34:煽り。
セシリオ様と夕食を取りながら、これから移動範囲や買えるものが増えるな、といった話をしました。
「とりあえず、明日は注文していた薪を取りに行こう」
「はい!」
馬車に乗るのは久しぶりなので楽しみです。
「荷台はイスがないから、馭者席の隣になるけど……大丈夫か?」
「へ? 大丈夫ですよ?」
なぜちょっと心配されたのかと思ったら、疾走感が結構あるらしく、怖がる人もいるのだとか。
そう言われると、そもそも馭者席の隣に座ったことがありませんでした。
急に不安になってきましたが、隣にはセシリオ様がいてくださるのですよね。それならば何があろうと平気だろうなと思い、そう伝えました。
「っ――――そう煽るな」
右手でベチンと顔面を押さえて、セシリオ様が天を仰がれました。
ここ最近は、こうやって気持ちを伝えるようにしていたのですが、そのたびに「煽るな」と言われてしまいます。
一緒に暮らしていて、寝室も一緒で……いえ、ベッドは基本は別々なのですが。寝ぼけていたあのとき以外は。
同じ部屋で眠っているので、ある程度のことは覚悟しているというか、もう少し触れ合いたいなと思うことも、最近は増えてきました。
日常を暮らしすぎていて、少しマンネリというか老夫婦のような生活なのです。
「わざと、煽ってるんです」
少し進みたい。そういう思いから、つい。
勢いで言ってしまった言葉は、取り消せないのですよね。
「…………」
暫く、真顔のセシリオ様に無言で見つめられました。そして、ガタリと立ち上がられたかと思うと、小さな声で「後悔するなよ?」と呟かれました。
私を縦に抱きかかえ、寝室へずんずんと進むセシリオ様。
まさか担ぎ上げられるとは思っておらず、セシリオ様の頭に抱き着いてしまいました。
「胸は気持ちいいが、前が見えない」
「っあ! すすすすみませんっ!」
「わざと煽ってきたくせに、そういう反応は初々しいのか…………クソッ」
怒らせてしまったのかと不安になっていたのですが、続けて「可愛い」と言われて、ホッとしました。
セシリオ様のベッドに下ろされ、覆いかぶさられました。
額、頬、首筋、いろんな場所にキスをされました。
「覚悟は出来てる?」
「っ、はい……」
唇同士が触れるか触れないかの距離まで近づくと、低く甘い声でそう囁かれました。
心臓がドキドキと脈打ち、爆発しそうです。