13:教皇の過去と、オリビア。
教皇様は幼い頃から身体が弱く、直ぐに寝込むような状態だったそう。
教皇様の家系は、ずっと女神教会を支えており、嫡男だったこともあり教皇になるしかなかったそう。
青年となり、ある程度体力もついて来たこともあって、教会で働き始めた若かりし頃の教皇様。
何かあった時に直ぐに対応できるようにと、治療院での勤務がほとんどだったそう。そこで、治癒能力に目覚めた聖女と出逢い、恋をした。
将来を誓うほどの仲になっていたある時、教皇様が流行り病に掛かり、生死の境を彷徨っていたはずだった。ふと目覚めれば、それまで感じていた息苦しさや身体の重さなど全てが消え去っていたそう。
その代わり、床に倒れた聖女を見つけた。
彼女は数日に渡り寝込んでしまった。まるで、自分の病を全て受け継いだように。
目覚めた聖女を問い詰めて発覚したのは、癒しの聖女の本当の力。そして、その力の発動条件。
仕組まれた、二人の出逢い。
教皇様の家族は聖女の力を知っていて、わざと治療院に勤務させていた。
何かあった時に、彼女に命を捧げさせるために。
そしてそれは、起こってしまった――――。
教皇様は何十年と経った未だに苦しんでいました。
愛しい人の命を奪い生きている自分が憎くて仕方ないけれど、彼女からもらった命は無駄に出来ないと。
あのお姿を見ているからこそ、私は絶対に誰にも背負わせてはいけないと自分に誓ったのです。
たとえそれで私が苦しもうとも、絶対に。
額の濡れ布巾を替えながら、セシリオ様の髪を梳くように撫でました。柔らかくて、サラサラ。
力を使ってしまえば、直ぐに治せる。彼を苦しませているのは、私なのではないかと思ってしまう。
「っ……ごめんなさい」
触れているだけでも、少しの治癒効果はある。でも、少ししかない。それが悔しい。
「オリビア?」
薄く目蓋を押し上げたセシリオ様が、空色の瞳を揺らして、こちらに手を伸ばして来られました。
そっと頬を撫でられました。
「なぜ泣いてるんだ?」
そう聞かれて、自分が泣いていることに気が付きました。
セシリオ様の手をそっと払い退け、目元をゴシゴシと拭って「なんでもないです」と答えたら、セシリオ様の視線が鋭くなってしまいました。
「いま、ごめんなさいと聞こえた」
「気のせいですよ」
「……そう?」
セシリオ様はまだ納得できていないような表情でしたが、それ以上は聞き出そうとはしませんでした。
ただ、こちらに背を向けて丸まって眠られてしまいました。