No,3 初任務 I
「ハァ・・・ハァハァ・・・」
ミラの走る音が聞こえる。
辺りは町の道のど真ん中で人の気配一つない。
あるのはただひたすらに寂しい雰囲気と風が吹く音とミラの走る足音のみである。
「何でよ・・・何でこうなったのよ!!」
ミラの声からは恐怖と疲労が感じられる。
そもそもなぜこうなったのか・・・・・それを説明するには少し時間を遡らなければならない。
a.m.6:00
セットしておいた目覚まし時計がなり出す時間である。
しかし、ここはお決まりの展開のようにミラは起きなかった。
「う~ん・・・・・あとちょっと・・・」
と言いつつ時計を止め、5分後に再び時計がなる。
それを繰り返すこと5回、時刻はa.m.6:25となる。
「・・・・・寝坊だ。」
ミラはそう言うと飛び起き、急いで軍の制服に着替えた。
顔を洗い歯を磨き、パンを口の中に丸飲みして急いで家を出た。
そして今に至る・・・・・と言いたいところだが、現実はもっと厳しかった。
なぜなら、もうすでに集合場所には6:58に着いてギリギリながらに間に合っているのである。
ならどうしてミラは今走っているのか、それはこの続きで分かる。
「えぇ!?壊滅した国の調査ですか?」
昨日ではあまり任務の詳細について、詳しく聞けなかったため任務地に移動中に班員たちはロンから聞いていた。
「うむ・・・・・どうやらそうらしい。壊滅したのはアレセリア帝国のすぐ南に位置する小国、セレーナ王国だ。」
セレーナ王国と言えばアレセリア帝国とは交遊関係を結んでおり、アレセリア帝国から何回も経済支援などを送ってきた。
まだ発展途上の国ではあったが、なかなか高度な医療技術をもっていた。
「最後にセレーナ王国と連絡がとれたのは2週間前で、セレーナ王国からの旅の一座が来たときだ。それ以来その後何の連絡も無くなり少し怪しんでいたのだが、様子見状態だった。しかし、2週間前に来た旅の一座が3日前に帰ろうとしたところ、自国が壊滅していたため、戻ってきたのである。」
ミラは黙って任務の概要を聞いた。
すると、隣にいた同じ班の黒髪の眼鏡の年は20くらいのいかにも頭脳はタイプっぽい男が口を開いた。
「ちょっと待ってください!それってつまりセレーナ王国はわずか10日くらいで壊滅したことになるます。」
ミラの鈍い頭でも分かる事柄だった。
ちなみにさっき発言した眼鏡はヘキサ・クロムウェルだ。
「確か遅刻の原因は渋滞に巻き込まれたこと。」
ミラはヘキサの昨日の会話を思いだし、つい口に出してしまった。
「ミラ・・・そういうことは心の中でのみ言え。」
と、フレデリックが言い、ヘキサは
「僕の印象はそれだけか・・・」
と半分諦めた声で言う。
それを聞いてミラは急いでフォローするように大きめな声で言った。
「そ・・・そんなことないですよ!他に眼鏡とか眼鏡とか・・・の印象がありますもの!!」
「ミラ、フォローになってないぞ。」
フレデリックはミラに低い声で告げる。
ミラは急いで再びヘキサを見ると、ヘキサは
「どうせ僕は眼鏡だよ。眼鏡のおまけ人間だよ。」
とぶつぶつ言い始めている。
ミラがどうしようと困っていると、レミが
「ほっとけほっとけ。眼鏡の人はああなる運命なのさ。」
とミラに気にしないよう促す。
「はいはい団らんはそこまでだ!もう目的地に着く。気を引き閉めろよ。何が起こるかまださっぱり分からんからな!」
ロンは大声で全員に聞こえるように言った。
「ベテランのロンさんでも何が起こるか予想つかないんですか?」
ミラは疑問に思ったことを尋ねる。
「あぁ。こんな不可解な事件など俺が軍人になってから一度たりともなかった。それだけに何が起こるか分からんのだ。」
