33:二頭立ての馬車。
ガラガラと馬車の車輪の音、馬の蹄の音と嘶き。
夕食の仕度を途中で放りだし、家の外に駆け出しました。
早朝から馬と馬車を取りに出掛けていたセシリオ様が、やっと帰って来ました。
「おかえりなさい!」
「ん、ただいま」
玄関を出ると、二頭立ての馬車からセシリオ様がひらりと下りるところでした。
鹿毛と芦毛の馬だと聞いていたのですが、芦毛の馬は濃い灰色に白い斑模様のような不思議な柄でした。
「鹿毛がウェイドで、芦毛がゴルジュだ」
「ウェイドとゴルジュですね。よろしくね」
ウェイドの鼻筋に手を伸ばし撫でようとしていたら、右肩にドンと何かが突進してきたような衝撃。どうやらゴルジュが鼻で突いて来たようです。
どうしたのかとゴルジュを見ると、ブルブルと頭を振りながら文句を言っているようでした。
「怒ってる?」
「はははは。ゴルジュは体力はものすごいが、ちょっとわがままなようでね……」
セシリオ様が経緯を説明してくださったのですが、ゴルジュはウェイドがいないと精神が落ち着かないのだとか。その割には自分を先に撫でないと怒るのだとか。
「嫉妬ですか?」
「そ。自分のほうが兄貴だって思ってるらしい」
血縁関係はないそうですが、幼い頃から一緒に過ごしていたので、とても仲良しなのだそうです。馬主さんも他に馬を飼う予定がなく、二頭同時に買い取ってくれる人を探していたのだとか。
「これ以上は増やす気はないし、丁度いいかと思ってな」
セシリオ様がゴルジュの鼻筋をデシデシと叩いていました。そんなに雑で怒られないのかと思いましたが、ゴルジュはなんだかんだ嬉しそうです。
私も、はやく二頭と仲良くなりたいものです。
「いい匂いがする」
「もうすぐ夕食が出来ますよ」
「ん、二頭を小屋に繋いでくるよ」
馬と馬車を購入することに決めてから、セシリオ様と二人で裏手にあった小屋を馬小屋にリフォームしました。
素人がやったわりには、かなり上手にできていると思います。
「どうでした?」
二頭を繋いで戻ってきたセシリオ様に様子を聞くと、初めにウェイドがスッと入ってくれたそうです。ゴルジュが暫くゴネたものの、ウェイドが嘶き声を上げるとゴルジュが仕方なさそうに入ってくれたのだとか。
「あはは。なんだか、本当に幼い兄弟みたいな二頭ですね」
ちょっと気難しいお兄ちゃんと、実はしっかり者の弟のように思えて、笑い声が漏れ出てしまいました。
セシリオ様がクスクスと笑いながら、実はウェイドの方が精神的にとても大人なんだよと教えてくださいました。