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六話 踏み出す一歩

 幼い頃の夢を見た。それは過去の記憶で、普段なら思い出せないものだったけど、夢の光景はすごくはっきりしている。


「よいしょ、よいしょ」


 そこは近所の公園で、僕は四人の友達と砂場遊びをしていた。スコップで穴を掘ったり、ちょっとした家みたいなのを作ったりしていた。


「……」


 ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた所で遊びに加わりたそうに見つめているアオがいた。小さい時の彼女は引っ込み思案で、積極的な子ではなかった。いつも口をきゅっと閉じていて、表情も硬くてあまり友人もいない状態でいて。けれど話しかけると、とても嬉しそうにして色んな表情を見せてくれた。

 小さい僕は、砂場の作業を一旦中断してアオへ距離を詰める。そして、ぎゅっと握っていた手を掴んだ。


「アオちゃん、一緒に遊ぼ?」

「……いいの?」

「うん!」


 頷くと彼女はパァッと表情を輝かせる。それから、僕達は共に砂場に行って一緒に家を作っていった。


「ユウくん、楽しいね!」


 そう無邪気に笑う。僕はそんな彼女の表情を見るのが好きだった。




「うぅ……ここは?」

「おはよう、ユウワくん」


 目を開けるとさっき見た白い天井があった。横には小さな椅子に座っているアヤメさんがいる。身体の上にはふんわりとした黒の掛ふとんが乗っていて、それをはがして上体を起こした。


「ええと……」


 何故こうなっているのか逡巡すると、後頭部に痛みが走る。それの痛みで置かれている状況を思い出した。


「ごめんねーミズアの君に対する思いが相当強かったみたいでさ。……売りに出すにはもう少し改良しないといけなさそうだなー」


 人差し指をくるくる回しながら独り言を呟きながら考え込みだす。


「あ、あの。思いの強さって、ネガティブなことも含むんですか?」

「そうそう、二つ含んだ総量で決まるんだ」


 つまり、めちゃくちゃ僕のことを恨んでるという可能性もあって。そう考えると血がすうっと引いていった。


「っていうか、頭だーいじょぶそ? 十分くらい意識を失っていたけれど」

「まだ多少痛みますけど、問題ないと思います」


 頭を触って確認しても、少し腫れているだけで血が出ているわけでもなさそう。


「そういえば、アオはどこに?」


「あの子は、さっき来た依頼者さんのお話を聞いてるよー」

「依頼者?」


 尋ねるとアヤメさんは霊に関する依頼だと教えてくれた。

 それを聞き終えると部屋のドアが開かれて、アオが中に走り込んできた。


「ゆ、ユウ! 目が覚めたんだね!」


 不安げだったアオは僕を見るなり、一転して安心したように破顔した。それは、幼い時に見た光景と似通っていて。


「体調の方は大丈夫? どこかおかしな所とかはない?」

「うん。少し痛みが残るけどだーいじょぶ。なんてね」


 アオやアヤメさんの言い方を真似してみる。アオは焦っていると、普通の言い方になるらしいので、少しからかいを込めて。


「良かった、本当良かったよ〜! また私のせいでユウのことを……ごめんね」

「うわわっ……」


 だけど赤面させられるのは僕の方だった。だって、アオに抱きしめられたのだから。

 恥ずかしさやら嬉しさやらで血の巡りが加速して身体が熱くなる。アヤメさんの方を見ると、ニヤニヤと眺めながら、両手でハートマークを作ったりもしてきて。


「お、落ち着いて」

「あっごめんね、つい」

「う、うん」


 少し気まずい空気が流れて僕は顔を俯かせた。チラリと様子を伺うと、アオも頬を紅潮させていて。そしてすぐそばにいるアヤメさんは、僕と視線が合うとウインクをした。


「ねぇ、ミズア。依頼の事はどうだったのー?」

「そ、そうだった。お話をしてきたんだけど、何だか少し難しいそうで……」

「ほほー? 話してみてなさいな」


 アオは頷く。立った状態のまま話し始めそうだったので、僕はベッドから身体を出して縁に座り直して、僕の隣に座るよう促した。


「ありがとね。それでなんだけど……」


 そこからアオの説明が始まった。


「来てくれたのはアリアケ・カイトさん。土木関係のお仕事をしている人で、家族は妹さんだけ。二人で暮らしていたんだって。そして、その妹のレイアちゃんが霊になってしまったそうなの」

「妹さんが……」

「カイトさんはすごーくレイアちゃんを愛していたみたいなの。だから深い未練を持ってもおかしくないよね。しかも、唯一無二の家族だし」


 アオはどこか遠くを眺めた。


「それでミズア、何に問題を感じているのー?」

「実は、そのレイアちゃんが死んでいる事に気づいていないみたいで……未練云々よりもどう伝えればいいかがわからなくて」

「確かにそれは難しいね」


 どれだけオブラートに包んでもすごいショックを与えてしまって、未練解決どころじゃなくなるかもだし、かといって伝えなければ亡霊化してしまう。


「それと今レイアちゃんは、霊になってからずっと部屋の中にいるみたい。カイトさんが何とか外に出ないようお願いしているんだって。いつまでもつかわからないみたいだけど」

「ふむふむ……それは早めに行かないとねー。亡霊化のこともあるし」

 そう一度言葉を切ってから、パンと掌を叩くと。

「よしっ。じゃあとりあえず二人でレイアちゃんに会ってきなよー。時間も無さそうだし、まずは行動あるのみ」

「ぼ、僕も?」

「モチのロン。大変な戦いも起きなさそうだし、初めてのお仕事にはぴったりだと思うなー。ミズアとも一緒だしさ」


 アオと目を合わせると、一回頷いてくれて大丈夫だよと伝えてくれる。正直、まだ僕みたいな人間が、ロストソードを振るって良いのかわからなかった。でも、やらなきゃいけないことだともわかっていて。


「わ、わかりました。頑張ります」


 僕は覚悟を決めてそう宣言すると、それを聞いたアオはあの頃みたいに表情を輝かせる。それだけで、間違ってないと思えた。

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