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Ut. Cold Heart -ユートピア コールドハート-  作者: 猫宮助六
第二章 笑い狂う影の毒蛇
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第16話 その先は

 レザール一行とCrow(クロウ) Toys(トイズ)の店主ブレインは森で倒木を集め薪を作っていた。薪と言っても暖炉に焚べる目的のものではない。今いるネモフィラアリエス県ホワイトウッドペッカー市の森は、以前両生類型の上級悪魔と準男爵位の悪魔の討伐の際に訪れた場所だ。森なのだが、今この場所は少し寂しい。上級悪魔との戦いで沢山の木々が薙ぎ倒されたのだ。周囲は倒木だらけで不自然に拓けた空間が出来上がっていた。

 レザールがチェーンソーで丸太を約三十センチ間隔でカットしていき、カットした丸太をエリスとレオン二人でブレインの側に運ぶ。ブレインはその丸太を斧で縦に三等分に割る。

「倒木はまだあるが、こんなもんでいいだろ」

レザールが額に滲んだ汗を拭いながら言う。薪を一つ手に取って釘が突き出た台座の上に置く。台座は木製で新し目の木の質感から、最近作られたものだと分かる。

「これから何をするんですか? 」

レオンの質問には答えずレザールは薪の真正面に立ち刀を握る。右足を引いて腰を落とし鯉口を切る。左足を踏みしめて一気に振り抜く。抜刀して右斜め上方へ刀を振ると、勢いはそのままに袈裟斬りをする。そして刀身を静かに鞘へ収める。瞬く間の出来事だった。薪は三つに斬れて欠片二つは地面へ崩れ落ちる。

 刀を使い込んできたからこそ出来るであろう技にレオンは目を輝かせる。そんなレオンに「お前もやってみろ」と声をかけて薪を一つ置く。レオンは戸惑いながら薪の正面に立った。

「レオン、お前は袈裟斬りだけでいい。下級とは言え悪魔を()ったんだろ? 」

「……ほんの数体は。でも刀を扱い切れなかったのですぐナイフに持ち替えました」

レザールの御託はいいから早くやれという視線を受けてレオンは緊張した面持ちで刀を握る。そして深呼吸をして刀を大きく振った。しかし、刀は薪の三センチほど切れたところで止まってしまう。

「レオン、刀は叩き切るモンじゃねぇ、引いて斬るモンだ。あと余計なことは考えるな。斬る事だけに集中しろ」

レザールの淡々とした指摘に慌てて対応しようとするが、刺さった刀がなかなか抜けない。見かねたレザールがレオンに代わって引き抜くと刀身を眺めた。そして、レオンに代わって逆袈裟斬りで薪を斬る。

「斬れ味は上々。あとはお前の技量次第だ。両断するまでやるぞ」

レザールはそう言って刀を渡す。新しい薪を置き、視線をレオンへ向けた。有無を言わせずやらせる様子だ。

 教えるのならマンツーマンが理想的だが、レオンにばかり構ってる訳にもいかない。レザールの弟子はレオンだけではない。エリスもまたレザールの弟子だ。エリスは薪に麻縄を縛り付けて、レオンから少し離れた木の枝に付けていた。これもレザールの指示だ。

「レザール、こっちも出来たわよ! これから何するの? 」

エリスに呼ばれすぐにそっちへ顔を向ける。レオンには斬る練習をさせたままその場を離れる。

 薪がぶら下がった木の前に立つと、その側にいたブレインに声をかける。すると、打ち合わせでもしていたのか、ブレインは問うわけでも無く薪を大きく振り子のように揺らし始める。レザールは右太腿のホルスターからクルクルと回しながらハンドガンを取り出し、銃口を薪へ向けた。そして数秒も経たない内に引き金を引いた。放たれた白い弾丸は真っ直ぐに薪の中央に命中する。レザールは銃を下げてエリスに向き直る。

「こんな感じだ。俺は魔力弾を使ったが、お前は無理だろ? 実弾を使うのも勿体無いからエアガンを使え」

そう言ってエアガンを握らせてエリスの腕に重りを巻きつける。

「コツはあるの? 」

エリスの質問に少し考えてから口にする。レザール本人は撃つ瞬間のことは特に特別なことは考えていなかったのだろう。改めて技術を聞かれると自身を振り返らなければならないのだ。

