10:ちゃんと寝てて。
セシリオ様がすやすやと寝ている間に、彼が食べられそうなものを作ることにしました。
野菜を細かく刻んでクタクタに煮込んだスープと、ミルクと砂糖で煮詰めた甘めのパン粥。
合わせは悪いですが、消化と栄養には良いのです。
寝室をそっと覗くと、セシリオ様は穏やかな顔で眠られていたので、とりあえず井戸の側で洗濯をすることにしました。
血で汚れた服や毛布をゴシゴシと洗っていると、後ろに人の気配。
「……ここにいた」
「っ!?」
どこからか見つけてきた木の棒を支えにして、顔面蒼白のセシリオ様が後ろに立っていました。
ふらふらとしていて、明らかに歩いていい状態ではありません。
「何してるんですか!」
「オリビアが消えた…………探さないと……」
「セシリオ様?」
視点が定まらず、ボソボソと呟くようにして、私の方へと近づいて来ました。
慌てて抱きとめるようにしてセシリオ様を支えると、ふにゃりと微笑まれました。さっきまでとても冷たかった彼の身体や手は、今度は燃えるように熱くなっていました。
「かえろ?」
「もう。ベッドで大人しく寝ていてください」
「ん。ごめん」
子供っぽく話すセシリオ様はちょっと新鮮で、心臓がドキドキと脈打ってしまいました。
セシリオ様を支えつつ家に戻り、再度ベッドに寝かせて、大人しくしているよう言い付けると、コクリと頷いてくれました。
「洗濯したらすぐ戻りますから」
「うん」
「ちゃんと寝ていて下さいね?」
「うん」
「戻ったら、ご飯にしましょう」
「ん、待ってる――――」
そうしてまたスウスウと浅い寝息を繰り返していました。
琥珀色の髪の隙間から見える額にびっしりと汗をかいていましたが、表情は思ったよりも穏やかでホッとしました。
とりあえず、濡らした布巾を彼の額に置き、少しだけ熱を緩和させてから、井戸へと急ぎました。
のんびり洗濯していたら、またセシリオ様が起き上がって来そうだったので。
洗濯を終わらせ、急いで家に戻って寝室を覗くと、セシリオ様が「おかえり」と言いながらほにゃりと微笑みました。
心臓がバクバクとうるさいです。
「起こしてしまいましたか?」
「んーん。ちょっと前に起きた」
「裏に洗濯物を干してきます。そのあと食事にしましょう」
「ん、わかった」
ベッドの中でこくりと素直に頷くセシリオ様は、なんだか幼い子どものようで、ちょっと可愛いなぁなんて思ってしまいました。