第12話 作戦
ブルーイーグル市とレッドコンドル市の間に建っている中央部クランベラ教会に一人の男が入っていく。聖堂を抜け廊下を通り、中庭さえも通り過ぎた先へ歩いていく。とある部屋の前で立ち止まり無遠慮に入室する。
「やっほ、ルイちゃん。元気にしてたー? 」
緊張感の無い声色でクランベラ教会の司教ルイに声をかけたのはアズマだ。
「……お陰様で。先日はなかなか得難いご対応をして頂き、大変言葉を失いました」
「まぁまぁ、そんな怒んないでよ。キミとボクの仲じゃん」
アズマはルイに怒られてわざとらしくシュンとする。反省の色は無い。そんな態度のアズマに気兼ねなく説教を続けるのだった。
話は本題に入る。二人は気を取り直して席に着き、二つのカップに紅茶を注ぎ一呼吸置いていよいよルイが話し出す。
「シルバークロウ市の神の落とし子の基本情報は手に入れました」
そう言って茶封筒を差し出す。シルバークロウ市の神の落とし子と言われてまず想起するのはレザールだが、今回はそうではない。アズマが茶封筒から報告書を取り出し目を通す。
「ジャック、ね。ルイちゃんったらご丁寧に姓を隠しちゃってぇ。真面目なんだからぁ。そんで、実家はスノードロップピスケス県のグレージュスパロウ市、と。いやーそこに滞在してくれたらボクの負担も減るんだけどなぁ」
基本情報を見ながらグチグチ言うアズマに対し苛立ちを覚えたのか、室内の温度がどんどん下がっていく。慌ててアズマが「冗談だってぇ」と弁明し、態度を改める。
アズマは書類を茶封筒に戻し、咳払いをして座り直す。猫背で前傾姿勢で座っており、とても姿勢が良いとは言い難い。
「ルイちゃんは察してると思うんだけど、実はボク、ジャックくんを見つけたんだよねぇ。元々探す目的だったから驚く事でもないけどさぁ」
ルイは静かに聞いている。言いたい事があるといった、不服そうな表情でアズマを見据えている。「続けて」と発した声色には怒気も混じっている。
「あの子、普通じゃない雰囲気を漂わせているからねー。見てすぐにわかったよ」
神聖生命体の気配と人間の気配は別物だ。神秘と生物の気配の違いを感じ分けられる人物はそうそういないが、神職でもないアズマは更に稀有な存在なのだ。アズマ曰く、神聖生命体の気配は、白く浮遊感があるのだとか。端から聞けばわけの分からないこの感性は、恐らく本人にしか分からないだろう。そして伝えるのも同様に難しいのだろう。
神聖生命体の気配とは言うが、それは神の落とし子も一部該当する。神の落とし子は神より授かりし魔力炉心を持っている。その影響か、人間のものと神聖生命体のものが合わさった気配だと言う。
「では、その神の落とし子特有の気配で分かったと仰りたいのですか? 」
「そうだけど、ちょっと違うねぇ。あの子は御子とはちょっと違った。でも何処かで感じたものと一緒だったから考えてたんだよねぇ」
アズマは考え込むように顎を触る。そして、今日までに考えていた事を吐露する。
「ルイちゃんは前に、シルバークロウ市には御子が二人と、邪眼持ちが二人居るって言ってたね。そのうちの御子の一人はレザールくん。邪眼持ちの一人がレオンくん。なら、ボクが会ったのはその残りのいずれかになる訳だけど、正直レオンくんが本当に邪眼なのかも怪しいんだよねぇ」
何故そこで疑うのがレオンなのか、そう尋ねる前にアズマは口を開く。
「シルバークロウ市に居るそういう神秘を持った人って皆違う雰囲気出しててさぁ。レオンくんも勿論、レザールくんも」
怪訝な顔をしているアズマにルイは追加で情報を提示する。ルイ独自の方法で入手した情報の一つだ。
