23:ジョンおじさん。
セシリオ様の怪我に響かないよう、なるべくゆっくり歩いてとお願いしましたが、そもそものゆっくりが私の普通と同じペースでした。
脚のリーチの問題なのか、基礎的なものの全てに差があるのか……考えないようにしましょう。
「あの林を抜けると、少し大きめの村がありますので、今日はそこで買い物をします」
「驚かれるかな?」
セシリオ様がいま着ているのは、騎士服のシャツとズボン。血は洗い流したものの薄汚れているし、大きく切り裂かれているし、あちこちに擦り切れたりあともあります。
どこの暴漢に襲われたんだ!? みたいな見た目です。
「大丈夫ですよ! 私、けっこう誤魔化すの得意なんです!」
「やあやぁ、オリビアちゃん! 久しぶりだねぇ」
「こんにちは、ジョンおじさん」
「その騎……ガタイのいい兄ちゃん、えらくボロボロだが、どうしたんだい…………あ、いや、話せないなら無理には聞かないが!」
服屋のジョンおじさんがセシリオ様を見てびっくりしていた。ジョンおじさんは旅人はいろいろとあるだろうと、売り物にならないらしい古着を分けてくれたり、少し破れてるけれど、と毛布なども分けてくれる優しいおじさんです。
「旅の途中で仲良くしてもらっている人なんですが、先日不幸な事故に遭いまして、今は私の家で保護してるんです」
「不幸な事故? オリビアちゃんの家…………オリビアちゃん、これ持ってなさい」
そっと小さなナイフを渡されました。夜、寝室に勝手に入って来たら太股の付け根辺りをブスッと刺しなさいと。
「えっ……流石にそれは…………それに、寝室は一緒ですし」
「……おい、そこの騎……兄ちゃん、ちょっとこっち来い」
いつもニコニコ笑顔のジョンおじさんが、セシリオ様の胸ぐらを掴んで店の奥に連れて行ってしまいました。
おじさんの後ろ姿に、その人この前までひどい怪我で寝込んでいたから! と声を掛けると、後ろ手で大丈夫だといった風にお返事されました。
本当に大丈夫なんでしょうか?
「いやははは。早とちりだったよ。兄ちゃんにちょうどいい服はここらへんだ。安くしとくよ!」
五分ほどして奥から戻ったセシリオ様とジョンおじさんは、なぜか作り物の笑顔を貼り付けたような顔でした。
服を選びつつ、セシリオ様に何があったのかと聞きましたが、男同士の話し合いだから気にするなと言われてしまいました。
謎です。