38:見えた未来と、オリビアの力。
国王陛下がにこりと笑いながら足を組んだ。そして、真実を見抜く聖女に言い放った。
「さて、これから君はどう動く?」
「っ、あの女の能力が覚醒して真の聖女として君臨する未来が見えたから追放したのに、なんで見えた未来より幸せそうなのよっ! むかつくぅぅぅっ!」
――――は?
たったそれだけで、人を殺そうとしていたのか? 一歩間違えば、オリビアは死刑になっていただろうに。
この女は、一体何を考えているんだ。
「能力的には私が上でしょう!?」
「政治的利用価値は、上だね」
「それなら、私が真の聖女として崇め奉られればいいでしょ!?」
「今現在、そうなっているだろう?」
陛下がにこにことした笑みを顔に貼り付けたままだ。聖女から話を聞き出そうとしているようだった。
「それだけじゃ足りないのよ! 三年後にあの女が王都に戻ってくるわ」
「へぇ。なんでだい?」
「さっきその騎士から見えたのよ!」
――――なんだと?
真実を見抜く聖女いわく、三年後に陛下が怪我をする事件が起こるそうだ。視察中に反乱勢力に襲われ、死線を彷徨うと。そして呼び出されたのがオリビア。
腕には子どもを抱いて、私とともに馬車から降りてくる。
陛下の治療を終わらせて、国中から讃えられると。
「オリビアにはそこまでの力は――――」
「あら? 貴方は知らないのね。あの女はね、本当はどんな怪我も一瞬で治せるのよ。疲れるからしないだけで。自分が大好きなのよ。苦しんでいる人がいても、絶対に力を使わないの。それが真の聖女だなんてね。ハッ」
「一瞬で?」
「数日寝込む程度の反動はあるみたいだけどね」
オリビアの力は実は凄いんじゃないかと思っていたが、本当にそんな力が備わっていたのなら、オリビアはなぜ隠しているのだろうか? 陛下はなぜ追放したのだろうか? 教皇がオリビアを気にかけているのは、もしかしたらそこら辺の隠していることを知っているからなのか?
「聖女、その話は誰かにしたか?」
陛下の声が妙に低い。
「その話って襲撃――――」
「癒しの聖女の能力だ」
「言ってないわよ。言ったら余計に崇められるじゃない」
「ふぅ。君が愚かで良かったよ」
陛下がにこりと笑うと、パンと一回手を鳴らした。どこからか現れた近衛騎士二人が真実を見抜く聖女の両脇を抱え、無理矢理立ち上がらせると、連れ去ってしまった。
「彼女は……」
「あぁ、心配しなくて良い。ちょっと幽閉してみるだけだ。素直になるようなら、出してあげてもいいしね」
陛下の柔らかな笑顔が、とても恐ろしかった。
この人は優しいだけではない、表でも裏でも国を動かす人なんだなと、再認識した。
「さて、セシリオ・レアンドロ」
「ハッ」
「君がここに来た理由は知っている、真実を知る覚悟はできているかな?」
――――真実。