19:オリビアの抱えるもの。
セシリオ様の目が、何もかも知っている、と言っているようでした。
もしかして、教皇様から聞いている? いえ、そんなはずはありません。たぶん、カマかけというか、そういったものなのでしょう。
「さっ、シャツを着ていいですよ。色々片付けたら戻りますから、安静にしててくださいね?」
清拭も終わりましたし、片付けて今度は私の洗髪と清拭です。手早く終わらせましょう。
「オリビア」
「はい?」
「ありがとう」
ベッドに横になったセシリオ様のふわりとした微笑み。そして、穏やかな声でのお礼が、心にじんわりと染み渡ります。
家事などを終わらせ寝室に戻ると、セシリオ様は穏やかな顔でぐっすりと眠られていました。
額に手を当てると、まだまだ熱はあるもののずいぶんマシになっていました。
――――良かった。
ちょっと狭いですが、ベッドに潜り込んでセシリオ様の背中にピッタリと寄り添いました。
治ってほしいと願ってはいけない。思うのはいいけれど、想いを込めてはいけない。心の加減がとても難しいのです。
願わずにはいられないこの気持ちを、どうにか抑え込んで目を瞑りました。
□□□□□
――――なんでだ。
なんでこんなことになっているんだ!
朦朧としていて、余計なことを口走っていた気がする。
オリビアはいつも寂しそうに微笑んでいた。その理由が知りたかった。なんとなく思い当たる節はあったが、探り出すつもりはなかったのに……。
王都を出る際に教皇に頼まれていた。どうか追い詰めないで欲しい、と。
オリビアの抱えるものは、生半可な覚悟では受け止められない。教皇も聖女たちも、オリビアが王都を出て行くと決めた時に、反対できなかったという。
教皇はオリビアが抱えるものが何か知っている。聖女たちはハッキリとは知らないが、勘付いている者は多く、オリビアを大切に思っている者ばかりのようだった。
部屋を出ていく際のオリビアは、いつにもまして寂しそうな顔だった――――が、なぜこうなっている!?
背中が妙に温かかった。その温かみが腕の中にほしいと思い寝返りを打ったら、そこにはぐっすりと眠ったオリビアがいた。
しかもまた半裸のような状態で。
オリビアの能力は、触れているほうが効果が高いらしいが……これは、そういう問題ではなく、男として相手にされていないのでは? という不安しかない。
見てはいけないと思うものの、視線はどうしても寄せられた胸の谷間に吸い寄せられていく。
昼間に眠りすぎた。
目も脳も冴え渡りすぎて、もう眠れる気がしない。