「動きを予測する、とかか? 頭脳派は弾速と発砲距離を計算して着弾予測位置を割り出すんだろうが、お前はそう言うタイプじゃないだろ。感覚で覚えろ」

頭で考えるのは苦手だろうと言われたようなものだが、エリスもそれは自覚があるようで「はーい」と気の抜けた返事を返す。二人のやりとりを見ていたブレインはレザールに声をかける。

「嬢ちゃんの射撃訓練は俺が見ておくから心配すんな」

「アイツの心配はしてねぇ。それよりお前の方が気を付けろよ。素人の射撃は弾が何処に飛ぶか分かったもんじゃないからな」

レザールの辛辣でいて至って真面な指摘に、はいはいと呆れた様子でゴーグルを付ける。レザールはブレインに青の油性マーカーを手渡す。それはペン先が太いものと細いものになっている、文具店でよく見かける一般的なマーカーペンだ。意図としては、着弾位置を記録するということだろう。

 木に付けられた薪が振り子のように左右に揺らされる。エリスはエアガンの銃口を的に向けてタイミングを計る。しかし背後の視線に集中出来ないでいた。

「ちょっと、なんで見てる訳? あたしの訓練見るのはブレインなんでしょ? 」

「最初の数発は見てる。当たり前だろうが。いいから集中しろ小娘」

小娘という発言にムッとするが、ちゃんと練習を見ているつもりなんだと分かり複雑な心境の様子だ。

 的に視線を戻し銃を構える。的の動きを見ていると左右に振り切れるときに動きは遅くなる。撃つタイミングはここがベストだろう。振り子の原理なのだから当然と言えば当然だが。そんなこんなで二周三周と揺れている間にもずっとタイミングを伺っているが、中々撃てないでいた。

「いや、早く撃てよ! たかが的当てにどんだけ時間かけてんだ! 」

レザールの突然の大声にビクッと肩を揺らし、その勢いで引き金が引かれてしまう。「あっ」と声を出した頃にはもう遅く、エアガンから飛び出た弾は真っ直ぐ飛んでいく。

「びっくりして撃っちゃったじゃない! せっかく狙ってたのに! 」

集中を阻害された怒りでレザールの胸をポコポコと叩く。エリスは弟子入りしてから体力作りと筋トレをしているのだ、華奢ではあるが意外と力は強い。

「痛い痛い痛い! 狙うっつったっておせぇんだよ! 練習だって言ってんだからバンバン撃てや! 」

二人の言い争いに辟易した様子のブレインが間に割って入る。

「二人ともそこまでにしときな。嬢ちゃん、さっきの一発はちゃんと的に当たった。だからこの調子でやっていけば上達していくだろうよ」

ブレインの評価にニッコリ笑い、やる気が出たのかウキウキでエアガンを握る。そんなエリスにレザールは溜息を吐く。やる気になったのは良いが、エリスがあまりにも気分屋なのだ。前途多難とはこういう事なのだろう。レザールは頭を掻きながらエリスとブレインに背中を向けてレオンの方へ行く。


 訓練を開始して何時間か経過し、休憩に入っていた。空は薄暗くなってきており、子供は帰る時間だと告げている。レザールは一分程前に着信が来ていた為、その電話の対応に入っている。レオンとエリスは座って水分補給をし、ブレインは帰宅準備をしていた。残った薪と使った機材を車に乗せてエンジンを着けていつでも解散が出来るようにする準備だ。この場に留まっているのは、レザールを待っているからだ。

「アイツも電話する程仲の良い友達が出来たんだな。いやはや、感慨深いもんだ」

「レザールの友人って俺が知る限りではコブラさん、ジャックさん、ブレインさんくらいですよ。今の電話も恐らくは仕事です」

レオンの分析にガッカリしながらも、レザールの友達の是非について見解を言う。

「コブラは違うだろうよ。アイツらは肝心なところで真逆な性質してるからな。ウマが合わないんだよ。それにアイツは……いや、俺が言うことでもねぇか」

ブレインはレオンよりも付き合いが長い為レザールのことはよく知っている。だからこそレオンが言う友達の括りに疑問があり訂正をしたのだ。

 レザールは電話が終わったのか、ブレインたちの方へ歩いてくる。二人の会話が聞こえていたのか怪訝そうな顔をしている。そんなレザールのことは気にも留めず、ブレインはこの後について訊く。この後と言っても今日の訓練は終わりだ。ブレインは早々に帰るつもりだが、車に乗って一緒に行くのか電車で帰るかのどちらかを聞きたいのだ。

