第4話 大鎌の魅せる夢
暖かな温もりを後頭部に感じて目が覚める。
どこか安心するような暖かさにもう一度意識を落としてしまおうか一瞬悩んだが、すぐにここが村ではなく逃げ込んだ洞窟であることを思い出した。
確か俺は壁に寄りかかり、硬い地面に寄りかかりながら意識を失ったはず。こんな心地いい暖かさを感じるはずがない。
そんな不思議な感覚のまま、ゆっくり目を開けると綺麗な女性がこちらを覗き込んでいる姿が飛び込んできた。
俺は寝起きで働かない頭をフル回転させて今の状況を考える。
(確か、シャーマ様からの試練を受けたあとにこの女性が現れて......それから情報が流れてきたことで頭痛に襲われたんだっけ)
そこで痛みに耐えられずに意識を失った、と。何とか整理できた状況を頼りに頭を上げようと手を動かすと柔らかいものに当たる。
「え!?」
『起きたかの、ゼノヴェル。寝ぼけているとはいえ、不用意に神の身体を触るとは人によっては不敬と言いそうだのう』
頭の中に響いたシャーマ様と同じ声を女性の口から聞いた俺は、錆びついたネジのようにゆっくりと手の方へと視線を向ける。
そこには、俺の手がシャーマ様であろう女性の衣服に覆われたお腹を押し込むように置かれていた。
「す、すいません!今起きま......ぐえ!?」
手の位置がまずい位置にあることを理解した俺は咄嗟に起き上がろうと身体を起こしたが、上から押さえつけるように伸びた女性の腕によって阻止される。
思わず変な声を出してしまった俺は顔が赤くなるのを感じながら、女性の顔を見上げた。
『今は寝てるのじゃ。昨日の痛みの影響が残っているはず。ゼノヴェル、お主は儀式を経て力と知識を得た。己の心に語り掛けよ』
シャーマ様の言葉は反抗する気持ちも湧かないくらいすっと耳に入ってくる。俺は言われるがままに、目を閉じて自身の内側へと意識を集中させた。
すると、シャーマ様によって与えられた力と俺について細かな情報が頭に浮かんで来た。
『今、頭に浮かんできたものは一般的にステータスと呼ばれているものじゃ。そこにはゼノヴェルの魂に刻まれた情報が記されている』
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名前:ゼノヴェル
年齢:11歳
種族:夢月族〈月が照らす夜に夢を魅せる種族〉
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【神導武器】
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【特殊】試練の大鎌
・ 試練を乗り越えるまで成長しない
・ 壊れてもすぐに再生する
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【スキル】
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【通常】農作業Ⅰ
・農作業効率が上昇する
【種族】魔力操作Ⅰ
・自身の内側にある魔力を動かすことが出来る
【固有】殺した貴方は夢を魅る《メメント・ソムニス》
・ 殺した対象に夢を見せ、夢のなかに入ることができる
・ 夢のなかで自由になる
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【魔法】
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【得意】光魔法Ⅰ
・光を操作し、回復・防御・攻撃に転用する
・魔力を光魔力に変換し、魔法を発動させる
【種族】夢魔法Ⅰ
・相手の脳に魔力を流し込み夢を魅せる
・魔力を夢魔力に変換し、魔法を発動させる
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【称号】
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【初期】試練を受ける者
・暗影の神シャーマから試練を受けた者に与えられる称号
◆試練終了時まで神導武器成長不可
◆ スキル・魔法の成長微補正
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「これが俺のステータス......色々気になることもあるけど、まず俺って夢月族って種族だったんだ」
『主の住んでいた村は外部から情報を得られる機会が極端に少なかったようじゃの。
村のなかで自己完結してしまっていたから、11歳になっても自分の種族を知らなかったといったところじゃろ。
夢月族は希少種と呼ばれる珍しい種族じゃから、主の家族はわざと教えなかったのかもしれぬな』
夢月族か......初めて聞く種族だな。そもそも、村に居た時には誰がどの種族なんて話題にも上がらなかったし、知ろうとも思わなかった。
