14:疑う。
夕食は、お昼の残りの野菜スープとパンやベーコンと卵の炒め物などを用意することにしました。
もしセシリオ様が食べられそうにないのなら、私の明日の朝食にします。
時間になるまでは、セシリオ様の側に座り、本を読みながら過ごしました。少しでも側にいて怪我を治癒したかったので。
ペラリとページを捲るものの、内容が頭に入ってきません。
「…………面白いの?」
「え――――」
いつの間にかこちらを向いていたセシリオ様にそう聞かれて、何も言えませんでした。ほぼ読んでいなかったのです。教皇様のことや、これからのことを、色々と考えていました。
「なんの本?」
「えっと?」
慌てて表紙を確認しました。
「空想世界の恋愛短編集ですね。今は『継母から贈られた鏡が喋り始めた』を…………捲っていました……」
読んではいなかったので、捲っていたとしか言えませんでした。
「面白そう。聞かせて?」
「はい――――」
喜劇タッチの文章を読み上げていると、セシリオ様がクスクスと笑い始めました。いつの間にか、私もつられてクスクスと笑いながら読み上げていました。
短編集の中身のほとんどは喜劇寄りだったので、何本か読み上げては二人でクスクスと笑っていました。
「オリビア、ごめんね。嫌な態度を取って」
「……いえ」
「君のことを、知りたかった。あまりにも秘密が多くて――――」
「不審に、思っていました?」
セシリオ様の言葉を遮りそう重ねると、セシリオ様が一瞬目を見開いたあと、寂しそうな表情になりました。
「セシリオ様?」
「不審に思われていた。評議会の面々に」
評議会――国の方針を決める上位貴族たちの集まりで、全員の意見が一致すれば、国王陛下さえも動かすことさえも出来る存在。
そういえば、真実を見抜く聖女のお父上も評議会の一員だった気がします。
「騎士たちはもちろん、他の聖女たちも、君は間違いなく聖女なのだと伝えたのだが……」
「評議会は真実を見抜く聖女を信じているのでしょう?」
「あぁ。だからこそ、君が隠している真実が知りたかった」
そっと本を閉じ、セシリオ様を見つめました。
話すべきか、話さざるべきか。
彼に背負わせて良いのか。
彼に話したいという気持ちは、なぜなのか。
自分の気持ちが、わかりません。