「……レザールやレオンさんの件は置いておきまして、一先ず彼は神の落とし子で間違いありません。貴方が僕たちとは違うと感じ取られたのは恐らく、彼が引き継いだ神の落とし子だからではないでしょうか。その『何処かで感じたもの』と言うのはクリスさんのことかと推測します」
ルイの言葉にハッとして大きく笑う。笑われてムッとしているルイを余所にアズマは一人で納得した様子で頷く。「ああ、そうか。言われてみれば」と暫く笑っている。
アズマの笑いが収まったところで次の話題に移行する。無理矢理用意した獲物で力試しをさせたその結論だ。アズマの目線でジャックは強いのか弱いのかという結果報告を求めているのだ。アズマはいつになく低いトーンで語る。
「結論から言えば弱い。戦いに粗が目立つし、何より能力ありきの戦闘スタイルだからねぇ。ルイちゃんみたいに魔力量を調整して使ってるのなら、中くらいの実力だと認める。けどそういうわけじゃ無さそうだし。あれじゃ、戦い終わる前に反動でダウンしちゃうでしょー。あの様子じゃ、大した反動でも無いかもしれないけどさぁ」
あっけらかんとした態度で淡々と評価を下す。酷評ではあるものの目を輝かせていることから、見物自体は楽しかったと言うことだろう。声のトーンが下がっているのは「期待外れだった」という面から来ているととれる。その比較対象は言わずもがなレザールだ。
「貴方のご意見は理解いたしました。とは言え貴方が行った、悪魔を街に放つ行為は許されませんが」
ルイの毅然とした態度に眉尻を下げて困った顔をするが、それでも許してはもらえなさそうだ。
今回の情報共有で話すことは全て話した二人は解散の為応接室を後にする。アズマが先導し、二歩後ろからルイがついて歩き見送るいつもと何ら変わらない光景だ。聖堂へ繋がる扉の前で立ち止まり別れの挨拶を交わす。「また近いうちに」そんな他愛のない、いつもの言葉を投げ掛けた時だった。
「ーーっ! あ、ああ!! 」
ルイが頭を抱えて目を見開いて苦しそうに声を上げて蹲る。あまりにも突然の事にアズマは驚き、急いでルイに駆け寄る。
「ルイちゃん⁉ どうしたの! 」
ルイの肩を軽く揺する。ルイは酷く身体を震わし言葉を発するのも苦しそうにしている。
「まさか、薬を飲んでない? 薬が切れてるならボクに言えってあれ程……! 」
ルイはアズマの腕を掴んで僅かに首を振り意思表示をする。救急車の要請すらルイ本人に拒否され、なすすべなくその場に留まるしかなかった。アズマは苦虫を噛み潰したような顔でルイに寄り添い見守っている。今のアズマにはどうすることも出来ないからだ。
ここは真っ黒な屋敷の一室。部屋の入口から奥へ向けて縦方向に長い長方形のテーブルを囲んで座っているかのように並んでいるのは、一つの影を除いて全てがホログラムだ。時折ホログラムの映像の乱れでノイズが走っているものの、音声に問題は無い。部屋の最奥中央の席とその斜め左手前の席の二つは数分が経ってもホログラムは現れない。
今この場には一つの影と四つのホログラムが居る。それぞれが左右に分かれて向かい合っている状態だ。この場で唯一の実体の男が口を開く。
「さて、定期会議の時間だね。議題は言わずもがな分かっているね? 」
柔和な雰囲気を漂わせる男の言葉に口を開いたのは、入口側最前の左の席に位置するホログラムだ。
「はいはーい! 戦争のことよね! 啖呵を切ったんだもの張り切らないとねっ! 」
少女の様な可憐で元気な声が部屋に響く。これを皮切りにどんどん声が上がるが、これではまともな会議にはならないと柔和な男は右手を挙げて静止させる。そして議題に対する自論を述べる。
