37:王城にて。
出来る限りの速さで馬車を走らせた。
二頭ともに体力がかなりあったこと、仲が良く長時間走っても機嫌を損ねなかったことがとても大きな要因となり、想定より半日早く王都に戻れた。
女神教会に駆け込み、教皇に面会した。
「彼女の隠していることを全部知りたい」
「オリビアは話さなかったのだろう?」
「っ…………だが、私と家庭を持とうとしてくれていたんです」
不安に思わせた私が悪い。
自分は真実を話さないくせに、彼女には話させようとした報いなのだろうか。彼女の心を疎かにしてしまった。
「あの子が?」
「ええ。ともに食事して、ともに寝て、毎日楽しそうに笑っていたんです。あの笑顔をこれから先、一生守り続けたいんです」
「……ついて来なさい」
教皇がマントをつけると、警護の者に声をかけてから教会から出た。そして教皇専用の馬車に乗ると、王城へと向かった。
王城に到着して直ぐに向かったのは、国王陛下の執務室。近衛騎士と上位の管理職しか近づけない、特別な場所。
そこに入れるとは思ってもみなかった。
「急に訪問してすまないね」
「動くのか?」
「はい。あの子のためにも、この国のためにも」
「では、呼び出そうか」
トントン拍子に話が進んでいくが、その内容が全く見えない。
しばらくして何やら騒がしい一団が近付いてきた。執務室に押し込まれた女の姿を見て、理解した。
真実を見抜く聖女の登場だ。
「国王陛下といえど、このようなお呼び出しは二度とおやめください」
「おや、すまないねぇ。君たち、そこに座ってくれるかな?」
陛下は聖女の言葉を完全に聞き流し、応接スペースへの着席を促した。国王陛下が聖女と向い合せのソファに、私と教皇は三人掛けのソファに横並びで座った。
「さて――――」
陛下が話し始めた内容に、開いた口が塞がらない。
陛下は全てを知っていて、真実を見抜く聖女を使っていた。自分に都合の良いことばかりを話していることも、話していない真実を使って父親である伯爵が悪徳貴族たちを脅していることも、把握していたそうだ。
「私はねぇ、ある程度犯罪の抑止力になるのなら、君の裏切りには目を瞑る予定だがね。そうそう、伯爵については裏取りが済んでるから、いつでも拘束できることを忘れないようにな?」
「っ――――」
「ああ、君には私の未来は見れないよ」
「へ!?」
国王陛下は女神の加護があり、悪意を含む魔法などは全て跳ね返せるそうだ。
だから、真実を見抜く聖女の力は通用しないんだよと言い、ニコリと微笑んだ。