rest5. あの日から
外は深夜で人がほとんど歩いていない。ここはサリアという町の、とある家の中。男がベッドの上で寝れないのか、ずっと宙を見ている。横のベッドには女性もいるが、その女性は普通に寝ていた。
そして、男はつぶやく。
「こんな僕を許して、会ってくれるのだろうか……」
ここ数日、寝ていなかったのか、目の下に酷いクマが出来ている。ただ、さすがに疲れ果てているのかウトウトしている。
そして数十分後、ついに寝息が聞こえ始めた。
・・・・・・
全てはあの日が分岐点だった。
可愛い娘にペンダントを送った、あの日。
とても素晴らしい笑顔をくれた、あの日。
そして……私からすべてを奪った、あの日。
全てはあの日から、すべてが変わってしまった。
悔やんでも悔やみきれない。でも、何が正解だったのかは今でもわからない。
ちょっとした遠出から帰ってきた日、故郷が戦争に巻き込まれた。
僕は大切な家族を守るため、先導係となった。
妻は娘を守る係となった。
すこしでも安全な建物へ行こうと走った。
だが、その道はちょうど戦場になる場所だった。
僕たちの場所に銃弾と魔法が飛び交う。
僕は大丈夫かと振り返った瞬間、妻の肩は銃弾で貫かれていた。
そして娘の手を……放してしまった。
僕の数歩手前で娘は倒れる。そして僕のすぐそばで妻は倒れこんできた。動けるのは僕しかいない。
まずは目の前にいる妻を助ける。そして娘を助けようとした瞬間、近くで大きな爆発があり、煙と埃で一瞬にして娘の姿が見えなくなった。そこは完全に戦場となってしまった。
妻は打たれた痛みで顔を歪めているが、必死に娘の名前を叫んでいた。
僕は娘を助けに行こうとする。だが、一緒に逃げていた人が僕の手をつかむ。
「お前!死ぬ気か!!」
「娘が……イロナが倒れているんです!!」
「馬鹿野郎!!こんな何も見えない状況で、どうやって助けるんだ!!」
「でも!」
「お前まで死んだら……この嫁さんはどうするんだ!」
「……」
僕は……妻を抱えてイロナの居た場所から逆方向に走り出した。今でもそれが正解だったのかはわからない。
妻はイロナの名前を叫び、泣き続ける。
その時から、僕はどう走ったのか、どう動いたのか、何も覚えていない。
気が付くと、建物の中に座り込んでいた。
横では妻がずっと泣いていた。娘がいなくなったのは私のせいだと。私がちゃんと手をつながなかったからだと。自分を責め続けていた。でもその時に僕は何も声をかけることができなかった。なぜなら、僕も娘を助けることができなかったからだ。僕も……僕自身を責め続けていた。
結局戦争は長引き、僕と妻は二人で他の町に逃げた。その町でもイロナを探すが、何も手がかりはない。そして、その町で妻の精神は持ちこたえることが出来なかった。とある朝、妻は起きると僕に声をかけた。
「あら。初めまして。私はザイーナと申します。ところで、ここはどこでしょうか……?」
僕は思いもしない言葉を受けて、何も言い返せなかった。落ち着いてから話しをしてみると、妻は戦争のことも、僕と出会った事も完全に記憶から抜け落ちてしまっていた。ただ、僕と出会う前までの記憶で止まっているようだった。
そう、僕は娘に続いて妻も失ってしまったのだ。
結局僕は、娘だけでなく妻も守りきることができなかったのだ。
僕は妻の記憶を戻せないかと色々試行錯誤した。だが、結局何も進展はなかった。
あまりの辛さから、その町も出ていくことにした。新しい場所で、記憶の無い妻と新しい思い出を作るために。そして娘を探すために。
次の町を考える時、ペンダントのことを思い出した。あのペンダントはサリアという町の特産物だったことを思い出す。僕は妻がペンダントを見ると記憶が戻るという可能性にかけてサリアという町に行った。そしてペンダントを買ってきて妻にプレゼントすると、妻が言った。
「イラロスさん、ありがとう!この模様がとてもきれいで大好き!一生の宝物にするね」
僕は、涙が止まらなかった。娘に言われた最後の言葉と同じ言葉を、記憶を無くした妻が言う。言われるまで、僕はその言葉を忘れていた。だが、言われた瞬間に思い出す。そして思った。こんな偶然があるのかと。
僕はその言葉に、限りなく奇跡に近いような可能性を見出す。『一生の宝物にする』……万が一、イロナが生きていて、そのペンダントを一生の宝物にしてれば……そしてそのペンダントの売っている町を探すことがあれば……
いや、こんな可能性は奇跡としか言えない。ほぼ0だ。そもそもイロナが生きていて、ペンダントをずっと持っていて、そのペンダントの売っている町を知らないといけないからだ。だが、限りなく0に近いのと0は全く違う。0では奇跡は起こらない。だが、0に限りなく近いだけであれば、奇跡は起こるという点で。
そう思った僕は、この町を新たな拠点とすることにした。幸いにも妻もこの町を好きになってくれた。そして年月が流れ、妻とも普通に暮らせるようになった。
そして、奇跡の日につながる。
そう、『イロナ』という名前で、顔もイロナにすごく似ていて、この顔を知っていないか?という妖精と出会った、あの奇跡の日に。
・・・・・・
男は目を覚ます。外はすでに朝日が出ていた。そして男は小さく呟いた。
「夢……か。走馬灯のような内容だったな……」
そう言うと、横で寝ている女性を見る。
女性は朝にもかかわらず、何の不安もないかのようにまだ寝ていた。
そして、家のポストに何か入る音がした。
男は普段通り、ポストに入ったものを手に取る。そこには手紙が入っていた。
その手紙を読んだ男は、その場で泣き崩れた。
『パパへ。ぜひママと一緒に喫茶「ゆずみち」に来てください。楽しみに待ってます。イロナ』




