20:一緒に食事。
◇◇◇◇◇
――――温かい。
目蓋をゆっくりと押し上げると、目の前には肌色と酷い傷痕のある雄っぱい。
あれ? 私、背中側にいたけどなぁと思いつつ、目を擦っていると、頭の上からゴホンとわざとらしい咳が聞こえました。
「やっと起きた……」
「おふぁよぉございます。ご気分はどうですか?」
「…………答えたくない」
――――なぜに?
熱は今のところ下がっているみたいだし、まぁいいかとスルーすることにしました。
朝ご飯は食べれそうかセシリオ様に聞くと、ダイニングに移動して食べたいと言われたので、脇を支えて移動しました。
セシリオ様はダイニングテーブルに着くと、キョロキョロと周囲を見回していました。
「どうされました?」
「百年以上経っている家とは思えない」
「ええ、そうなんですよね。保存状態がとても良くてびっくりしています」
テーブルやイスなんかもそのまま使えています。もしかしたらこの場所自体に何かの力が働いているのでは? と思えてなりません。
お話をしつつ、手早く朝ご飯を作り、向かい合って一緒に食べました。
王都を出てずいぶんと長い間一人で食事していたので、誰かと一緒に食事するのは、なんとなくウキウキとしてしまいます。
「ベッドで食べるより、こうやってテーブルで食べるほうが好きだな」
「私もです。でも、体調が悪い時は無理しないでくださいよ?」
「ん。オリビアは優しいな……優しすぎて心配だ」
優しい優しいと何度も言われますが、自分ではよくわかりません。基本的には、自分がしたいようにしているだけなんですけどね。
セシリオ様曰く、そういう風に考えずに行動しているとわかるからこそ、優しいと感じるんだと言われてしまいました。
「でも、心配なんですよね?」
「あぁ。怪我していたら、信用ならない男でも家に上げそうだ」
「さすがにそれは…………あるかもしれませんけど……でも……」
「だろう? 現に私を一人暮らしの家に入れている」
それはセシリオ様だからこそ、なのですが。それを明言してしまうと色々と不都合というか、どう接していいか分からなくなりそうなので黙っておくことにしました。
「次から、気を付けます」
「ん、そうしてくれ。君が傷つくところを見たくない」
そんな風に心配してくれるセシリオ様こそ、優しい人だと思うのですが、それもそっと心の中にとどめておきます。
この淡い気持ちを零してしまえば、いろいろと一気に進んでしまいそうなので。
私には、まだ覚悟が出来ていませんから。