「ここ、ホワイトウッドペッカーに悪魔が出たんだと。その討伐依頼が入ったから俺は残る。遠方だと市単位でしか分からないって言うから厄介なもんだ」

やれやれと頭を掻いて超音波索敵機を起動して周囲を見渡す。自身を示す点のみ表示されることから、この辺り半径十メートル圏内に悪魔は居ないようだ。しかしレザールはあることに気付く。

「エリスはどうした? 」

レオンと休憩していた筈のエリスが居ないのだ。ブレインもレオンもエリスから何も聞いておらずこの場の全員が焦り出す。

 レザールが携帯電話でエリスにかけてみるものの一向に出ない。だが、人の足でそう遠くへは行けない為、何事も無ければ近くにいるのは確かだ。

「取り敢えず森の奥に行く。レオン、お前はブレインと一緒に帰れ」

「そんな、俺も一緒に探します」

そんな問答の最中、森の奥から一発の発砲音が聞こえてくる。音の響きと大きさからして近いところで鳴ったようだ。発砲音と言えばエリスもハンドガンを持っている。これがエリスである可能性が高いのだ。レザールとレオンは互いに顔を見合わせて頷き合い、発砲音のした方向へ走り出して行く。ブレインもエリスを心配して二人の後をついて行くのだった。


 今日最後の休憩時間、レオンとブレインは談笑をしており、エリスは退屈そうに切り株に座っていた。ふと周囲を見渡していると草に隠れているが、下りの道が見える。そう、その道は準男爵位の悪魔の討伐の際に通った道だ。その時は道の先に魔界へのゲートがあったのだ。両生類型の上級悪魔も準男爵位の悪魔も討伐した今、教会からの通達も特に無い為ゲートは姿を消したのだろう。今確認する術は無いが。

 森の奥の方は先日の討伐戦で行くことは無かった。この広いだけの空間となった通路と正道から外れた下り道の先に目標がいた為、それ以上奥に行く理由が無かったのだ。実際に奥に道なりに進んだところで森を抜けてシンビジウムアクエリアス県のグレーオーストリッチ市に入るだけだ。北部の領域で、エリスにとっては用事が無い限りは行く必要が無い場所だ。

 ふと花の甘い香りが鼻を掠める。匂いは森の奥から漂ってきている。花の匂いに誘われ吸い込まれる様に身体が動き出す。ぼんやりと虚ろな眼差しで前を見据えながら一歩一歩ゆっくり進んでいく。

 目的も何も無く、視線を落とすと一つの魔力石が落ちていた。魔力石は神聖生命体が持っている物。つまり誰かが倒したきり回収をし忘れていた物である可能性がある。

 魔力石に手を伸ばす。代わりに回収をして教会に届ければ神聖生命体を倒した人が見つかる可能性があるからだ。拾い上げようとした瞬間、茂みから何かが飛び出して来た。ウサギでもイノシシでもない。もっと人の様に大きい図体をしている。クマでもない。身体は毛で覆われていないからだ。寧ろ足と呼べる部位が無い。

 それが何か分かると咄嗟に後ろに飛び退き距離を取った。後数秒静止していたら食べられていただろう。慌ててハンドガンを握って銃口を向ける。セーフティを外しカタカタと震える手で銃口はそれを捉えていた。喉をゴクリと鳴らして目の前のそれの全体像を目に焼き付ける。それはどう見ても巨大な蛇だった。

 生物界、ましてや人が暮らす街が近いこの場所にこの巨大な蛇が居る訳がない。これは悪魔だ。本能的にそう悟るとエリスは銃を発砲する。初めて見る巨大な蛇に震える手でやっとの思いで引き金を引いた一発だった。この時、不覚にも悪魔に恐怖心を抱いたのだ。これは見目の不得意の他にも悪魔に対して自信が弱いと自覚した瞬間でもある。エリスは兄を守る為に強くならなければならない。だが、そんな矢先に恐怖に震えていては人を守るなど夢のまた夢だ。エリスは悔しさに顔を歪ませる。弾丸は蛇の脇腹を掠めた。とても致命傷になり得ない傷だ。蛇は口を大きく開けてエリスに飛びかかる。足が竦んで動けず、もう駄目だと目を閉じ顔を伏せる。

 食べられる感覚は生きている人間は誰も経験しない。それを経験するのは死ぬ間際にしか来ないからだ。どれほど痛いのだろうか。何度咀嚼したら絶命するのか。そんな想像しか出来なくなっていたが、その瞬間は一向に訪れなかった。