「君たちは戦争に躊躇いが無い様だけど、僕は反対だよ。兵力を削ってまでやることだとは思えないからね」
戦争に対し毅然とした態度で反対の意思を示したが、当然ながらこれに食って掛かる者が現れる。入口側最前の右の席のホログラムだ。席順からして、今のこの場では一番低い地位に居る者だ。
「腰抜けが。人間どもの戦力が不十分な内に攻めねば戦力増強などもっての外。天使に一矢報いることも敵わんぞ」
「……全く、階級を見てから発言願いたいね。それに僕は君の発言が一切正しいとは思わない。攻め入る理由がそれなら今期はもう既に遅れを取っていると見るね」
言い争いに割って入って来たのは先程とは違う女の声。艶めかしい大人と言った印象を受ける声だ。柔和な男の正面左側のホログラムで、その女の声には呆れが混じっている。
「まぁ、その意見には同意ね。現世の状況を知っていれば戦争なんて選択出来ない筈だもの」
「……そう言う訳だ。僕は精々見物させて貰うとするよ」
柔和な男の立ち位置の表明に艶めかしい女は頷き、同じくそうすることを宣言する。しかし、これに腹を立てた声がある。下品な中年の様な男の声、先程のホログラムの男だ。
「はっ、お高く留まりやがって。ワシの領地の戦力増強に成功した暁には貴様の地位はワシが頂く」
これまでずっと黙っていたホログラムがようやく口を開く。柔和な男の左隣の席のホログラムだ。ドスの効いた、威圧感のある太い声であるが、面白い事が起きることを期待した様な妙に弾んだ声色をしている。この場で今一番機嫌が良いと言っても差し支えない雰囲気だ。
「なにやら自信があるようだな? ならば初めに貴様が行くが良い。吉報を待っているぞ? 」
威圧感のある男に背中を押されたからか、更にやる気に磨きがかかり鼻を鳴らして意気揚々とホログラムを切る始末。それについては誰も何も言わないが、中年の声の男に対して好意的に思った者は少ないだろう。
退出した者が出てもこの会議はまだ続く。こんな展開に慣れ切っていると言わんばかりに全員が中年の男の退出に異を唱えることはなかった。黙っていられない性格なのか、少女の声が挑発的に話しだす。
「行っちゃったねー。でもさでもさ、実際はどこまで出来るんだろうね? 天使を誘き出すとこまでいけるかなー? 」
少女の声は先行きに心を躍らせながらも首を傾げる。少女の声は無邪気に中年の声の男を見下している。自身の方が階級は上だという事実を誇示して観客の様な態度で愉しんでいる様子だ。
「……期待はしないでおくとするよ。そもそも戦力を増強した程度で僕を引き摺り下ろせると思っているのだから、当人が所詮あの地位なのも頷けるよね」
柔和な男は余裕そうな顔でフッと笑う。足を組み直してホログラムたちを見渡す。
気を取り直して今この場で一番地位の高いこの男が話を回していく。
「戦争の反対派は僕と獣。爬と魚は賛成派、だったね? 賛成するということは、君たちには何か目的があるのかな? 」
この質問に意気揚々と真っ先に返事をしたのは少女の声だった。
「可愛いものをコレクションしたい! 種族に限らず女の子のお人形を飾りたいの。前のお人形は腐敗が早くてもう駄目になっちゃったから、これを期に大量に仕入れておこうかなって思って! 」
可愛らしく可憐に話す少女の声色の持ち主は、ホログラムでも分かるくらいに目を輝かせている。ルンルンと胸を躍らせる少女の声は凄く上機嫌であると誰もが分かる。それとは対照的に威圧感のある男は含みのある言葉を残す。
「……俺は契約を取り付けるだけだ」
「それは結構なことだけど、見境が無いのも大概にした方が良い。君が僕のところの配下と不当に契約を交わし操っていたのは知っている。これは、どういうつもりかな? 」
