4:なぜこんなところに。
お風呂を堪能して数日、家の周りの土もかなり安定してきたようなので、裏に家庭菜園を作ることにしました。
やっていることはちょっと酷いのですが、他の家の外に置いてあったレンガをもらい、菜園の周りを囲いました。
「ふぅ!」
ちょっと重労働でしたが、なかなかいい出来です。
村のおじいさんいわく、最初は手持ちの小さなスコップでも出来る畑からが良いとのこと。
土に混ぜ合わせる腐葉土も少し分けてもらっていました。重いので「家まで運んでやろうか?」と言われたのですが、流石に荒廃の砂地であることを知られてはいけませんので、丁重にお断りしました。
教えてもらった通りに、一つの畝に深さ三センチで穴を掘り、そこに人参の種を置いていき、軽く土を被せました。
他には玉ねぎやキャベツも植えました。
あと、ちょっと植えるには遅いけれど、少し大きくなったカボチャの苗をもらったので、それも。
「早く大きくなってね」
花に話しかけるのは育成にいいと聞いたことがあるので、これは独り言ではないわよね? とちょっと不安になりつつ話しかけました。
ここで暮らすようになって気づきましたが、私けっこう独り言が多――――気のせいですね、きっと!
種を植えた二日後、周囲にある村の一つで食材を買い込んで荒廃の砂地に戻ると、井戸の手前で血まみれの人がうつ伏せに倒れていました。
琥珀色の髪と騎士服、とても嫌な予感がします。
とりあえず横向けにせねばと身体を動かすと、見覚えのある凛々しいお顔。
「えっ、セシリオ、さま? え……大丈夫ですか…………え……セシリオ様っ!」
なぜこんなところに、王都にいるはずの騎士様が!?
しかも、こんな大怪我で。
「せ…………じょ……」
「っ! 死んではなりませんよ!」
騎士様の胸には、袈裟斬りされた深い傷があり、夥しい血が流れていました。
素人が無理矢理に縫った跡も見受けられます。なぜ、こんなことに? 王都の医療技術はもっともっと進歩しているはずです。
本当は直ぐにでも室内に入れたい。ベッドに寝かせたい。だけど、いま動かしてしまえば、彼の命が消えそうなほどにギリギリの状態に見えました。
家の中に駆け込んで毛布と綺麗な布を引っ掴み、井戸へ急いで戻りました。
騎士様の身体の下に毛布を入れ込み、井戸の水で布を濡らして、傷口の周りを何度も拭いましたが、じわりじわりと血が溢れてきます。
「っ、なんで……こんなに」
痛みにうなされる騎士様の頭や頬をそっと撫でると、少しだけ柔らかな表情になりました。
――――効いてるの?