
「とりあえずは今日はここにテントをはって野宿だな。」
そう言うなりフレデリックは辺りにあった任務用具入れを探し、中からテントのビニールを取り出した。
「ミラ、とりあえず今日は休め。それで何かを思い出したら報告すればいいんだ。」
フレデリックの言葉を聞き、ミラは一瞬凄く悲しそうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「?」
しかし、フレデリックはその一瞬を見逃さなかった。
(何だ今の顔・・・・・)
フレデリックはそう口に出して問いたいところだったのを押しこらえた。
「ごめん、ありがとう。」
「ちょっとー!ミラ、こういう時は謝らなくったっていいのよ!!」
レミはミラの頭を思いきりグシャグシャするとテントの手伝いに強制連行させた。
「本当にごめん。」
ミラの言葉は闇に溶け混んでいった・・・・・