5:安心できない状況で。
聖女の力は、触れていると少しだけ効果を増します。それが素肌に近ければ近いほど、触れている面積が大きければ大きいほどです。
あまりにも酷い傷なうえに、ここまで放置されている人を見るのは初めてで、どう対処していいものか悩みました。
どのくらい経ったのかはわかりませんが、夕方になりつつあり、気温が下がり始めています。今は初夏とはいえ、夜はまだまだ冷えます。
未だ意識を失っている騎士様ですが、息が少しずつ落ち着いて来たように思えました。
動かすなら、今かもしれません。
「騎士様、少し痛むと思います。ごめんなさい」
毛布にしっかりと騎士様を乗せ、頭側の毛布の両端を掴み、ズルズルと引っ張って家の中まで運びました。
鍛えられた成人男性の身体は驚くほど重く、少しずつ引っ張っては休みを繰り返して、十分も掛かってしまいました。
騎士様の傷が酷くなってしまったのではないかと思いましたが、騎士様は思ったよりも穏やかな寝息を立てていたのでホッとしました。
家の中に入ったとて、安心は出来ません。
血を流しすぎています。内臓にまでは達していないようなので、食事は取れるのだとは思いますが、意識がない内はどうしようもないといったところです。
流石にベッドに持ち上げることは出来ないので、予備の毛布を出して、騎士様に掛けました。
「床でごめんなさいね」
意識のない騎士様の頭を撫でながら、独り言ちていると、騎士様の口がわずかに動きました。
「どうしました!?」
「……ず………………み……ず」
「水ですね!」
騎士様の頭を少しだけ抱え、コップから飲んでもらおうとしましたが、嚥下する力がないのか、口の横からダラダラと水が流れ落ちてしまいます。
「っ、失礼します――――」
「…………ん……んく……」
「ぷはっ」
少し迷ったものの、自分の口に水を含み、騎士様の口を塞ぐようにして水を少しずつ流し込みました。騎士様の喉がコクリと僅かに動き、少しずつ嚥下していっているのが分かります。
ゆっくりゆっくりとそれを繰り返し、コップ一杯分の水を飲ませると、苦しそうだった騎士様がほうっとした柔らかな表情になり「あまい」と呟きました。
――――普通の水ですが?
もしかしたら、何かしらの癒しの効果が出たのかもしれませんね。自分でも自分の能力がいまいちわかっていませんので、なんとも言えませんが。
「もっと……」
「え……あ、はい」
意識を取り戻しているようなのに、口移しする必要があるのかわかりませんが、騎士様が飲みたいと言うので、再び口移しで水を飲ませました。