12:聖女の力。
野菜たっぷりスープをしっかりと食べ終えたセシリオ様に、デザートだと言い張って少し可愛いカップに入れたパン粥を渡しました。せめてもの誤魔化しに、上に蜂蜜を垂らしてソース風にしておきました。
もうちょっと考えて作ればよかったです。昨日買ったばかりの卵があったのだから、混ぜて焼けばパンプディングなどにも出来たのに。
「んっ、甘い」
「苦手でした?」
「んーん。すき。美味しい」
パン粥をぺろりと食べてしまったセシリオ様。ふぅとため息をついて、ベッドにボスリと倒れ込みました。
なんとなく息が荒い気がして、前髪を掻き分けて、額に触れました。
燃えるように熱く、セシリオ様の目はとろんとしていました。
「っ、ひどい熱」
「ん。暑いけど寒い……」
カタカタと震えているセシリオ様の頭をゆっくりゆっくりと撫でました。彼は嬉しそうに目を細めるけれど、その笑顔はあまりにも力なく、妙な不安が湧き上がって来ます。
「しっかりと寝てください」
睡眠は、自身の治癒を促進させてくれます。起きている間の機能が緩やかになるので、そちらに注力が行くのだろうと言われています。
こういう時期は、とにかく寝て、とにかく食べての繰り返しになります。あとは、しっかりと汗を拭うこと。
セシリオ様の肌にそっと触れながら、悩みました。
肌に直接触れて、心の底から『治って』と願わない限りは、聖女の力は最大出力されません。
一度、知らずにそれをしてしまったことがあります。
その時は直ぐ側にいた教皇様が気付いて、触れていた手を払ってくださったので、ほんの少しの生命力の譲渡で済みました。
それでも、目の前が真っ白になり、数日寝込むことになったのです。
死にかけていた騎士様は、二日で全快しましが、教皇様が色々と誤魔化してくださり、二週間ほど寝たきりの生活を強制して下さっていました。
――――きっと大丈夫。
何があっても、あれはもう使わない。そう決めたのです。
大切な人を助けたいと、いつか思うでしょう。
自分の命より大切な人が、いつか出来るかもしれません。でも、私は死ぬわけにはいかない。
私の死を相手に背負わせたくないのです。
教皇様が、囚われ続けているように――――。