41:意地か矜持か。
「君は、王都で私に力を使っだろう?」
「っ……」
「ずっと疑ってはいた。治るはずのないひどい怪我だった。斬られた瞬間にわかっていたんだよ。二度と剣を握れないと」
怒りを顕にした瞳から、悲しそうな瞳へと移り変わっていきます。
「君の寿命を奪ってごめん」
「っ! 違いますっ! 違うんです。ただ…………あのときは自分の力をちゃんと把握してなくて」
「それでも、君の命を削いだのは私だ」
「違うのっ! ただ好きな人に助かって欲しいと――――」
「あの時から、好きでいてくれた?」
「っ!」
セシリオ様の瞳から目を逸らしたいのに、逸らせません。嬉しそうに微笑むセシリオ様の顔がどんどんと近づいてきて、唇が重なりました。
「言うのが遅くなってごめん。オリビアありがとう、君のおかげで騎士を続けられて、いまこうして君の側にいられる。ありがとう」
「っ……」
「ねぇ、オリビア、聞かせてくれないか? 君がどうして真実を見抜く聖女に抗わないのかを」
意地なのか矜持なのかわからない。ただ、抗ってなにになるのか、という思いがありました。
彼女の力はたぶん本物で、私は彼女の癪に障ることをしたのでしょう。それを詳らかにしたところで、何になるというのか。お互いが今の地位のままで平和的な落とし所を見つけられなかったというのが大きいのかもしれません。
「だからって、なぜオリビアが王都を出る必要がある!? 偽物のレッテルまで貼られて」
「力を使わないのであれば、偽物と同等でしょう?」
「使わなくとも、漏れ出る力だけでこれだけの奇跡が起きているのにか?」
セシリオ様の言う奇跡は、たぶん砂漠が土に変わり、草が生え、井戸も湧き続けていることでしょう。
「それだけじゃない、盗賊に襲われた傷もだ。明らかに治りが早い」
「使ってませんよ?」
「だが、君とずっと共に寝ていた。肌が近いと、治りが早いのだと君が言った。それのどこが聖女の力でないと? 偽物なんかじゃないだろう?」
「…………セシリオ様は、何に対して怒っているのですか?」
ふと気になってそう聞くと、セシリオ様がハッとしたお顔になり、右手でベチンと顔面を覆われました。
「聞かせてくれと私が言ったのに、すまない。君が、愛しい人が過小評価されていることが悔しかった。私の好きな人を馬鹿にするなと、すごい人なんだぞと。可愛くて優しくて聡明で――――」
「っ! わ、わかりましたからっ!」
予想外の甘い言葉がぼろぼろと出てきてしまい、慌てて止めてしまいました。
「それに……あそこまで素肌を触れ合わせて治療したいかというと、そうでもありませんし」
だからこそ、今まではしなかった。倒れていた騎士様がセシリオ様だったからこそ、あそこまでしてしまった。それは、後から気付いたのですが。たぶん、本能でずっとそう思っていたのでしょうね。今までしたことはありませんでしたから。
「ここに来て、天然……」
――――天然?