8:セシリオ様が来た理由。
セシリオ様になぜか軽く抵抗されつつも、全身を拭き終えました。ベッドに移動してもらおうとしたのですが、またもや抵抗されてしまいました。
「ですから、女性のベッドに――――」
「怪我に響きますから!」
「…………っ、はい」
せっかく傷が癒え始めたのにと、つい語気を強めてしまいました。セシリオ様が少しシュンとしてしまいました。
「あっ、村人さんたちは、私のことを何と仰っていたのですか?」
ちょっと気まずくて、話をして誤魔化そうとしました。村の人たちはかなり親切だし、よく世間話もしていたので、怪しまれてはいなかったと思うのですが。
「…………最近、王都を追い出された聖女様が荒廃の砂地に住んでいると」
――――え?
よくよく聞いてみれば、末端の村にも私の似顔絵と追放の知らせが届いており、殆どの人に知られていたそうです。
ただ王都追放になっただけなのだとばかり思っていました。セシリオ曰く、普通に通知されるものとのことでした。私、世間知らず過ぎましたね。
村の人たちの中に王都の治療院を訪れたことがある人はわりといたらしく、私は間違いなく本物の聖女だというのが皆の認識だったとか。
何より、買い込むものが怪しすぎて、明らかに旅人ではなかったと。
「っ……恥ずかしい…………」
完全に生暖かい目で見守られていたようです。
「最近は野菜の種や苗を買って、にこにこしていたと聞きましたよ」
「っ! なんで大怪我してるのに、そんな事をちゃっかり聞いてるんですか!」
「貴女のことなら、何でも知りたいからだ」
――――へっ!?
セシリオ様がこちらをジッと見つめてきました。空色の瞳があまりにも鋭くて、後退りしたかったのですが、パシリと手首を掴まれてしまいました。
「遠征に出て戻ったら、貴女が追放されていた。大切な人を庇えなかった。護れなかった。気持ちを伝えたかったのに、出来なかった」
「っ……」
「聖女……いや、オリビア。好きです」
真っ直ぐに見つめられて、好きだと言われて、嬉しくないはずがありません。でも、それを能天気に受け取っていいのかわかりません。
だって、私は追放されたただの人間です。聖女と名乗ることも力を使うことも、本来なら許されないのですから。
国王陛下に、『死刑』だと言われていますから。
「っ! 汚名を雪――――」
「嫌ですよ」
「え……」
名乗ることは許されていませんが、私はいまでも聖女としての矜持があります。
聖女が争ってどうするのですか。
人々を巻き込んでどうするのですか。
無駄な血を流させてどうするのですか。
聖女は人々の生活の安寧を支える存在なのです。脅かす存在になどなりたくはありません。
「貴女が悪だとされてもですか?」
「私がいなくなって困るほどの医療体制ではないはずです」
教会の建物や井戸に関しては、ちょっとごめんなさいな気分ですが。