柔和な男の言葉は変わらず冷静で落ち着いている。しかし僅かながらに冷ややかな怒気が混じっており、この場が凍りついたかのように静まり返る。
この空気を払拭しようと声を上げたのは少女の声の主だ。少女の声は序列などお構いなしといった感じに威圧感のある男にプンプンと怒りを露わにしている。
「謝った方がいいと思うなっ! 私だって可愛い子ちゃんたちが急に連れ去られたら嫌だもん! どうしてもってならさ、天使ちゃんを操っちゃえば良いんじゃない? ほら、お得意の契約で! 」
少女の声に威圧感のある男は笑い出す。少女の声はわけも分からず困惑して柔和な男の方へ顔を向けるが、肩を竦めるだけだ。少女の声の発言に便乗してきたのは艶めかしい女の声だ。冷ややかに見下すような態度で威圧感のある男を見る。
「……戦争を起こすと息を巻いて宣言したのだもの。それくらいはやれるわよね? 頑張って一部隊壊滅まで追いやって頂戴。爬、出来ないとは言わせないわよ」
艶めかしい女の声の言葉に少女の声には疑問符が浮かぶ。そして艶めかしい女の声は退出していく。そんな様子に少女の声は呆気にとられたかのように言葉数が少なくなる。
「私なんか変なこと言っちゃった? 」
「そんなことは無いよ。さて、両生といい獣といい会議から抜けちゃったしここで終わりとしようか」
少女の声のホログラムにそう微笑みかけると安心したように消えていった。威圧的な男の声のホログラムを一瞥すると通信を切る。
深い溜息を吐いた後、部屋の扉まで歩いて行き、手を掛ける。ゆっくり開けるとそこには自身の配下が居た。
「……そこで、何をしていたのかな。もしかして聞いていたのかい? 悪い子だね。ああ、怯えないで。僕は君に何かをしようとは思っていないんだ。本当だよ? ただ、他の子たちがどうかは分からないがね」
配下を優しい声色で諭す。子供に語る様な優しい口調の筈だが、配下の身体の震えは治まらない。そんな様子にくすりと笑い、優しい口調で「早く行きなさい。もうこの部屋に近付いてはいけないよ」と呼びかけその配下を見逃した。走り去っていくその背中を見送って部屋へ向き直る。部屋の数少ない照明が男の瞳を照らす。柔和な声色とは正反対の冷たく冷え切った目で例のホログラムが居た場所を無言で見据える。そんな柔和な男の下に一つの通信が入る。ザリザリとノイズが入りながらも声量に気を遣った丁寧な言葉での報告だ。事後という名の。
「おや、亡くなってしまったのかい? ……そうか、残念だよ。本当にね」
通信が切れると右手を振りかざし、部屋の明かりが消える。扉を開けると部屋の外の明かりが顔を照らす。一瞬だけ見えた男の表情には、目が少しだけ細まり口端が吊り上がっていた。
アメリアからの連絡を受けて中央部クランベラ教会へ来たレザール一行。ルイからではなくアメリアからという事に一抹の不安を抱えている様子だ。そんな不安も実情を知らないから湧き出るものであり、実は手が離せない仕事があってその代わりを頼んだ、みたいな大したことのない理由の可能性だってあるのだ。どれもこれもこの聖堂の扉を開けてからでなければ分からない。レザールが緊張の面持ちで聖堂の扉に手をかけてゆっくり開ける。
扉を開けて聖堂内を見渡すと、レザールの見知った顔があった。クリスはエリス関連でルイと面識がありそうだが、教会に縁が無さそうな顔もそこには居た。コブラとジャックだ。
「あれ、ダンナじゃないっすか。奇遇っすね」
「なんだ、お前もアメリアとか言う女から呼び出されたのか? 」
レザールに気付いた二人が話しかけてくる。コブラの口振りからしてコブラの方にもアメリアから連絡が入ったのだろう。レザールたちはコブラの隣に並ぶように座る。