ロンの言葉にミラは息を飲んだ。
まさかあ初任務でこんな大変そうな仕事になると誰が予想できただろうか。
「まず、わずか10日やそこらで他国にも気付かれずに滅んだ国自体が前代未聞だからな。」
ロンの言ったことを聞き、それもそうだと納得するミラ。
そしてその隣で
「それさっき僕が言おうとしたことなのに」
と小さな声でボソッと言っているヘキサ。
まだテンションが低くさっきのダメージが残っているようだ。
「ところでヘキサ。お前に言っておきたいことがある。」
皆ヘキサに対する態度に困っていると、ロンがヘキサに話しかけ始めた。
「印象が眼鏡なんてまだいいじゃないか。俺なんて基本繋がり眉毛で覚えられてるぜ。」
ロンの言葉にその場の全員が「じゃあ剃れよ」と心の中でつっこんだのは誰も知らない。
「さあ着いたぞ。各自ペアで調査してくれ。」
ロンはそう言うと皆チリヂリになっていった。
ミラのペアはフレデリックだった。
ミラたちの班はセレーナ王国の南にある町を調査するよう言われていた。
ミラは町に着いてからゴクリと唾を飲み込んだ。
どこからか涌き出てくる恐怖に押し潰されそうになっていた。
辺りには無数の死体が転がっていた。
フレデリックはミラが恐怖しているのにすぐに気付いたのか、ミラの頭に手を乗せるとこう言った。
「死体を見るのは初めてか?」
ミラはコクリと頷く。
「大丈夫、最初は皆怖いさ。俺だって最初は怖かった。実を言うと、今も少し怖い。こんなに無数の死体が倒れているのは俺だって初めてだ。だから、お前が今恐怖してるのは当然だよ。だけど、死体を見ても何も感じなくなってしまったら、その時はもっと自分が怖くなるだろう。だから、お前はそのままで良いんだよ。」
フレデリックはそう言うと歩き始めた。ミラも少し気が楽になったのか後に続いた。
「嘘!?フレディが珍しくカッコいいこと言った。」
ミラそう茶化すと、フレディは少し顔を赤くし、ミラを怒鳴り付けた。
「黙れ!!お前が珍しく怖がってると思ったから言ってやったのに、全く!」
フレデリックはそう言うと速歩きになった。
「ちょ・・・待ってよフレディ!」
ミラはフレデリックの後を小走りで追う。
なんとなく、ミラがフレデリックとペアになった理由が分かったような気がした。
しばらく死体を調べているとフレデリックがあることを指摘し始めた。
「妙だな・・・」
フレデリックが何故怪しがったのかさっぱり分からないミラは不思議そうな顔をすると
「何が妙なの?」
と聞いた。
「死体の特徴をよく見てみろ。」
ミラは再び死体に注目すると至るところに目をやった。
するとミラはあることに気付く。
「あ!この人シークレットブーツ履いてる!!確かアレセリア帝国でしか製造されてないはずなのに・・・元気出せよ!男は身長が全てじゃないぞ!!」
「そこじゃない!というかよくそんなこと気付いたな・・・・・」
フレデリックは呆れつつ感心しつつといった表情でミラに再び死体をよく見るよう言った。
「え?他におかしいところなんてある?」
それを聞くとフレデリックは盛大にため息をついた。
「お前・・・その洞察力のなさでよく50位以内に入れたな。」
軍学校には現場の考察力や洞察力の検査がある。
無論それも成績に含まれるのだ。
「あれね!用意された正解答以外を言いまくったけど一応正しいから点数くれたよ。」
ミラは胸を張って自慢した。
「試験監督の先生も大変だっただろうな。」
フレデリックはミラを採点した先生をねぎらいつつ再びため息をつく。
「ため息ばっかついてると幸せ逃げてくよ。」
「誰のせいだ・・・・・」