希少種ってシャーマ様が言うくらいだから、本当に珍しい種族なんだろう。
確かに、親父からは13歳になったら色々教えてやると言われてた。儀式を受けたらステータスを貰えるからその時に親父は纏めて伝えるつもりだったのかな。
それまでは俺が記憶に無いときに亡くなった母さんのことも俺の生まれのことも全然教えられなかった。
でも、俺の過去を教えてくれる人はもうこの世にいない。
同族に会える確率もきっと高くないだろう。それでも生きていれば知ることが出来るかもしれない。
「いつか俺の過去を知るためにも試練を乗り越えて生きなきゃいけないですね」
『それもまた必要なことじゃな。生きる理由が見つかったのであれば、その道を邪魔する相手は排除してでも達成しなければいけぬぞ。強き想いが今のゼノヴェルには足りておらぬからの』
「ですね......鉱魔獣や俺のことを殺そうとした村人たちの事は許せません。ですが、それは試練を乗り越えてから考えるようにします」
そう言って俺は「もう大丈夫です」と断りを入れてからゆっくりと身体を起こし、足に力を込める。
シャーマ様も俺の顔を見て無理はしていないと判断したのか、先に身体を素早く起こし俺の手を掴んで一緒に立つように促した。
引っ張られるように立った俺よりも背の高いシャーマ様を見上げるようになりながら、その美しい顔を見逃さすまいと必死に顔を上げる。
優しいシャーマ様はそんな俺を気遣ってくださり、しゃがんで俺と目線を合わせてくださった。
『ゼノヴェル、妾は神じゃ。なので、主の心を読むことができる。そんな堅苦しく接されると少し悲しくなる神じゃ。妾のことを想うのであれば、もう少し気安く接してくれぬかの?』
シャーマ様は少し困ったように苦笑を浮かべながら、俺の頭を撫でてくださった。
俺を助けてくれた神様を悲しませてしまうなんて、そんなことは絶対だめだ。
「わ、わかりました!固くなり過ぎないようにしますから、悲しまないでください!」
『――本心から思ってくれているようじゃな。了承したこともかわいいと思ってくれたことも。妾は大変満足じゃ』
シャーマ様に心を読まれることは不快とは感じないが流石に恥ずかしい......
俺は顔が赤くなるのを自覚しながらもシャーマ様から目を反らすまいと手で隠すことはせずに目を合わせた。
『では、最後にゼノヴェルが試練を乗り越えるために必要な知識を復習しようかの。まだ、大量に流れ込んできた知識を整理できていないじゃろうからな』
シャーマ様の指がぼんやりと輝き空中に振るうと文字が浮かび上がる。
『ここに書いてあるのは神導武器を装着するためのキーワード、魔力を用いる際の最低限の知識、魔法の最低限の使い方じゃ。これ以上の知識は妾の授ける試練では与えることは出来ぬ。ただ、普通の儀式では神導武器のこととステータスの知識しか手に入らないので少しお得じゃの』
確かに、空中の文字を読むと俺の頭の中にある知識が引き出されていくのがわかる。この情報を武器としてこの鉱魔獣が溢れる森で生きるのか。
「あの、なんで試練から得られた知識の方が多いのでしょうか?普通の手順を踏んだものよりも多い理由がよくわからなくて......」
『ああ、それは教えてくれる人が周りにいるという前提があるからじゃの。普通に過ごせていれば手に入るほどの知識しか渡しとらんからな、おまけの部分は。妾の試練を受けるだけの最低値に引き上げるために必要な知識なので気にしなくてもよいぞ』
そういう理由なのか。本来であれば俺自身で想像して模索しなければいけないことを教えて貰えたのはとてもありがたい。
『まずは神導武器を出してみよ。ゼノヴェルは出し方はすでに知っているはずじゃ』
「確かに、神導武器の知識が頭のなかに浮かんできました......やってみます。試練の大鎌『機動』」
キーワードを合図に俺の胸から黒い光球が現れて線となり、大きな鎌を形成していく。
俺が目の前に浮いている黒く輝く大鎌の柄を握りこむと、光が弾けて真の姿を現した。
持ち手は表面が剥げたボロボロの金属で出来ており、大きな衝撃を受ければ簡単に折れそうに見える。刃の部分は所々欠けていて錆びてはいないが鉱魔獣を切り裂くことは期待は出来そうにない。
そんな壊れかけの見た目をした大鎌が俺の手のなかに収まっていた。
正直、頼りない得物ではあるがそれでも武器という存在が何も無い俺に安心感を与えてくれる。
「これが......俺の神導武器」
俺は感動する気持ちを抑えられずに、何も残っていない俺の唯一の相棒を胸に抱いて抱きしめた。
『ゼノヴェル、試練の大鎌はすぐに壊れ切れ味も無い鈍ら《なまくら》じゃ。だが、それでも出来ることがあるということを忘れないでおくのじゃぞ』
シャーマ様の顔が試練の大鎌の刃に反射している。
その顔は全てを包み込んで未来を信じさせてくれるような優しい微笑みを映していた。
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