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吾輩は大剣である  作者: 高邑洋史
1/3

異世界から持ち主が現れてくれません

吾輩は大剣である。

名前はまだない。というのも、持ち主が名づける習わしであるからである。

吾輩は、現在神殿の奥にある部屋らしいで、持ち主を待ちながら、持ち主である異世界からの来訪者を学びながら待っている。



「あんたさ、ぶつくさうるさいんだけど。学びの邪魔だから黙ってくんない?」


僕の右手から不満げな声が来た。鞭だ。

台座に持ち手を預け、長くしなる部分を揺らしながらしゃべる。しなる部分は徐々にふり幅を伸ばして、やがて床をピシッピシッとたたき出した。


「まあまあ。旅立った者がいて、心中穏やかではないのは察しますが、大剣に八つ当たりするのはお門違いですよ、鞭」


鞭のその先に座している、聖書が声をかける。落ち着いた声色を聞いて、鞭のピシッが心なしか弱くなった。


「先にこの間から旅立って行った者がいて、うらやましく思う気持ちもわかります。ですが、来訪者が来ない限り我々も動けませんから。」


そういわれ、僕は鞭とは反対側のほうに目をやった。

そこには僕らが座している台座と同じものがあるが、武器はない。

ここには杖があったのだが、先日、来訪者とともに旅立ったのだ。若い女性が先日この部屋を訪れ、杖を選び旅立って行った。


そう、僕らはここでひたすら、旅立ちを待っている。

僕らと一緒に旅立ってくれる来訪者を待ちながら、学びを深めている。

すでにこれから旅する世界のことはわかっている。この世界は、ウルスラと呼ばれており、北と東に大きな大陸があり、それぞれ1つの国が治めており、南西に渡り海原に大きく座すより大陸には3つの国が入っている。

僕らは、来訪者が来たらこの中のどこかの国に行くらしい。


そして今はこれからくるであろう、来訪者が今後この世界に適応できるような知恵を身に付けている。来訪者はこの世界のことを知らないし、この世界の人々も来訪者が来る世界を知らない。

なので、僕らがその橋渡しを行うのだ。

聖書が目の前に置かれている本の中から一冊を取り上げ、パラパラとページをめくった。


「今は来訪者との旅がいくらかでも実りが多くなるように、少しでも知恵をつけるべきでしょう」


「聖書が言っているのはすごーくよくわかるんだけどさ、大剣が古い本の内容からぶつくさ言うから、気になって仕方ないのよ」


鞭が再びピシッ床を鳴らした。


「だって、この言葉、声に出すと音の流れがよくないですか?僕、好きで…」


「好きなのわかったからって自分に置き換えて、勝手に想像してないでよ。

あんたみたいなごつくて武骨な大剣が言ってても、猫じゃないんだからかわいらしさ0なのよ!」


そういわれて、僕は肩をすくめたくなった。

といっても僕の幅が狭くなることはない。


「…そもそも猫という単語を想像するとほのぼのできるだけで、お話自体はそこまでほのぼのできるわけではありませんが…」


聖書が言いかけた時に、部屋の扉が大きな音を立てて開いた。


「では、カンジさん?でしたっけ?

旅をする際に一緒に同行する武器を選んでいただけますか?」


長い茶色の髪をした女神が部屋に入ってきた。髪のせいで顔は見えてないんだけど…なんだか、いつもよりも足音が荒々しい。

その後ろから来訪者が来る。金髪の髪に所々黒いものが混じる。

様子からすると若い男のようだ。


「そんなに怒らなくてもいいだろ?マジでかわいいし、好みなんだって。ちょっと触っちゃったのは悪かったとは思ってるんだけど…お、いいところに紐あんじゃん。ちょっとこれで…」


「げっ!」


なんだか下衆が透けて見えそうな言葉の後に、鞭に手が延ばされたため、鞭の嫌そうな声が響いた。来訪者のその手が鞭を掴む。

パンッと音がした。女神が手を叩いて、くるっと振り向いた。

満面の笑みをしている。


「それでは、行ってらっしゃいませ!というか、二度と戻ってくるな!」


笑顔のまま毒を吐いた瞬間、僕らがいた間の足元が透ける。


「え…うわあああぁぁぁぁぁ」


「最悪ぅぅぅぅぅ!!!!!」


そのまま、来たばかりの来訪者と鞭は、透けた先…なんだか鈍色をした雲の中に落ちていった。

心なしか、鈍色をした雲には煌めく光が見える。じきにそれは稲妻となって雲の中をのたうち回る竜のように現れては消えていった。


パンッ!


もう一度音がすると、床が元に戻る。 


「鞭は…なんだかとんでもない来訪者とペアになってしまいましたね…」


聖書の声が小さく聞こえたのだった。


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