18:背中の古傷。
とりあえず、清拭がしたいので掛布を手放すよう言うと、渋々とお顔を出してくださいました。
「はい、じゃあシャツを脱いでください」
寝巻き用のダボダボとした前開きシャツを着ていただいていたのですが、私にはダボダボでもセシリオ様にはちょっと小さくて、前のボタンは留めていませんでした。
まぁ、脱げずに拭けそうな気もしますが、背中とか面倒なんで脱いで欲しいです。
あと、ズボンは騎士服のままでしたから、わりとはたきはしたものの砂汚れもあります。脱いでほしいのですが、代わりの服はありません。ウエストがゴムのスカートとかはありますが……入るかしら?
「スカートは流石にっ!」
「ですよね。はい、じゃあ脱いでください」
服をツンツンと引っ張って促すも、またもやモジモジ。お湯が冷めるので、早くしてほしいです。
「しっ、下は自分でするからっ!」
「はいはい」
「っ…………相手にされてない」
「いま話してるじゃないですか」
「……くっ!」
こちらに背を向けて掛布を身体に被せて何やらモゾモゾするセシリオ様。筋骨隆々といった感じの背中を見つめていたら、ふと触ってしまっていました。
「うおっ!?」
「あ、すみません、つい」
背中や脇腹にいくつもの古傷があるのですが、ひときわ大きな傷が右肩から肩甲骨に向かって残っています。
数年前にセシリオ様が運ばれてきて、医師たちが匙を投げかけていた傷。
初めて本来の力を発動させてしまった傷です。
あのとき、きちんと治せなかったんだな、と少し悔やむ気持ちもあり、ついつい撫でてしまいました。
「大きな傷が残っているが、見た目だけだよ。痛くもないし、麻痺とかもないんだ」
「……良かったです」
知らないうちに使ってしまった能力。
私は決して教皇様と亡くなられた聖女のようにはなってはいけないと、心に決めることとなった原因でもあります。
「それでも……助かって良かったです」
あのとき力を使わなければ、セシリオ様の右腕は一生動かなくなるはずだったし、騎士も続けられなかったでしょう。
騎士たることに誇りを持っているセシリオ様には、あまりにも残酷な宣言をすることになるはずでした。
「不思議なんだよね…………もうダメだろうなって、人生を諦めていたのにね。君が側にいてくれたからだと思うんだよね?」
「…………気のせいですよ」
振り返ってじっと見つめてくるセシリオ様。その空色の瞳を見つめ返すことが出来ませんでした。