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四話︰かつての仲間達、破滅の始まり

 

 私、ビティはギルドで最強のパーティー『リセプション』のリーダー。

 足手まといの役立たず、ダアスをパーティーから追放したあの日から、もうすぐ三日が経とうとしていた。


 追放を宣言したあのときのダアスの顔は今でも鮮明に焼き付いている。


 驚きと絶望が混ざって呆然とするあの表情は滑稽な間抜け面で、涙を浮かべているのが馬鹿みたいで本当におもしろかった。

 もちろん足蹴にして電撃を浴びせた時の絶叫も玩具そのもので愉快だったし、一時間にわたる私刑を経て死にそうになりながらギルドハウスをあとにする後ろ姿は傑作というほかなかった。


 あいつがいなくなってからの数日間も『あのときの悲鳴は気持ち悪かった』『蹴りを入れたところが大きな青痣になって痛がっていた』などと、パーティーメンバー達と繰り返し語って笑い合う最高の時間を過ごせていた。


 パーティー全体にいい空気が流れ、無能のゴミも追い出せて、最高の状態で今日の朝を迎えたはずなのだ。


 私達は今日初めて魔物に敗けた。


「………………ふざけるなよ」


 別に特別な何かがあったわけではない。


 戦った魔物はたかがCランク。

 いつもの通りに街から降りて、いつもの通りの陣形を組み、いつもの通りに魔物を嬲る。

 足手まといは一人消えたけれどそれ以外は何も変わらない、粛々とこなせばそれで終わりの退屈なくらいの流れ作業だったはずだ。


 にもかかわらず私達は敗けた。

 私の雷撃は何故か狙いがうまく定まらず、ギリギリのところで地面に吸われた。

 アネモの炎弾もあらぬ方向へ飛んでいき、リエの風弾に至っては収束が甘く魔物に当たる前に霧散した。


 無傷で逃げ切れたのは『魔物に近づかれる前に遠距離から魔法を飛ばして殺す』といったパーティーの基本方針があったから。明らかな異常が見られた時点でも魔物は遠く、討伐を諦め逃走するという選択肢を取れた。


 そう、最強のパーティー『リセプション』が雑魚を前にして敗走を選んだのだ。


 忌々しいにも程がある時間を経て、現在私達はギルドハウスへと戻ってきている。

 部屋の中には私のほかに、リセプションのパーティーメンバーが二人。『なんで敗けたのかわからない』とでも言いたげな様子で顔を青くして呆けている。


「ふざけるな」


 全部全部、私の足を引っ張るこの二人のせいだ。


「…………ふざけるなよゴミ共!お前達がクズなせいで失敗したんだぞどう責任とるつもりなの!?…………なぁ黙ってないで答えろよ!なぁ!」


 私の叱責に対し『いや』とか『でも』とか慌てて言い訳を始める二人。

 腹立たしいことこの上ない。軽く電流を流してやると小さく苦悶のうめき声をあげる。それでも気分は収まらない。


 怒りで頭がおかしくなりそうだった。


 私はギルドで最強のパーティーのリーダー。大亀に近づく魔物の群れを幾度も殺し、それだけ街の危機を救ってきた。

 街の奴らは全員私のおかげで生きているといってもいい。命の恩人なのだから正常な倫理観があるなら敬い、畏れ、もてはやすべきだ。


 足を引っ張り私を負けさせたパーティーメンバー二人。

 私が負けるような魔物を担当させたギルドの職員。

 私に負けない愚かで醜い魔物。


 何に対しても腹が立つし全員まとめて死ねばいいと心から願う。

 特に目の前で怯えた目を寄越すメンバー二人。法が許せば最大威力の雷撃を流し込み即死させてやりたいこいつらのせいだ私が負けたのはこいつらのせいだ腹が立つ腹が立つ腹が立つ────


「………………あっ」


 ────否。ちがう。


 私が負けたのはこの二人のせいではない。


「よく考えたら私達が負けたのってダアスのせいじゃん!」 

「「…………えっ」」


 そうとも。


 だって、あんな役立たずを長年パーティーに入れていたのだ。

 自覚がなくても私達は多大なストレスを受けているはずだし、そんな状態で十全なパフォーマンスを発揮できるわけがない。


 間違いない全てはあいつのせいだ。あの無能のせいで私は魔物に負けたのだ。


「よーしそれじゃあ責任取らせよう!今からあいつ探してリンチにして甚振ってやろうぜ!」


 そんなわけでギルドハウスを出てダアスの元へ。


 優秀なパーティーにはギルドよりギルドハウスが与えられる。私以外のパーティーメンバーは皆ギルドハウスに住み込んでおり、ダアスも追放前まではここで暮らしていた。

 それゆえ惨めにパーティーを追放させた今、彼がどこに居を構えているのかはわからない。


 面倒ながらも街で地道に聞き込みを行い、出入りしていたという家を特定できたのは二時間後。

 アネモとリエを後ろに引き連れ、即座にその家に突撃する。

 ドアノブに手をかけるとくるりと回る。不用心なことに扉に鍵はかかっていなかった。


「おじゃましまーす!」

「えっ?…………えっ!?」


 入ってみると、よかったよかった、家の中にはダアスがいた。


「やっほぉ三日ぶりだね!死ねっ!!」


 リビングの椅子に一人腰掛けていた彼に、出会い頭に一発『雷撃』を放つ。


 バチン!と空気が弾けるいい音が鳴る。


「う゛あ゛!?あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛!?」


 突然の激痛に絶叫し、床に転がる惨めな彼に追加の『雷撃』を二発。

 力が抜けもはや痙攣するしかできなくなったところに馬乗りになり、思い切り顔面を殴りつけた。


「謝れッッ!お前さぁどれだけ私達に迷惑掛ければ気が済むんだ!?これまで食い扶持用意してやった恩をあだで返すとは驚きだ!恥というものはないのかよ!謝れ!」

「く゛っ!?痛っ……やめっあ゛っ!!」


 何度も何度も顔面を殴る。

 私の細腕では大した威力にはならないだろうから、目、鼻、側頭部を狙って殴る。

 途中で「ごっ、ごめんなさっ」と言い訳を言おうとするので『雷撃』。絶叫で謝罪をかき消し、謝ってこなかったので反省不十分とみなしさらに殴る。


 充足感が湧いてくる。


 私は最強のパーティーのリーダーで、街の人間は全員私のおかげで生きていて、ゆえに私の足を引っ張る無能のダアスは人類にあだなす害悪といえる。

 だから好きなだけ痛めつけていいし、後遺症が残っても許される。殴ったあとは脅して黙らせれば刑事罰が科されることもないのだ。


 楽しくなってきて思わず笑う。握りしめる拳に力が篭もる。

 べちゃ、べち、ぐちゃ、と妙に水っぽい打撃音が家の中に響きわたっている。


 季節は初春。張り詰めたような冷たい空気が緩み出す、命の芽生えの季節である。


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