ミラは頭の上にはてなマークをたくさん浮かべながらフレデリックの顔色をうかがった。
「本題に戻ろう。これらの死体・・・あまりにも綺麗すぎると思わないか?」
ミラはそれを聞くとすぐに死体を隅々まで見渡した。
すると、死体には外傷が一切なかった。
これだけの数の死人が出ていながら外部から来たものや他国による侵略じゃないとすると、一体どうやって死んだのか分からなくなってくる。
感染症が蔓延したとすると、何故これだけ酷い被害にあっているのにすぐ北のアレセリア帝国に噂が行かなかったのかが疑問になる。
そのため他国が何らかの理由でこっそり侵略したものと皆予想していた。
しかし、外傷をつけないようにこれだけの人数を殺すことなど、可能なのだろうか。
ミラはようやくフレデリックの言った妙だの意味が分かり、納得した表情を浮かべた。
「じゃあ・・・何でこの人たちは死んだの?」
ミラは単刀直入にフレデリックに聞くが、フレデリックも分からないという表情で首を横に降った。
「それが分かれば苦労しないさ。」
フレデリックの言葉にミラは
「それもそうか」
と言うとどこかに手がかりは無いか探し始めた。
すると、ガタンとどこからか音がした。
ミラは怪訝な顔をして音がした方向に歩き始めた。
そこにあったものは骸骨の山だった。ミラは驚きを隠せなかったが勇気を持って調べようとした。
そしてその瞬間だった。
ミラは肩誰かに肩を叩かれた気がした。恐る恐る後ろを振り向くとそこには・・・・・
「ぎゃあああぁぁあぁあ!!!!!」
ミラの悲鳴が聞こえ、フレデリックはすぐさま声の方向に走った。
「どうした!ミラぁ!!」
フレデリックが叫ぶとミラが全速力で走ってきた。
とりあえずミラの姿を確認し安堵したフレデリックは再びミラに
「一体何があったんだ?」
と、問い掛けた。
「フレディ逃げて!!」
「何だ?」
ミラは急いで後ろを指差す。
「ほ・・・ほほ骨が動いた!」
ミラの取り乱しようが尋常じゃないためフレデリックはミラの指差す方向を直視した。
そして視界に入ったのは
骨の人体模型のようなものの軍団が大量に走って追いかけてきた姿だった。
「うわあぁぁあぁ!!!何だあれは!?」
フレデリックもミラに負けないくらいの大声をあげた。
「分かんない!!でも何だかよく分からないけど追いかけてくる!!!」
そして二人はドクロの軍団から逃げ出し今に至るというわけだった。
「あ~フレディともはぐれちゃったしどうしよう。もう骨どっか行ったかな?」
ふと希望を託して後ろを向いたミラだったがその顔はすぐに絶望に変わっていった。
「まだいる!!!しかも何か増えてない!?」
ミラはそう言いがら再び走り出した。
すると周りに横たわっていた死体が見る見るうちにドクロへと変わって行き立ち上がり、ドクロの軍団に加わっていった。
ミラはそれを見ると泣きそうになりながら声をおさえて走り続けた。
そんな中、ミラは何かに足を引っ張られたように転んだ。
足を見ると白い骨に捕まれていた。
「イヤアアァァァアアァ!!!!!」
ミラはもう諦めたように肩の力を抜いてしまった。
迫り来るドクロの軍団を見ていると、ドクロが何かを喋ったように感じられた。
「ーーーーーーーーーーー!!」
ミラはそれ聞くとあっけにとられたような顔になった。
「え・・・?それってどういう意味・・・」
ミラはそう言うと誰かの声が頭の中に流れた。
その声は声というより叫びのように聞こえた。
この時、ミラの目が普段の黄色から深い深い黒に変わっていたのはミラにも分かる由がなかった。
ガギイイイイイィィィィイィィンと凄まじい音が国全体に響きわたった・・・
そして、これがこの世界の動乱の始まりなのであった。