No,1 入隊
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少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
アレセリア帝国
それは人間と魔人の共存を目指した武術と魔術の栄えた国。
12歳になると約5割の国民が軍学校に入学し、武術と魔術を学ぶ。
そして15歳になると各学校の成績上位50名を選出し、その50名は軍学校卒業と共に軍に入隊する。
軍は大きく分けて二種類あり、武術部隊と魔術部隊に分けられる。
このような仕組みで軍は成立している。
ちなみに軍入隊に関して、人種による差別は一切しないものとしている。
「貴公は、これらの実績より、本学校において優秀な成績を修めたため、アレセリア帝国軍への入隊を許可するものとする。今後とも本学校の卒業生としてふさわしい行いをし、入隊後の活躍にもより一層期待する。
1205年7月10日 学校長 クリストファー・ライダー」
辺りは静まり帰ってる。今は卒業と同時に軍に入る者達の卒業式兼入隊式の真っ最中である。
流石にこのような場面で話したりする人は誰一人いない。
「卒業おめでとう。ミラ・ブロッサム。今後の活躍、期待してるよ。」
名前を呼ばれた少女は卒業証書を受け取りお辞儀をする。
式はそのまま過ぎていき、お開きとなった。
「はぁ~~~!やぁっとおわったぁー!」
町の一角のとある喫茶店で少女の声が響いた。
少女は喫茶店のソファーに大きく足を開いて座りこみ、腕を伸ばしていた。
少女の囲んでいるテーブルには他に3人の同年代くらいの少女が座っていた。
「ミラ・・・行儀悪いよ・・・・・・」
一人の少女がミラと呼ばれた少女に小声で注意する。
ミラは別にいいじゃんと、目で訴えながら座り直した。
「今日で卒業かあ・・・早かったね。」
さっきの少女とは別の少女が呟く。
「みんなこれからどうする?」
これまた他の少女が問いかける。
「軍学校って言ったって、軍人になれるのは各学校で1000人中50人程度・・・卒業したら殆どが他就職。これじゃあ世間体を守る為だけに軍学校に入ったようなもんだよ。」
1000人中50人と言うことは20人に1人である。
つまり20人中19人が軍人にはなれないのである。
「私は実家の店を継ぐかな。」
少女の一人がそう言った。
「ウチも実家に帰って農家になるわ。もともと軍人は無理だと思ってたから学校で農業専攻の単位取っといたんだあ。」
と、もう一人がかなり現実的なことを言った。
「えらっ!私家追い出されて軍人になるまで帰ってくるなって言われてたのになれなかったよ。もうお先真っ暗。どうしよう。」
と、ネガティブ思考な意見もでできた。
「ミラは良いよね。だって武術首席だったから50人以内に入れてはれて、軍人になれるんでしょ?いいなぁ。」
ミラは今までパフェをいかに形を崩さないようにして食べるかに夢中になっていたため話を聞いていなかった。
「ん?何?」
ミラは笑顔で聞き返した。
「いや・・・なんでもない。それより、部隊はもう決まってるの?」
ミラはパフェのラストパート、ストロベリーゾーンに入り、苺をを食べながら答える。
「武術部隊に決まってるじゃん。」
ミラはそう答えると、一気に苺を口の中に頬張った。
「まあそれもそうか・・・」
質問した少女は何かを思い出すと、苦笑いしながらそう言った。
「じゃあ、そろそろ帰るとするか。」
皆はそう言って席を立った時だった。近くに座っていた男たち5人組が立ち上がり近寄ってきた。
「もしかして今帰るの?」
男の一人が声をかけてきた。
ミラたちは男たち方向をチラッと見ると、見て見ぬふりをしようとするかのように無視をした。
すると男の一人がミラたちが通りすぎるのを防ぐかのように立ちはだかった。
「無視するなよ。」
男はニヤニヤしながら言う。
「もう外暗いし送ってってやるよ。あ!これ強制な。」
男はそう言うとミラの肩を触ってきた。ミラはその瞬間、
「うわあ!!汚物が肩についたぁ!!クリーニング出さなきゃ・・・」
ものすごく嫌そうな顔でそう言った。そして、その言葉は男たちの神経を逆撫でするには充分だった。
「なんだとテメェ・・・」
少女たちはそれを聞いた瞬間ミラの後ろに隠れた。
「ちょっとミラ!何言ってんのよ!!」
ミラはそう言われ、ハッとなり、小さな声でごめんごめんと言っている。
この国は治安があまりよくない。
その為この国にはまだまだこういうやからが多く存在する。
だから、夕方6:00に喫茶店に出入りするときはかなり用心する必要がある。
「ミラちゃんっていうのか・・・ちょっと俺たちとついてきてもらおうか。」
男たちはミラの腕を掴み引っ張った。すると少女たちの一人が、
「あのぉ・・・あまりミラにさわらない方が良いかと思います。」
そう細々と言った。
しかし、その忠告も一歩遅かった。
バキッという不吉な音が周囲に響いた。
なんの音か男たちが不振がる間もなく悲鳴がなり響いた。
「ギャアアアァアアァァァ!!俺の腕がアアアァアァァか!!!」
