オー、ジャングル
ここはジャングルだ……。そう、私は今、ジャングルの中にいる。私を取り巻く音のすべてが、ここに暮らす生き物たちの生命の営みだ。
圧倒的だ。飲み込まれそうになる。だが、私は冷静でいなければならない。
彼らと交流するためにまずすべきことは観察だ。この異世界のような生態系を理解することが第一歩だ。
最初に目に留まったのは、薄暗がりで赤く光る大きな昆虫だった。尻に発光器があり、そこから強い赤い光を放っている。この昆虫は群れで暮らしているようだが……これはどういうことなのだろうか。一際輝く個体が他の個体に攻撃されている。
攻撃している昆虫たちの尻の光は弱々しい。どうやら、光が強すぎると群れから排斥されるようだ。他の生物に見つかり捕食される危険を避けるためだろうか……。いや、待て。攻撃を受けている昆虫の尻が突然燃え出した。凄まじい鳴き声を上げ、苦しみもがいている。攻撃側の昆虫たちは、喜んでいるかのようにその周りを飛び回っている。どうやら彼らには仲間意識などないらしい。
なんだか不快だ。別の生き物を観察することにしよう。
……今のはなんだ?
少し歩くと、けたたましい鳴き声が耳をつんざき、思わず頭上を見上げた。
声の主は猿の一種らしい。二つのグループに分かれ、激しく争っている。言葉はわからないが、罵り合っているようで、牙を剥き出し、唾を飛ばしている。下腹部から涎のようにダラダラと液体を垂らして、かなり興奮しているようだ。
彼らはオスとメスで対立しているようだが、よく見るとそれぞれのグループに異性が混じっている。それらの個体は争いを煽るために紛れ込んでいるらしい。
興味深いが、疑問も残る。彼らはつがいを作らないのだろうか? 少し離れた場所で仲睦まじいオスとメスのペアを見つけたが、他の猿たちから激しく攻撃され、逃げていった。どうやら、彼らの攻撃は嫉妬が原動力らしい。他者を傷つけることで自分を保っているようだ。あるいは、彼らは何かしらのウイルスに感染しているのかもしれない。
なんだか頭が痛くなってきた。この場を離れよう。
さらに少し歩くと、今度は毒々しいほど華やかな蝶が目に入った。手に乗せて観察してみると驚いた。頭部がまだ幼虫のままだったのだ。羽化に失敗したのかと思ったが、そうではない。他の個体も同様に醜い毛虫の顔をしている。
蝶たちは、まるでその顔を隠すようにして飛び回っていた。
このように自己を美しく見せようとする生物は他にもいた。クジャクのような鳥は常に羽を広げ、他の生き物を集めて美を誇示している。彼らは目立つことを恐れていないようだった。だが、よく見ると、くすんだ色の個体が混ざっている。どうやら擬態している別種で、集まった生物を捕食するのが目的らしい。
知れば知るほどここは異様な生態系だ。糞尿を垂らしながら耳に入った音をそのまま口にするオウム、寄り集まって鳴き声で外界をかき消す蛙の群れ。それらは互いに存在を確認し、価値観の正当性を主張しているかのようだ。他には愛されたいパンダ、煽るトカゲ、進歩のないナマケモノ、群れを成す羊、不幸を啄むカラス、嘘をつく狐、それから――
「ん、あの、博士」
「なんだね、助手よ」
「開発中のアンドロイドに何をさせているんですか?」
「ああ、SNSのアカウントを作らせたんだ。次の実験まで時間があるから、まあ、ちょっとした暇つぶしだよ」
「へえ、何を投稿したんでしょうか?」
「さあな。熱心に人々の投稿を見ているようだが、まあ、普通に【初めまして、人間の皆さん、私はアンドロイドです】とかだろう。それより、手伝ってくれ」
「はーい」
【初めまして、行尸走肉】