「ちょっと、なによ! 」
エリスが驚いた様子で声を上げる。なんだなんだとその方向を見ると、クリスがエリスの腕を引っ張ってレザールたちと離れた長椅子に座らせている。不満気なエリスはレザールに助けての視線を送るが、レザールは気付かないフリをして視線を逸らす。
「……放置していいんですか? またハムスターみたいな顔してますよ」
一部始終を見ていたレオンがぼそりとエリスの様子を伝えるが、知らぬ存ぜぬといった態度でやり過ごす。エリスの視線が刺さるが気付かないフリをする。
レザールたちが到着して約十分が経った頃、聖堂の入り口から右手側の扉が開かれる。入って来たのはアズマとルイだ。ルイの様子はいつもと違って青い顔をしている。アズマはそんなルイを支える形で寄り添っている。
「……お集まり頂き誠に有り難うございます。では、改めて自己紹介を。僕の名はルイ、姓をクランベラと申します。この教会の司教を務めております」
ルイは顔を顰めながら話す。誰がどう見ても苦しそうだと思う程に悲痛な表情をしている。
「申し訳ありません。もう少しすれば感覚に慣れてきますので」
「感覚」という言葉で、教会関係者が持つ能力を知っている人には察しがついただろう。魔力感知能力は常時発動している能力で、常人の感覚で例えると四六時中顔の周りで蠅が飛び回っている様な感覚の精神を削る能力だ。その能力の関連で苦しんでいることは容易に想像出来る。
ルイは深呼吸を繰り返し、ようやく落ち着きを取り戻したところで本題に入る。
「……本日、皆様に早急にお集まり頂いたのは、緊急事態が発生したためです」
ルイは一呼吸置く。眉間に皺が寄り、どんどん表情が険しくなる。右手でマフラーを握り激情を抑え込む様に息を吐く。
「上級悪魔が出現いたしました。それに伴い魔界のゲートも現れています。上級悪魔の出現にはゲートが必要ですので、恐らく上級悪魔の近くにゲートがあると推測いたしております」
ルイが語る緊急事態の内容にこの場の全員が息をのむ。上級悪魔との戦闘経験は誰にも無いが、これまでの敵よりも強いということは等級が示している。想像に容易いだろう。
ルイは続けて今回の作戦について語る。上級悪魔の出現に伴ってゲートも現れたのだ。文献通りであれば現在は透明化しているが、それを見つけ開けられれば、魔界へ行くことが出来る。そしてそこには爵位持ちの悪魔が居る。上手く事が進めば敵勢力を一つ片付けられるのだ。爵位持ちの悪魔を討伐すれば現世に出現する悪魔の数も抑えられ、例の戦争の話も頓挫する方向に近づくだろう。魔界へ赴いて爵位持ちの悪魔を仕留めるメリットは十分にある。
「ルイちゃん、その上級悪魔と爵位持ちの悪魔を仕留めるのに御子の数はここにいる五人で足りる? あの子たちも呼ぶべきじゃない? 」
「彼らはまだ、悪魔との戦いに慣れておりません。そんな彼らを戦わせても無意味に犠牲にしてしまう可能性の方が高いかと。それと、本作戦の神の落とし子は六人で行います。彼女はまだこちらに到着しておりませんので、逐一連絡を取って作戦をお伝えする所存です」
ルイはこの戦いが連戦になることを予測し、グループ分けをすることにした。神の落とし子たちの能力を考慮しての考えだ。そして上級悪魔を倒した後のゲートがいつまでも出現しているとも限らないのも理由の一つでもある。対象の強さはどちらも未知数な為、より危険度の高い方に神の落とし子の人員を割くべきだろう。そこでルイは、上級悪魔を二人、爵位持ち悪魔を四人で振り分けた。編成は、ルイとアズマが上級悪魔。レオンとエリスはここで二人を支援する形となる。レザールとジャックとクリス、そしてもう一人の神の落とし子は爵位持ちの悪魔を担当することになる。そして、上級悪魔討伐担当グループも余力が残っていれば、爵位持ち悪魔の討伐グループに加勢することになる。