男は腕が折られたという事実に気付き、腕を押さえながら叫んだ。
周りの男たちもようやく何が起こったのか気づき始め慌て始める。
「テメエ・・・・・自分が何したのか分かってんのか!?」
男たちの信じられないという眼差しにミラは、
「ごめんなさい。つい・・・」
と、割と本気で言った。
「何がついだ!テメエこっちが下手にでてれば調子乗りやがって・・・!!」
ミラはかわいい。それも学校ではおそらく1番2番を争う程に。
その為こういうやからに今まで何回も被害に合ってきた。
だから条件反射のように見知らぬ人に触られたら手がでてしまうのだ。
少しやり過ぎというところがあるのだが・・・
そんな中男たちの一人がミラに殴りかかって来た。ミラが普通の少女ならここはただ殴られ、このあとは無惨な結果が待っていただろう。
しかし、男たちは知らなかった。目の前の少女がこの国有数の上級軍学校を今日卒業した、しかも武術の分野においては首席の少女だということを。
「ちっとは痛い目みやがれェエェェ!!」
そう言ってミラに拳を振り上げた男は知らぬ間に宙を舞っていた。
「痛ってぇ!!何しやがった今!!」
男たちは誰一人ミラが何をしたのか分かっていなかった。
普通に行けばミラは男たちと比べ体格が劣っているため男を投げ飛ばすなんて無理があっただろう。しかしミラは男が殴るのにつけてきた勢いを利用し、さらに足を蹴り飛ばし、持ち前の腕力で男を投げ飛ばした。この程度のことはミラにとっては朝飯前なのである。
「全員でかかれ!あんな小娘になめられたままでいられるか!!」
こうして殴りかかってきた男たちの悲鳴と投げ飛ばされる音が店に響いた。
「またやっちゃった・・・」
ミラは辺りを見回して男が5人倒れているのとグチャグチャになった店を見てミラはそう呟いた。
一緒にいた少女たちは慣れっこなため、ミラの肩を叩くと笑顔で逃げていった。
「裏切られた・・・・・」
ミラがそう言うと後ろから声が聞こえた。
「裏切られたじゃないだろ?全てお前が悪いんだ。彼女たちまでお前の後始末に巻き込まれたらかわいそうだと思わないのか?」
後ろからのには聞き覚えがあった。
ミラは後ろを振り向く間もなく悲鳴をあげた。
「まったく・・・ああいうやからは相手にしないのが一番だといつも言ってるだろ!何回言ったら分かるんだこの脳みそ筋肉!!」
ミラは片付け終わり、男たちも全員連行されたあとで寮の自分の部屋で正座を強いられていた。
ミラの目の前にはミラより1つか2つくらい上かと思われる180あるかないかくらいの長身の男が立っており、ミラに説教をしていた。
彼の名前はフレデリック・トルスティア。ミラの軍学校の先輩であり、ミラの家族のような存在だった。
物心がついたときから二人は同じ孤児院にいた。
ミラは幼いときに捨てられ、フレデリックは7歳の時に両親が隣の国のイン王国の内乱に巻き込まれて命を落とした。
ミラにとってフレデリックは怖いお兄ちゃんでフレデリックにとってミラはうるさい妹であった。
「お前のことだ。何度言っても無駄だろうが、あまり目立ったことをするな。お前はこれから軍に入隊する。騒ぎを起こすと、最悪除名処分だ。今日はまだ正式に軍に入隊したわけではないからただの一般市民が不良に襲われ身を守るための正当防衛で済むが、明日からはこうはいかないからな!少しは考えて行動すること!!いいな?」
ミラはしぶしぶ頷いた。
しかしミラはあまり納得していないようすだった。
「何か不満があるのか?」
フレデリックの言葉にミラは軽くうなずいた。
「だってさあフレディ。そんなんじゃ私ああいうのに合ったときどうやって反撃すればいいの?手を出しちゃいけないのに・・・」
フレデリックはミラの顔を見たあと小さくため息をついた。
「誰も手を出しちゃいけないとは言っていないが?」
フレデリックの言葉にミラは驚き目を見開いた。
「でもさっき・・・」
ミラが何を言おうとしているかが分かったフレデリックはミラの言葉を途中で遮った。
「騒ぎを起こすなと言っただけだ。人気のないところでなら暴れていいということだ。」
フレデリックの言葉を聞いてミラは驚いた。
少なくともミラの中でのフレデリックの人物像が堅苦しいというのが一番だったためこんなこと言うとは予想もつかなかった。
しかし、考えてみると、フレデリックは結構乱暴なところがある。それも踏まえるとそんなに驚くことではなかった。
「やったぁ!!ありがとうフレディつまりこれからも暴れていいということだよね!?」
全く反省の意思が見られないミラの発言に半ば呆れつつフレデリックは答えた。
「限度はあるがな。」
ミラは安心したように跳び跳ねた。
するとミラは何かを思い出したかのようにフレデリックに目をやった。フレデリックは視線に気付き、
「何だ?」
と聞いた。
「フレディはいつまで夜の女の子の部屋に居座るつもりなの?常識無いんじゃないの?」
「・・・黙れ」
こんな日常の中、ミラは正式な帝国軍入隊の日を迎えることとなる。
そして、ミラの帝国軍入隊がいずれ世界を動かす事件のきっかけになるとは誰も思いはしなかった。