 目を開けて顔を上げるとそこには見知らぬ男がいた。後ろ手に結ばれた長い髪の男は一蹴りで蛇を蹴り飛ばしていた。男はグローブを引っ張りはめ直しながらエリスの方へ声をかけてきた。

「お怪我はございませんか? 」

男の目は蛇を捉えていた。胸の前で両拳を握りしめ戦闘態勢を取る。蛇は首を起こしすぐに男に食らいつこうと襲いかかる。男は頭を避けて腹に右の拳で一発入れる。常人とは思えない程の衝撃で蛇が血を吐き出し、男は左拳で地面に叩きつける。エリスは驚きのあまり口をパクパクさせてその場で固まっていた。

 そして数分もしない内にこちらへ向かってくる足音が聞こえてくる。慌ただしく走ってくる二つの音。銃声を聞きつけたレザールたちだ。男はその足音の方向を警戒したものの、姿が見えるや否や警戒を解いた。

 レザールは走りながら鯉口を切って柄を強く握る。そして蛇を前に抜刀して首を斬り落とす。首が落ちて身体が力無く倒れる衝撃もまた地面を通して伝わってくるのだった。

「……神の落とし子……と瞳。ーーお見事」

男は一言そう呟いた。そして悪魔の脅威が無くなったと感じると戦闘態勢を解く。レザールたちに会釈をして立ち去ろうとするが呼び止められる。

「待て、俺の弟子を助けてくれてありがとう。助かった」

レザールの言葉に男は振り返る。

「いいえ。ご無事でなによりです」

「アンタは結構戦い慣れているようだが、アンタも神の落とし子なのか? 」

「私はそんな大層な存在ではございません。私はごく一般的な神父です」

神父と聞き、レザールは男の服装を見る。肩に緑色のストラが掛けられており、黒い修道服を着ている。ストラを掛けられていることが神父であるという証明になる。中央部の教会は青色な為、中央部の教会の神父でないことは確かだ。

「……依頼書は後程私の方で書かせて頂きます。貴方がたは魔力石の提出をお願い致します」

「いや、依頼書はいらない。実はルイ……いや、クランベラの司教から依頼が入っていたんだ」

「ルイの……そうでしたか」

ルイの名を出すと男は考える素振りを見せてレザールに向き直る。胸に右手を当てて左手は腰に添え、五秒程三十度腰を折ってから話し出す。

「申し遅れました。私はシンビジウムアクエリアス県グラファイトバスタード市の豊穣神ナトゥーラ様が我が主であられる教会、北部ラズ教会の司教を務めております。名をケイキョク、姓をラズと申します。以後よしなに」

レザールはルイ以上に堅い自己紹介をするケイキョクという男に気圧される。顔を引きつらせながらもレザールも自己紹介を返す。そして同時にレオンとエリスの紹介も簡単に済ませる。ケイキョクは周囲を見渡し考え込む。ぼそぼそと独り言を呟くが、レザールたちには聞こえていない。

 遅れてブレインが到着する。普段走り回らないからか、息も絶え絶えで汗がダラダラと流れており誰が見ても分かるくらいに疲弊していた。

「お前ら、早いんだよ……あん? その人は? 」

ブレインは肩で息をしながらレザールに問う。ケイキョクはブレインに向けて再び名乗る。二度目ということもあり、教会名と姓と名のみ語った。ケイキョクの紹介に、ブレインは慌てて自己紹介をする。レオンがブレインの背中を摩って呼吸を落ち着かせる。何度かの深呼吸の後にようやく切り出す。

「お、俺は……いや、私はシルバークロウ市で『Crow Toys』というしがないおもちゃ屋を経営しております。名をブレイン、姓をマックスと言います」

「……私に畏まる必要はございません。しかし貴方様がCrow Toysの店主でしたか。お噂は兼ねがね、次の司教会合で伺う予定でした」

「あ、あー……そ、そうでしたか。お子さんへの贈り物ですか、ね? 」

ケイキョクに楽な話し方でいいと言われても商売人としてか、ぎこちない敬語で話を進める。そんなブレインの質問には答えずレザールたちに話を振る。

「ラズ教会にご案内致します。貴方がたは如何なさいますか? 」

「いや、俺らは帰る。時間も遅いし未成年を出歩かせる訳にもいかんだろ」

「……左様ですか、ではそのように。参りましょうかブレインさん」

ブレインとケイキョクはラズ教会の方へ向かうかと思いきや、引き返しホワイトウッドペッカー側の森の入口へ歩き出す。乗って来た車を回収しに行ったのだ。レザールたちも森から出るために歩き出す。



