6:そういうことじゃない。
「っ……ぬあっ!? えっ!?」
「んん……ふぁ……おふぁようございます…………」
騎士様の声で目が覚めました。
身体のあちこちがギシギシします。床で寝るものではありませんね。
何やら喚いている騎士様を見ると、パックリと開き血が滲み出ていた胸の傷は、ほぼ塞がりかけていました。
床に寝そべったままで騎士様の胸に手を添え、傷口を指でそっとなぞりました。どうやら膿んでいる場所はなさそうです。
「っ! く……」
「あ、痛かったですね。すみません」
「いや、痛くはない……その、格好は…………というか私は…………」
その格好と言われ、自分が肌着姿なことに気が付きました。
昨晩、騎士様は水を飲んだあとからは、気絶するように眠られていました。
ところが深夜になりかけた頃にガタガタと震え出し、「さむい」と何度も呟かれたのです。血を流し過ぎたのでしょうね。体温がかなり下がっていましたし。
温める目的もありましたが、素肌が近ければ近いほど癒しの効果は高いようなので、袖のないシャツのような肌着姿で上半身裸の騎士様に抱きつくようにして眠っていました。
そのせいなのでしょうね、肌着のあちらこちらに血がべっとりと付着してしまっていて、まるで私がケガをしているようにも見えます。
「血はセシリオ様のものです。ご心配はいりませんわ」
「いや、そこじゃない……肌を隠してくれ…………」
「あ。これは失礼いたしました」
治療の一環だと思って気にしていませんでしたが、他人の素肌が苦手な方は多いですからね。
見苦しいものを見せてすみませんと謝りつつ、とりあえず騎士様の傷口の乾いた血を拭うため、お湯と布巾を用意しに台所に向かいました。
後ろで騎士様が「そういうことじゃない」とか「夢じゃなかった……」とかボソボソと呟いています。話せるまでに元気になったようで良かったです。
ぬるま湯を入れた桶と布巾を持って騎士様のところへ戻ると、ビクリとされてしまいました。
「さっ、先に! 先に服を着てくれっ!」
「あっ、そうでしたね。着替えてきますね」
「ああ。頼むっ」
騎士様にお気遣いありがとうございますと言うと、またもや「そういうことじゃない」と呟かれてしまいました。
――――じゃあ、どういうことなの?