15:真実とは。
しばらく悩んではいたのですが、やはり伝えたくないという気持ちが大きかったので、謝罪と素直な気持ちを伝えることにしました。
「隠していることはあります。そしてそれはこれからも自分の心の中にとどめておきたいです。決して国や国民に仇なすようなことでは――――」
ふと、思ってしまいました。胸を張って仇なしていないと言えるのでしょうか? 故意に能力を使わない聖女は善といえるのでしょうか?
真実はひとつではなく、人がいるだけ主観があり、それぞれが思う真実があります。
もしかしたら、真実を見抜く聖女はそういったものを見抜けるのか、自分の中の真実を基準として考えているのかもしれませんね。
「オリビア?」
「すみません。仇なしていないのかは、自身で明言はできませんが、するつもりがないとだけ」
「うん」
セシリオ様が続きを促すようにこくりと頷きました。
「私は聖女です。たとえ役立たずだとしても、聖女の力を女神様に授けられたことは事実です」
そのことに嘘偽りはなく、誇りも持っています。
だからこそ、人命を脅かしたり粗雑に扱いたくはありません。自分の命も含めて。
「ん、分かった。無理に聞き出そうとしてごめん」
「いえ。隠されていると気になるのだと思います。話せずにすみません」
「ふぅ……」
上半身を起こして話を聞いていたセシリオ様が、ため息とともにベッドに身体を横たえました。
こちらを向いて横になり、じっと見つめて来られたのでどうしたのかと聞くと、治療院での雰囲気と違うと言われました。
「それは聖女の制服を着ていないからでは?」
「そういうことじゃなくて……瞳が生きているというか。治療院では今にも消えそうな気がしていた」
――――あ。
セシリオ様の言う意味がなんとなく理解できました。
治療院にいた頃は、身を潜めるというかなるべく目立たないよう、人の記憶に残らないようにしていましたから。
それでも話しかけてきてくださっていたのが、主にセシリオ様でした。
他愛のない話から騎士団での面白話まで、本当にたくさんのお話を聞かせてくださいました。
「儚いほうが、お好みで――――」
「今の君が断然いい」
「っ、ありがとう…………ございます」
真正面から被せながらに言われてしまい、少し照れてしまいました。耳が熱いです。