 レザール、レオン、エリスの三人は同じ電車に乗ってそれぞれの最寄り駅に行く。複数ある路線の内の中央部エリアの外周を回る列車に乗り込む。とは言っても、ホワイトウッドペッカー市から出る列車は中央部エリア外周列車か、北部エリア旧列車のいずれかしか無く、北部エリアに行く列車は多いが中央部エリアに行く列車は少ない。仮にブルーイーグル市に行くとなると乗り換えるしかないのだ。今回はエリスがレッドコンドル市、レオンがオフスカイラーク市、レザールがシルバークロウ市となる為、目的の駅に着いたらエリスから降りて行くことになる。

 乗車した地点のホワイトウッドペッカー市から南のシアンマーレット市に入り、東へ行ってオレンジスワロー市に入る。疎らだった乗客はここで格段と増え、立っている乗客もいるくらいだ。そして約六分程してオリーブクレーン市の駅に着く。先程乗ってきた乗客の何人かはここで降りている。電車の出発時の音と共に扉が閉まり動き出す。レオンはホームに立っていた人物と目が合った。瞬間的にレオンの顔色は青くなり小刻みに震え出した。レザールとレオンの間に座っていたエリスはレオンの様子に気付く。

「レオン? 顔真っ青だよ? 」

「ーー! いや、なんでもないですよ。少し寒いのかもしれないです」

電車内は暖房が効いており暑いくらいだ。エリスはレオンの様子に違和感を覚えながらも、もう間もなくレッドコンドル市の駅に着く。エリスが下車する駅だ。エリスは怪訝な顔をしながらも納得した雰囲気を出す。

 暫くしてレッドコンドル市の駅に着いた。エリスは明るく手を振って下車する。レザールは面倒臭そうに投げやりに手を振り返し、レオンは控えめに手を振った。これだけみればおかしいところは何もない。そしてエリスは走って隣の車両に乗り込み、二人が見える位置に座る。他の客に紛れて乗り込んだため二人には見えていないだろう。隣の車線から二人を見る。レオンが降りるのは次の駅だ。

 レッドコンドル市を出発して数分が経ちオフスカイラーク市に着く。エリスはレオンが下車したのを見てその後を追う。レオンに見つからないように約二十メートルほど間隔を空けて尾行する。すると不意に右腕を掴まれる。

「おい小娘、ここで何やってんだ」

レザールだ。どうやらオフスカイラーク市の駅でエリスを見て追ってきたのだ。

「レオンの様子、明らかにおかしかったじゃない。何事も無ければいいけど」

「それで追ってたと? はぁ、他人の事情に首をつっこむな。当人同士じゃねぇと解決出来んことなんざ幾らでもある。お前、お節介焼いて責任取れんのか? 」

「レオンは他人じゃ無いでしょ! あたしたちの仲間じゃない! 」

「揚げ足を取るな。少年漫画で言われがちなセリフを言ったところでどうにもならねぇだろ」

レザールからの小言はエリスの耳に入っていないのか、レオンが曲がり角を曲がるタイミングで手を振り払って行ってしまう。その角から様子を伺っているエリスに歩いて追うものの、呆れてこれ以上付き合うつもりはないと数メートル離れた位置から話しかける。

「はぁ、俺は先に帰るからな。お前も早いとこ兄貴召喚して帰れよ」

そう言ってレザールは道を引き返して行ってしまう。兄を呼べと言うのは危ないから一人で帰るなという意味合いなのだろうが、エリスは「わかってるわよ」と空返事をする。本当に分かっているのかてんで疑問だ。エリスは気にせず尾行を続ける。

 レオンはアパートに入る。言うまでもなくそこがレオンの家ということだ。普通に扉を開けて入っていったところを見て、杞憂だったと肩を撫で下ろす。

「なによ、心配して損したじゃない。はぁー、なんにも無いならさっさと帰ろ」

レッドコンドル市にある自宅に帰ろうとエリスは踵を返す。しかしその言葉とは裏腹に足取りは重くその場に立ち尽くしていた。自身の胸に手を当てて一筋の汗が流れ落ちる。

「……なんなのよ、この胸騒ぎは」

エリスはしゃがみ込んだ。この不安が払拭されるまではこの場から離れられないのだろう。恐らくその不安も長くは続かない。

挿絵(By みてみん)

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