最終話:聖女にざまぁは難しいので。
結局のところ、私は逃げたのです。
正面切って争うことも、力を使うことも。
「教皇のように、延々と苦しませたくないからだろう?」
「っ…………はい」
「ありがとう」
「え?」
セシリオ様にお礼を言われて、意味がわからずにきょとんとしていると、セシリオ様がまたキスをしてこられました。
「君が逃げてくれたから、本当のことを知れた。本当の君が知れた。力を使わずにいてくれたから、失わずに済んだ――――」
小さな声で「よかった」と言われました。
「嫌わないのですか?」
「なんで? 嫌うわけがないだろう? 余計に好きになってるのにどうやって嫌えと言うんだ?」
「っ……」
セシリオ様の攻撃力が尋常じゃありません。全身は熱いし、心臓は締め付けられるし、息が苦しいです。
「そういえば、ざまぁはしないんだよね?」
「はい、聖女にざまぁは難しいですから」
「ふふっ。それなら、ずっとここで二人で暮らそう?」
「本当に良いんですか?」
「あぁ。君と二人で……いや、いつか、三人、四人になってもここで暮らそう」
セシリオ様がくすりと笑いながら、真実を見抜く聖女は未来も見るらしいよ? と私のお腹を撫でながら言いました。そして、国王陛下が数年後に怪我するらしいが、助けに行かせないからね、とも。
セシリオ様はいったい王都で何をしてきたのでしょうか?
「ん? 秘密。ただ、オリビアを幸せにできるのは私だけだと確信したよ。さて、ちょっとベッドに行かないか? 寝不足もあって、君を抱きしめて眠りたいんだよ」
「っ! 長旅でしたのに! 気が回らずにすみません。直ぐにベッドの用意をしますね」
「あ、いや、そうじゃなくて――――」
「セシリオ様はゆっくりと休まれてください。私は洗濯途中でしたので、そちらを済ませますね」
お風呂場に向かう途中で色々と思い出しました。セシリオ様は馬を小屋に繋ぎに行かれましたが、かなり早く戻られていました。
「あ、馬たちにご飯は?」
「水はやったが……」
「ではそちらも私がしておきますので!」
「いや、だから、一緒に……」
「私はわりとしっかりと寝たので眠くないんですよ」
「…………くっ、相手にされてない!」
「いま話してますが?」
セシリオ様がちょっといじけつつ、寝室に向かわれました。
「洗濯終わらせたら、私もベッドに行きますね」
「っ、寝ずに待ってる!」
聖女にざまぁは難しいので、これからもここでセシリオ様とのんびり生きていきたいです。
―― fin ――