大方説明をして質問が無いか募る。そして質問に名乗り上げたのはコブラだ。
「爵位持ち悪魔の討伐グループはゲートを潜って魔界に行かないといけないんだったな? なら、そのゲートが使えるようになるまで、上級悪魔が倒されるまでは待機ってことでいいのか? 」
「いいえ。上級悪魔との戦闘前にゲートを開けます。現地へ行けば僕の魔力感知能力で探し当てることが可能ですので、それで透過したゲートを開けましょう」
ルイは各自戦闘までの手順を説明する。上級悪魔はゲートを潜って現世に現れることから、その悪魔の近くに透明化した状態のゲートがあると踏んでいる。上級悪魔に見つかってはゲートを潜るまでに体力を消耗してしまう為、ゲートを見つけるまではアズマとレオンとエリスで上級悪魔を引き付けておく必要がある。三人が耐えている間にレザール、ジャック、クリスを魔界へ送る。その後ゲートを開けたルイはアズマたちに加勢する、という流れだ。もう一人の神の落とし子にはその時次第の対応が必要となるだろう。
「……大体分かった。ゲートを見つけて開けるためには魔力感知能力が必要なんだろ? なら俺の邪眼、魔力を視る力でも代用は可能な筈だ。後から来るっつう神の落とし子は俺がゲートを開けて魔界に送る。これでアンタも戦いに集中出来るだろう」
「わかりました。では、その手筈で進めましょう。連携が取り難いかもしれませんが、どうかよろしくお願いいたします」
レオンを除いた全員が納得した様子で準備を始める。レオンはレザールとエリスも交えてルイに不満を打ち明ける。
「どうして俺は上級悪魔の方の支援なんですか? 俺はレザールについて行きたいんです」
「……やめとけ。魔界に行ったらお前を守ってやることが難しくなる。ルイはお前を戦闘に出したく無いところを、人手を補う為にお前を比較的安全なところに組み込んでんだ。少しは分かってくれ」
レザールの言葉にレオンは俯き口を紡ぐ。そんな様子を見てルイも困った顔を見せる。
「レオン、生き残ることを前提に何が合理的かを考えるんだ。感情にばかり従ってると遅かれ早かれ死ぬぞ」
レザールは語りかける様に静かに教えを説く。師としての教えだ。レオンの肩にポンと手を置き落ち着かせる。今度はエリスの方に顔を向けて語る。
「エリス、弾丸が当たらなくても焦る必要は無い。その時に出来る最大限のことをやればいい。何事も合理的に考えろ」
「わかった。無理はしない様にする」
エリスは強く頷く。そんな様子にフッと笑みを浮かべ手を頭に乗せる。
「ルイ、悪いな。レオンの今の発言は気にしなくていい。二人を、頼んだ」
エリスの頭をわしゃわしゃと雑に撫でると弟子二人とルイから離れて行きチャンバーチェックをし始める。レザールと離れることになり俯くレオンだが、溜息一つ吐くといつも通りを繕った笑顔で向き直る。
「変なことを言ってすみません。俺は俺の出来ることをやります」
「ーー……はい、お願いいたします」
レオンの言葉にホッと肩を撫で下ろす。エリスはよく言ったと言わんばかりに強くレオンの背中を叩く。そんなエリスにレオンは少し嫌そうな顔をするが、エリスなりの激励に頬をつねって返す。二人の様子を見て何とか作戦を決行出来そうだと安堵の溜息を吐く。ルイが見据えるのは魔力の反応がある方角。首に巻かれたマフラーを握り締め、眉間に皺を寄せる程に表情を強張らせる。ここからが勝負だと。