26:治療行為です。
抜けすぎている、警戒が足りない、危機管理能力を発揮しろなどなど、セシリオ様に怒られつつ軟膏塗布。
袈裟斬りになっている胸元の傷をそっと撫でると、胸筋もとい雄っぱいがピクリと動きました。
「わっ! 痛かったですか!?」
「…………いや、気にしないでくれ」
気にしなくて良いのならと塗布を再開しましたが、またもやピクリ。八個くらいに割れている腹筋もピクリピクリ。
「こそばゆいですかね?」
「っ……気にするな……続けてくれ」
「でも。あ! 自分で塗り――――」
「いやだ。塗ってくれ」
被せながらに嫌だと言われてしまいました。
こそばゆいのなら自分で塗れば解決なのでは? あ、でも、傷口を自分で触るのは怖いと思う人もいますし、怖いんですね? そうですよね、怖いですよね。
「怖くはない」
「じゃあ、ご自分でどう――――」
「オリビアに触られたいんだよ!」
「……へ?」
――――ん? んん?
ちょっと意味がわからない言葉が聞こえてきました。上手く噛み砕けなくて、首を傾げていると、セシリオ様が両手で顔を覆ってしまいました。
「あの……?」
「っ……何も言うな」
セシリオ様の手の隙間から見えるお顔が真っ赤です。お耳も真っ赤です。
あれ? これ、売り言葉に買い言葉のノリではなくて、本音?
これは治療行為ですよね?
あれ? あ、でも好きな人から肌に触れられるのって…………え? ちょっと嬉しい?
「「……」」
無言でセシリオ様の腹部に軟膏を塗り続けていたのですが、全身が熱いと言いますか、顔から火が出そうと言いますか…………。
とりあえず無言で塗布し終え、ガーゼで保護して包帯を巻きました。
昨日までは一切に気ならなかったのですが、セシリオ様の胸に抱き着くようにして包帯を巻いていたのだと気付いてしまいました。
変に焦ってしまい、何度も何度も巻き直しになりました。
「オリ――――」
「おおおおおやすみなさいっ!」
一切眠くはないのですが、軟膏類をバタバタと片付けて寝室へ飛び込みました。
クスクスと楽しそうに笑いながら、セシリオ様が声を掛けてきました。
「ん、おやすみ。私も直ぐ行く」
「っ…………はひ」
どのみち、同じ部屋なのですよね。
今夜はちょっと直ぐには眠れないかもしれません。
…………ほぼ眠れませんでした。
窓の外が明るいです。
「んっ…………ふぁ。おはよう、オリビア」
「……おはようございます」
「顔色が悪いな? どうしたんだ?」
――――誰のせいですかっ!